第5章 嵐の予感

第54話 嵐の先触れ

 夏の終わりは物悲しい。

 最初にそう言ったのは誰だろう。

 そんな事を思いながら俺は早朝の他間ニュータウンを飛行していた。


 ちなみに俺はどうかというと、夏休み終わりが悲しいのが半分。

 余分で危険な出来事にあわないで済むのでほっとするのが半分だ。


 なにせ女子あぶれ者の夏合宿、第2回目まで開催されてしまったのだ。

 面子は全く同じ。

 内容も全く同じ。

 最終日夜の開放タイムまで全く同じだ。


 今回は他人に剥かれるのだけは回避した。

 燃え尽きて灰になるのは回避できなかった。

 自分の未熟さが悲しい。

 でも健康な高校生男子なら当然だろう。


 今日は虎男勝田君の部屋で開催された宿題丸写し大会の帰り。

 各自で分担していた宿題を相互に見せて写し合う健全で効率的な文化交流だ。

 俺の担当は数学ドリル後半。

 苦手にしている奴も多いが文章題中心の後半は問題数が少ないので実は楽だ。

 少なくとも計算問題5問よりは文章題1問の方がいらいらしないで済む。


 効率的な宿題丸写し大会が終わってのんびりと家路へと飛行中。

 俺の視界に、ふと俺と同じ位の飛行物体が写った。

 速度はかなり速い。

 俺の全速と互角かそれ以上。


 誰だろう。

 俺の知っている中には該当する飛行性能を持つ者はいない。

 それに見え方が変だ。妙に姿がかすれたりボケたりしている。

 方向は、学校へ直行コース。

 俺も速度を上げ、飛行物体の後を追う。


 飛行物体は俺が後を追い始めるとゆるい弧を描いて進路を変る。

 俺を誘うかのように速度を落としこの辺りで一番高い福笑書店のビル屋上へ着地。

 無論俺も高度を上げビル屋上へ。


 見知らぬ顔の少年がコンクリの出っ張りに腰を下ろしていた。

 少年というか今の俺の外見年齢と同じくらいの年恰好。

 くすんだ金色の髪。

 鼻筋の通った典型的な白人系の顔立ち。

 身長は俺よりやや高いから175センチくらいだろうか。

 中肉中背。

 学校では見ない顔だ。


 彼は俺を見て笑いかける。

「ここへ来れば会えるかと思って来たのだけれど、思った以上に簡単に会えたね」

 親しげに話し出すが、俺はこいつを知らない。


「いきなりだから用心するか。まあそうだろうな」

 俺の耳にかすかに緊急警報が鳴っているのが聞こえる。

 空耳ではない。

 学校の警報音だ。


 学校の指揮所では騒ぎが起こっているだろう。

 でも先遣隊がここへ来るのは時間がかかる筈だ。

 空間歪曲を利用した障壁がこの周辺に展開中だから。

 勿論それを行っているのは目の前の見知らぬ彼だ。

 しかも隠蔽障壁も展開されているのがわかる。

 これではこの場所を突き止めるのも困難だろう。


「安心してくれ。僕は君達の敵ではない」

 天眼通は彼が言っている事は嘘ではないと判断している。

 ならこいつは何者だ。

 俺はまだ体勢を崩せない。


「用心深いな。まあ仕方がないな。でも僕は単に君に会いに来ただけなんだ。僕と同じく作られた者である君にね」

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