第38話 俺、パワーアップ(委員長はもっと……!)

「まあ、あくまでも伝説みたいなものですけれどね。知っている人も少ないし、知っていても本当だと思う人はもっと少ない、単なるお話よ。

 でも神聖騎士団は今でもビーストの存在を信じているし恐れている。数百年経った今でもビーストの所在を探している。

 この学校を定期的に襲っていたのもそのため」


 話はわかるが疑問が少し。

「随分お詳しいですね、神聖騎士団の事まで」

「現状認識が出来る能力者がいるのよ。だからお互い隠し事は出来ないの」

 なるほどと俺は納得する。


「まあ今のはあくまでも余談。参考程度で十分よ。

 かつてそんな物語があった。それだけの話。

 それで君自身がどうこう考える必要は無いわ。

 あと柏さんの身体は異常なし。眷属化とかも無いから安心して。

 もっとも責任を取りたかったのなら別だけれども」


 ぷるぷる、俺は首を横に振る。


「君の身体も異常なし。生命力を使い過ぎて気絶していただけよ。

 だから起き上がれればもう大丈夫。歩けるならもう帰っていいわ」


 お許しが出たので俺は起き上がる。特に異常は感じられず。

 両手を動かしてみる。異常なし。

 ベッドから出て立ち上がる。


「あ、取手先生から伝言。今日も授業休みだからそのつもりでって。まあもう授業あるなら夜休みの時間だけどね」

 そんなに寝ていたのか。

 時計を見ると針が12時を指していた。

 外が暗いところを見ると昼では無く真夜中の十二時だろう。

 俺は馬橋先生に礼を言って部屋を出る。


 部屋を出た瞬間、突如色々な情報の群れが俺を襲った。

 色々と見えるし色々感じられる。

 今までの俺には無かった感覚だ。

 どうも保健室の中は色々障壁シールドがかかっていたようだ。

 だから出た途端それらの情報が感じられたのだろう。


 ちょっと考えると理由がすぐ浮かんでくる。

『能力、天眼通、物事の本質や経緯等を見る事が出来る能力』

 これはと考えて思い当たる。

 そう、委員長の能力だ。

 俺が委員長から吸血した際、委員長の能力の一部を取り込んだようだ。

 とすると委員長自身の能力は大丈夫だろうか。気になる。


 委員長の事を考えると自然に今の居場所とか何をやっているのかがわかる。

 校庭の体育館脇。

 俺達がトレーニングを開始する時のいつもの場所でストレッチをしている。

 これも天眼通の能力のようだ。


 俺は廊下を通りゆっくりと階段を下りて、いつものルートで歩いて行く。

 天眼通で見た通り委員長はそこにいた。

「訓練中?」

 声を掛ける。


「ん、大分限界が上がったからね。慣れないとこの体を使いこなせない」

 委員長も俺に気づいていたらしい。

「それで委員長の能力そのものは大丈夫か。何か俺も取り込んだらしいけれど」


「ん、弱まった能力は無いよ。逆に色々強化されてちょっと慣れない感じかな」

 俺は委員長の能力を奪ってしまった訳でないようだ。

 なら良かったと一安心。


「あまり無茶するなよ。死にかけたばかりだろ」

「ん、無茶したのはお互い様でしょ」

 委員長にあっさりそう言われると否定できない。

 でもまあ、場の勢いとかそういうものがある訳で……

 まあ確かにお互い様だな。


「それにしても、これから佐貫、集中的に狙われるね」

 えっ、俺は思わず委員長の顔を見る。


「ん、騎士団とビーストの関係。私も一応知っているし馬橋先生にも言われたよ。近くにいるつもりなら覚悟しておけって」

 そうか……俺は気づく。


「これからは別々に行動した方がいいかもな」

「ん、何で」

 委員長が聞き返す。

 わかっているのに聞き返してくる。

 でも、あえて言う。


「神聖騎士団は俺を集中的に狙って来るんだろ。近くにいて巻き込みたくない」

「でも佐貫一人の方が危ないじゃない。悪いけどまだ私の方が強いと思うよ。大分パワーアップしたし」

 否定できない自分がちょっと悲しい。


「だから諦めて、当分は一緒に訓練しよ。それに騎士団も戦力出したから大分弱体化している筈だし。だからそっちは当分大丈夫」

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