第52話 最後の明るい海辺の夜

 結局その後はしばらく池でだらだら遊んだりなんかして。

 日がかげってきたので慌てて皆でいつもの砂浜に移動。

 晩御飯を作って食べる。


 今日もメニューは巨大アジ中心。

 でも昨日と趣向がちょっと変わって洋風メインだ。

 結局飽きるなんて言葉もなくあっさり完食。


 個人的に思ったのは、巨大アジの刺身は釣った直後より2日目の方が美味しい。

 歯ごたえはちょっと落ちるが旨みが全然違うのだ。

 料理も南蛮漬けやら本気オリーブオイル使用のカルパチョとかグレードアップ。


 「美久ちゃんがお嫁に欲しいです!」

と誰かさんが半ば本気で言ったのも頷ける。


 ちなみにその意見は松戸に

「食べてすぐ横になるような無作法な人にうちの娘はやれません!」

と却下された。

 どういう人間関係だよ、お前ら。


 とまあ、夕食が終わって片付けも終わって就寝時間。

 昨日と同じく無制限念話テロが始まったのでテロ張本人以外の4人は海岸にいる。

 たっぷり遊ぶつもりらしく皆水着だ。

 でもとりあえずは砂浜に腰掛けてダベリング。


「ん、彼氏できる前にみらいのあれ、直したほうがいいかも」

「どうでしょ。彼氏なら無作為念話あれも可愛いとか愛しいとか思うんじゃないかな」

「彼氏なら寝る前に思い切り疲れさせて寝言すら言わせないのも方法論」

 ……綾瀬さん。その意見。

 内容を考えるととっても過激な気がするのですが気のせいでしょうか。


「それにしても綾瀬も松戸も料理上手いんだな。終わってから普通の食生活に戻れるか何か不安になる」

「私のは知識だけよ。上手なのは美久」

「でもユーノ色々料理方法知っているし材料の知識も豊富だし店もよく知ってる。一緒に料理すると勉強になる」


 謙遜し合っている。

 でも多分きっと両方とも上手なんだろう。

「どっちにしろすごく美味しかった。このレベルで美味しい料理連続で食べたの、多分初めてだ」

「ん、私も同感。真似したいけどちょっとやそっとじゃ無理だなあ」

 全くだと俺も思う。


 昨日と今日の刺身の一枚の身の厚さの違いとか、昼のサンドイッチのハムの一見無造作に見える切り方とボリュームとか、おそらく全てきっと最適値。

 知識と経験と計算と腕とで支えられた絶妙なバランスの産物だ。

「半分以上はユーノの知識」

「でも私は知識だけだからね。本質的には美久の腕だよ」

 多分両方ともとんでもないレベルなんだろう、きっと。


「どっちにしろすごく美味しかった。ありがとう」

「……何ならたまには作ってやってもいい」

「あ、凄くうれしい。ありがとう」

 思わずこう言ってしまったことを俺は後日後悔することになるが、それは別の話。


「それにしても、夜が明るいね、ここ。昨日もそう思ったけれど」

 松戸がそう呟くように言う。

「ん、確かに明るくてちょっと幻想的。何か現実感ない感じ」

「同意。いい感じ」


 確かにそうだ。

 青白く光る月もいつも以上に輝いて見える星空も。

 白くくっきり見える星砂の砂浜も、穏やかで星空に光る海も。

 見慣れた3人でさえ、ちょっと幻想的で綺麗に見える。


 と、不意に松戸がにやりと笑ったような気がした。

 何か悪いことを思いついた、そんな感じに。

 ふいに勢いよくエアストリームの扉が開かる。

 中から守谷が飛び出してきた。

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