第33話 俺、撃墜される

 例によって地獄の訓練もひととおり終わり、クールダウンのランニング中。

 ただ最近はこの訓練にも大分慣れたな。

 少なくとも帰りに歩くのも辛いという状態は無くなった。


「ん、そう言えば飛行能力の方はどう。大分上がった?」

「一応」

 飛行の方もやっぱり訓練はしている。

 まあ飛ぶのが楽しいからというのもあるけれど。

 この前は10分以上飛んでいる事が出来た。

 速度も最初に比べて大分速くなっている。

 どうも一度発現した能力は訓練で簡単に伸びるようだ。

 まあある程度の処まで伸びたら別なのだろうけれども。


「ん、何なら私も一緒に飛べる?」

「多分」

 やった事は無いが多分大丈夫だろうという気がする。

 その辺りの能力の具合は何か感覚的にわかるのだ。


「ん、どうすればいい」

 おい、今かよ。

 まあいいけどさ。

「手をつなげば、多分大丈夫」


「ん、じゃあ」

 右手を出される。

 俺が左手を出すとぎゅっと掴まれた。

「これで大丈夫?」


 あ、チョップの時と違って普通に握ると委員長の手って結構柔らかいな。

 それに思ったより小さいし。

 そんな余計な事を考えてしまう。

 いかんいかん、今回は空を飛ぶ為だけなんだ。

 それに見た目はともかく相手は暴力女だぞ。


「じゃあ行くぞ」

 そう言って浮き上がるイメージを思い浮かべる。

 1人の時と同様、あっさりと俺も委員長も空へと舞い上がった。

 腕をひっぱるとかそういう余分な力も必要ない。

 委員長ごと一緒に、という感じだ。


「ん、これって限界が来たら急に落ちるの?」

「限界近いと高度が下がっていくから大丈夫だ」

「ん、便利だね。じゃあちょっと学校の北の方に行ってみていい。あっちはあまり知らないから」

「OK」

 ゆっくりと北へ向かう。


 高度はだいたいセンターの一番高いビルと同じ位。

 速度は委員長がいるので加減してまあ60キロ位かな。

 団地や住宅、公園等を上からのんびりと見やる。


 住宅とかは多いけれど基本的には人は住んでいないんだよな。

 確かここは学校を中心として普通の空間と少し位相を変えているから。

 住んでいるのは学校関係者だけ。

 本来人が住んでいるのはちょっとだけ離れた別の空間。

 ん、でもあれは……


「委員長、この辺は人は住んでいないはずだよな」

「ん、そうだよ」

「ならあれは学校の誰かかな。あの公園の角」

 委員長がそっちの方へ視線を動かす。

「ん、本当だ。誰かトレーニングでも……んっ、違う!」


 何か委員長が妙な反応をした。

「どうした」

「急いで、低空飛行に変更。方向は学校へ」

 言われるまま一気に高度を落とす。


「どうした」

「あれは敵よ。神聖騎士団の術者!」

 何だって。

 その次の瞬間、何か強烈な衝撃が走った。

 不味い、力が抜けていく。

 意識が薄れそうになる。


「委員長まずい、落ちる。適当なところで手を離して離脱しろ」

 必死に意識を集中して何とか速度を殺す。

 意識が途切れる寸前、何とか委員長の手を握ったまま着地には成功した。

 でももう意識が薄い。

 何だ、何があったんだ……

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