第42話 旅立ちはエアストリーム

 7月24日。

 夏休み前の授業終了後の早朝3時30分、まだ暗い学校の駐車場。

 そこに銀白色に光るアルミ製超高級キャンピングトレーラーが鎮座していた。


「おいおい、エアストリームかよ。松戸の家って金持ちなんだな」

 俺は思わずそんな事を言ってしまう。


「このキャンパー知っているの?ならうちの父も喜ぶわ」

「普通の新車が5台以上買える値段するだろこれ。そんな気軽に借りていいのか」

 ニート時代にWebか何かで見た事がある。

 確か新車だと1500万とかしなかったか、これ。


「向こうで中古で買ったから高くないって。日本に帰ってから使っていないしね」

 松戸は帰国子女だったのか。

 確かにそんな雰囲気は無い訳でも無い。

 傍若無人なところとか。


 早速中へ入ってみた連中から歓声が上がる。

「なんでしょうこの雰囲気、高級ホテルみたいです」

「上質の薫り」

「ん、こんなところで生活できたら素敵かな」

 それはそうだ。アメリカが世界に誇る最高級キャンピングカー様だ。


「一応水もガスもバッテリーも発電機の燃料も満タン。普通に暮らせば一週間は大丈夫な筈だよ」

 俺と松戸も乗り込む

 そしておれは思わず心の中で手を合わせる。

 松戸のお父様ありがとうございます。

 どう見ても下手なホテルより高級で快適です。


「美久、向こうの状況は大丈夫かな」

 松戸は入口の扉を閉め、綾瀬に声をかける。

「今も継続して確認中。問題ない」


「じゃあ、行くね」

 松戸の言葉とともにふっと窓の外の景色が消えた。

 何か瞬いているような灰色のような不思議な感覚。

 この前瞬間移動した時と同じだ。

 今度は巨大なキャンパーごとだけれども。


 外の風景が変わり、車体がガクン、と揺れた。

 窓の外に現れたのは、まぶしいばかりの青い空と白い浜辺、そして紺碧とエメラルドグリーンが共存する海。


「暑いけど不快な気温じゃない筈よ。だから窓を開けましょ」

「ん、了解。あと女性陣着替えるから佐貫は外。天眼通も使用禁止ね。発動を確認したら本気で殺すからね」

「はいはい」

 別に見る気も……見たら本当に殺されそうだからやめておく。

 俺はダークオークを基調とした快適な部屋から追い出され、外へ。


 砂浜よりちょっと高い草地。

 そこに銀色の超高級キャンピングカーは若干タイヤが埋まるように駐車していた。

 背後は森林というか熱帯雨林っぽい樹種の密林。

 前は妙に目にまぶしい程の白さの砂浜。

 俺は砂をちょっと手に取ってみる。

 うむ、見事な星砂。


 見える海は正面こそ普通に砂浜の入江。

 でも両脇に広がるエメラルドグリーンはどう見てもサンゴ礁。

 これは絶対日本じゃない。

 どこに連れてきたんだろあいつらは。


 まあそう思っても確かめる術はない。

 それに気温も環境も確かに快適だ。

 見事に南国気分の風景なのに日本の夏より暑くないというか不快じゃない。

 これは確かに楽しいかも。


 砂浜に所々違和感を感じる部分がある。

 そんな場所をよく見ると小さな砂模様の蟹が走っている。

 釣りの餌にちょうどよさそうだ。

 そんなところまで何か楽しい。

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