第53話 男にしかわからない辛さ

『大変ですイベントの予感です危険なのです』

 念話でそんな台詞を垂れ流している。


「どうしたみらい」

「敵でも来たの」


 守谷は勢いよく首を横に振る。

『敵ではないのです。楽しい楽しいイベント発生の予感なのです!

 逃すと悲しいので危険なのです』


 何だそれ。

 とりあえず敵ではないらしいので身構えた姿勢から力を抜く。


「うーん、みらいちゃんには感づかれたか。流石歩く人間指揮所ね」

「イベントの予感は見逃さないのです」

 守谷の会話もちゃんと念話から声になった。

 しかし何をやる気だろう。

 イベントとは一体。

 微妙に悪い予感がする。


「月が綺麗だし何か幻想的だし今日で最後だから。この機会を逃せば二度と出来ないことを皆でやりませんか」

 白い砂浜とあふれんばかりの星空と海。

 そんな最高の背景の前でスタイル最高の黒ビキニ美少女が微笑む。

 ただその松戸の笑顔が微妙に黒く感じるのは俺だけだろうか。


「何を」

「水着開放」

 おい松戸。その件はもう無しじゃなかったのか。


「完全プライベートビーチ貸切だし、佐貫ともこれだけ一緒にいたから気にならないでしょ」

「そうね、私もやってみたいです、これを逃せば二度とこんな機会無いです」

 こら守谷、お前まで何を言うんだ。

「同意」

 綾瀬、お前もか。

「ん、賛成多数ね。まあいっか、佐貫さえ気にしなければいいんだもんね」

 委員長、お前まで。


 俺はトレーラーに逃げようとする。

 だが瞬間移動した松戸に背後からびしっと両腕を確保された。


「裏切者一名確保よ。折角だから、先に剥いておきましょう」

 背中にあたる柔らかい感触が気になるが、そんな問題じゃない。

「おい松戸、気を確かに。頼むから正気に返ってくれ」


 ちなみに松戸は既に自分の水着の上を外して左手に持っている。

 ってことは背後の感触は生乳!

 これが、この何か柔い暖かいのが!

 いや、そんなの感じている場合じゃない。

 問題は俺自身の危機だ。


「ん、そうね。先に剥いておけば障害も無くなるかも」

 委員長、お前までそんな事を言うな。

 綾瀬変なところに手をかけるな。

 守谷妙に笑顔でズボンの紐ほどくな。

 頼む正気に戻ってくれ。

 助けて……!


 ◇◇◇


 結局全員で全開放して、海水浴したりビーチボールで遊んだり。

 皆、すごいあっけらかんとごく自然に皆で遊んでいた

 でもきっと俺だけ笑顔が硬かっただろうと思う。


 夜が明け始めた頃遊び疲れて服を着て。

 そして皆さん就寝。

 でも俺だけはギンギンに眠れなかった。


 次の朝ご飯を食べて荷物撤収して学校に戻って。

 解散して逃げるように部屋に帰って。

 やっと色々処理しまくって真っ白に燃え尽くして。

 燃えかすの俺が倒れるように眠ったのは言うまでもない。

 ちーん……

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