第59話 君と食べよう食べられよう!(4)
腕の中に小さな愛しい生き物がいる。
ずっとこうやって抱きしめたままいたい。
それはとてもとても強力な誘惑。
でもそれでは今の綾瀬を失ってしまう。
そうはさせたくない。
綾瀬は対等な友人であってほしい。
例え恋人とかではなくても。
だから俺は口を離す。
ちょっと不満げにこっちを見る綾瀬の後頭部に手をまわす。
そのまま腕をちょっと曲げて斜めから口を近づける。
今度は俺から綾瀬に与える番。
既に結構万能な綾瀬に与えられるものは少ないかもしれないけれど。
綾瀬は俺の口づけを素直に受け入れる。
だから全力で綾瀬に俺を流し込む。
色々な感謝と想いを載せて。
綾瀬の体が小さく震える。
愛しくて思わず抱きしめる。
やばいくらいに気持ちいい。
と、前にも感じた視界の変化。
ここまでか。
俺は口をゆっくり離す。
綾瀬がうるんだ眼で顔を赤くしてこっちを見る。
やばいほど色っぽい。
単に襲わないのは俺の体力が限界近いから。
綾瀬はぎゅっと俺を抱きしめる。Tシャツ一枚を通して裸の胸の感触が暖かい。
その気持ちよさを感じながら俺の意識が遠のいていく。
しまった、今回もちょっとやり過ぎた……
◇◇◇
気が付くと夜が近いだるい陽光がカーテン越しに見えていた。
ただわずかに残る香りだけがここにいた誰かを感じさせた。
そして俺は新しい自分の感覚に気づく。
それは時間も空間も超えてどこまでも広がる視界。
ほんのちょっと意識するだけで色々なものが見えるし感じられる。
○ 部屋のベッドで熟睡中の綾瀬も
○ 同じく睡眠中の委員長も
○ パソコンと妙な本を交互に見ながら意味不明な数式を書いている松戸も
○ 三時のおやつの特大プリンを食べている守谷も
全部直に見ているようにわかる。
更に意識を飛ばせば前に松戸と出会った世界の果てすら知覚可能。
手を伸ばせばきっと手が届くし一歩踏み出せばそこへ行くことも出来そうだ。
これがきっと綾瀬が見ている世界で、綾瀬の能力の一部分。
逆に俺は綾瀬に何か与えることが出来ただろうか。
そう思って気を失う前の綾瀬を思い出して……
思わず体の一部分だけ元気になる。
いかん、静まれ、俺の一部分!
◇◇◇
なお、次の日の朝四時。
俺は綾瀬にたたき起こされた。
そのままアメリカはロサンゼルスまでお買い物。
ラルフスとかホールフーズとかお気に入りのパン屋とか。
でっかい店を体力の限界近くまで引きずり回された。
綾瀬は俺から見た限りは平常通り。
でも俺は始終どきどきしっぱなしだったのは言うまでもない。
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