第35話 委員長の決断(2)

 血の臭い。

 俺が気づいたのはその臭いのおかげだった。

 吸血鬼の本能だろうか。


 目を開ける。

 俺は血まみれの誰かを抱きかかえていた。

 それは……委員長!


「委員長、大丈夫か」

『ん、良かった、意識が戻ったんだね。ならもう佐貫は大丈夫』

 ちょっと待て、その言葉の真偽はともかくだ。


『委員長の方こそ大丈夫か。大分傷が酷いぞ』

 ただ見える傷の数の割には出血量は少ない。

 だからひょっとしたら大丈夫かな、という思いがかすかに俺の頭の中にある。


『ん、まず良いニュースから行くよ』

 委員長の口調、いや念話は妙に明るい。


『敵は全員撃破しました。さすが佐貫の身体の本気は凄いね。この前以上の全力で操ったんだけれど操作するだけでも私の能力の限界だったよ。でもまあおかげでこのとおり、敵はもういません』


『それで悪い方は!』

 凄く嫌な予感がする。


『ん、私の状態。意識があるうちは術だの色々な方法で出血を止めておけるけれど、そろそろ限界かな。多分あと3分持たない。意識が切れるとほぼ同時にゲームオーバー』

 そんな悲惨な内容はあっけらかんとした感じで語る。


『何か方法は無いのかよ。学校側も気づいているんだろう』

『ん、学校側も必死でこっちに向かっているよ。でも私の天眼通によるとあと一歩で間に合わない計算です。という事で私は死亡確定。予想通りの結果なんだけどね。

 そこで佐貫に私の最後のお願いです』


『何だよ。委員長おまえが助かるなら何でもするから早く言え』

『残念、私はもう助かりません。それで最後のお願いというのは、どうせ死ぬなら私を有効活用して下さい、というお願いです』


 何だそれ!

 そう思うが委員長の状態は確かに悪い。

 とにかく話を聞くのが先決だ。


『何だよ、早く言え』

『ん、私を食べて下さい、というお願いだよ。ただここで死んじゃうだけなら、せめて佐貫に有効活用して貰いたいなと思って。そうすれば佐貫の中で私が生きている気分になれるじゃない。

 具体的方法を言うと、私の首筋に口を近づけてみて。それで本能的にどうすればいいかわかると思う。佐貫の全力を借りた時に色々データを見てわかったんだ。という訳でお願い、意識をこれ以上持続させるの、結構苦しいんだから』


『本当に助かる方法は無いのかよ』

『ん、全部私自身承知の上。囲まれた時点でこの方法しか無いのがわかっていたんだ。だから最大限に佐貫の身体能力が生かせる場所へと移動した。結果佐貫は助かった。全部私の予定通りだよ。

 そういう訳で、私もそろそろ限界です。佐貫も覚悟を決めましょう』


 本当に助ける方法は無いのか。

 でも、俺にはわからない。

 委員長もそれ以上言ってくれない。

 そして時間は刻一刻と委員長を削っていく。


 だから俺は委員長の言う通り、首筋に口を近づける。

 確かに本能が俺にやり方を教えてくれた。

 俺の口内に精神的な刃が伸びる。

 吸血鬼が血を吸う、その牙だ。


 実際に吸血鬼が吸うのは血では無い。

 相手の意志とか経験とか知識とか思いとか、そういった精神的なもの。

 俺の牙がゆっくりと委員長の首筋を襲う。


 俺の中に暖かい何かが流れ込んでくる。

 これは、確かに、委員長だ。

『ん、何か気持ちいいね。ちょっとエッチな気分かも。ありがとうね……』

 そして次の瞬間、俺の脳裏に俺のある能力が突如流れ込んできた。

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