第34話 委員長の決断(1)

 少しだけ意識が戻る。

 身体が揺れる感覚。

 そして暖かな感触。


 俺は委員長に背負われていた。

 おいおい、何なんだ。

 でも何故か動く事が出来ない。

 声すら出せない。


 委員長は俺を背負って走っている。

 委員長でも俺を抱えて速い速度で走るのは無理そうだ。

 訓練後だしな。

 何とか歩くより少し早い速度で移動中、って感じ。


「ん、意識が戻ったかな。今歩きながら回復術をかけているの。聞こえる?」

 意識は何とかあるが言葉が出ない。

 でもその状態は委員長に伝わったらしい。


『意識があるようだから説明するね。あと念話のチャンネル開いたから思うだけで会話は可能だよ、』

『委員長、逃げろ』

 こんな速度では敵に追いついて下さいというようなものだ。

 委員長だけなら走れるだろう。

 そして委員長の足ならここから5分程度で学校まで戻るのも可能だ。


『ん、駄目だよ。そうしたら確実に佐貫を置いていっちゃうじゃない。それは私としてあり得ない選択だね』

『そう言っている場合じゃないだろう。とにかく委員長だけでも逃げて学校へ知らせないと』

 俺の身体は動かない。俺の意識では動かない。

 目を開けるのがやっとの状態だ。


『ん、学校側も気づいているよ。敵が術を使ったからね。でも応援はすぐには来ない。瞬間移動が出来ないように敵側の術がかかっているから』

 委員長は状況を説明してくれる。

『さっきの侵攻の際、反対側の遠いゲートから隠蔽術をかけたまま侵入してきた敵がいたんだと思う。隠蔽術以外は一切使わないで歩いてきたからみらいや三郷先輩、校長のレーダーにも引っかからなかった。

 それがたまたま空を飛んでいた私達に見つかって、戦闘を仕掛けてきた。そんな感じ』


『だったら余計に早く逃げてくれ。俺はそう簡単に死なないから』

『ん、吸血鬼も東洋龍も殺し方によってはあっさり殺せるんだよ。それにね、佐貫は私が回復術をかけ続けているから意識があるだけで、さっきの術でいわゆる気力をほとんど失っている状態なの。だから置いておいたら意識失って最後って感じだよ。

 それにね、もう……』


 広い道路同士の交差点のど真ん中で委員長は足を止める。

『囲まれているの。逃げるのはちょっと、無理かな』


 俺達を囲むように景色にもやがかかる。

 それが固まると上下ともに白装束の男達の姿になる。

 俺達を囲むように8人。

 そのうち背の高い1人が不気味な笑いを浮かべる。


「見つかった時はどうなるかと思ったが、まさかいきなりビーストに出会えるとは。実に大司教様の御言葉の何と正しくも御力あらたかなることか」

 わけのわからない事を言っている。


『ごめんな、最初から無理しても1人で逃げて貰っていれば』

『ん、最初の時点で逃げられる可能性はほぼ無かったんだよ。だから私はここに来たの。この出来るだけ広くて足場のいい場所に』


 えっ、何だって。


 視界の方では相変わらず白装束のおっさんが両手を上に広げ、ラリっているかのように喋っている。

「おお、悪龍に力を与えられし憎きビーストよ。この悪しき存在を我らが手で討ち滅ぼす事が出来る事を大いなる存在に感謝致します……」


 そっちを全く無視して委員長が念話を送ってくる。

『今のうちに謝っておくね。ごめんね、そして今までありがとう。

 私には佐貫が助かりそうな手段、ひとつしか思い浮かばない。

 これからやる事は私の意志。だから自分自身に文句は言わないでね』


『おい、待て委員長何を……』

 俺自身の意識が、視界が、感覚が一気に途切れた。

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