第44話 現地調達でも美味しい昼食

 昼食は黒鯛もどきのカルパチョとフランスパン、黒鯛の出汁のスープになった。

 活躍したのは綾瀬だ。

 黒鯛もどきもうろこ落としから3枚おろし、柵を取って刺身とするまで小さい包丁であっさりとやってのけた。


 その包丁、綾瀬が持ち込んだマイ包丁とのことだ。

 本人曰く普通の包丁より刃が入りやすくて切りやすいし包丁本体も安いとのこと。

 一見ちょい長いナイフにしか見えない、

 しかも薄刃。

 ただ刃が波刃でグリップがいかにも持ちやすそうな樹脂製なのが他と違う処だ。


 さて料理。

 基本は魚を含めその辺で取ってきたものだから品数は少ない。

メインの魚、スープ、フランスパンのみ。

 しかし見るからに美味しそうだ。


 白身に赤色の部分交じりの如何にも美味しそうな切り身にはオリーブオイルと醤油主体の綾瀬特製ソースがかかっている。

 スープには委員長が天眼通で選んで摘んできた美味しい筈の野草入りだ。

 フランスパンだけは残念ながら日本メーカー製の一般品だが。

 それをダークオークとアルミ基調の豪奢な室内で海を見ながら水着でいただく。

 ここは天国か。


 皆で『いただきまーす!』と声を合わせてから、俺は黒鯛もどきの切り身を頂く。

「お、美味い」

 新鮮な魚のこりこり感と、醤油ベースのたれと魚の脂がマッチして美味しい。


「綾瀬うまいなこれ」

「料理は好き」

 綾瀬はいつもよりちょっとだけ笑顔でそう答える。

 うん、萌えという奴の意味が理解できた。

 危険だな。


 次はオリーブオイル多めのところを取ってパンに併せ緑の葉っぱも載せて食べる。

 やはり美味い。

 正直いつもの自分の食事よりよっぽど美味い。


「この魚簡単に釣れる?」

 綾瀬が聞いてくる。

「簡単。餌はその辺で取れる蟹でいいしさ」

「この魚美味しい。私も釣りたい」

 料理好きは食材もお望みのようだ。


「いいよ、簡単だし」

「ねえ、どうせならもっと大きい魚狙わない」

 松戸が口を挟んでくる。

 ただその提案は魅力的だ。


「どうするんだ」

「ボートを出す。深いところならもっと大きい魚いるでしょ」

「ん、いいね。午後はボートでクルージング」

「あ、私もです」


 午後の予定は自動的に決まったようだ。

 そんな声の中、俺は今度はフランスパンをスープに浸して食べる。

 うん、これもなかなかいける。

 魚の出汁とちょっと青っぽい草の香りが凄くマッチしてパンにあう。

 というかこんなに簡単にこんな美味いものが出来ていいんだろうか。


 ◇◇◇


 単にゴムボートというには随分とでかくて頑丈だ。

 大きさは多分畳4畳くらいはあるし、床もゴムではなくアルミ製だ。

 そんな巨大ボートも組み立ては割と簡単だった。

 トレーラーの電源にエアポンプを繋いで、モーターで空気を入れる。

 あとはアルミ板を床に敷けば完成。


 松戸が手慣れた感じであっさり組み上げた。

 聞くとアメリカ時代は結構こういう事を家族でしていたらしい。

 白衣の変人研究者のイメージとは大違いだ。


 ただ、頑丈で大きいだけあって結構重い。

 俺が砂浜をずるずる引っ張って何とか海に持っていく。

 後を釣りセットその他を持った女子4名がついてくる。


 浅い場所にボートを浮かべ、前一人分開けて次の列に委員長と守谷、後ろに松戸と綾瀬が乗り込んだ。

 俺はというと、ボートの前フックに結び付けたロープを持って空中へ。

 つまり俺が空を飛んでボートを引っ張る。

 前2人はボートクルージングを楽しむ。

 後ろ2人は大物釣りを狙う。

 そういう布陣だ。


 俺ばかり重労働のような気もするが、実は空を飛ぶのはそれほど体力を使わない。

 本音を言えば水着の女の子に密着してボートに乗るよりよっぽど気が楽だ。

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