第29話 そして俺は途方に暮れる

 3人でマンションから出て歩いて行く。

 松戸さんと同じ建物の住民の筈なのに綾瀬もついてきている。

 どうも途中まで見送ってくれるらしい。


「ん、やっぱりはっきりさせようかな」

 委員長はそう言って立ち止まった。


「佐貫、ひとつ聞くけれど、私が怖くない。もしくは嫌じゃない」

 うーん、どういう意味だろう。

「腕力的には怖いよな。まだ勝てる気がしない」

 とりあえずそう言って茶化す。


「ん、そうじゃなくて。だって私、本気になれば表層思考を読めるんだよ。それにさっき佐貫の身体を乗っ取ったから深層意識までひょっとしたら見ているかもしれない。そんな私が嫌じゃ無い」

「いや、だからしょうも無い物をお見せして申し訳ありません」

「じゃなくて。本当に私が嫌じゃ無いの?心を読まれたかもしれないんだよ」


 それでやっと、委員長がいいたい事が少しだけわかったように思えた。

 ならば、だ。


「嫌なのはむしろ心を読んだ方だろう。汚い面とか考え方とかを無理矢理見せられるんだから。だから委員長が俺を嫌だとか嫌いになったとか言うのならわかるし謝る。それでも嫌だというならここから出て行くし。

 でもそれで俺が委員長の事を嫌だと思うのは筋違いだろう。違うか」


 委員長は硬直したように動きを止める。

 あれ、何か不味い事を言ってしまったかな。

 何か涙目になっているし。

 でも、駄目だ俺の頭じゃ何が悪いかもう判断つかない。

 なら正直に謝ってしまえ。


「ごめん委員長、俺、何か悪い事を言ったか。だったら……」

「ん、佐貫のせいじゃない」

 そう言いつつも委員長は明らかに泣いている。

 挙げ句の果てに上を向いたり目をぱちくりさせたり。


 綾瀬は黙って俺達2人を見ている。

 そして2、3分程度経ったろうか。


「ん、あのね。私がクラスの皆から何となく避けられているの、気づいている?」

 ん、何となく。

 でもそう答えるのも何だしさ。

「腕力のせいか」


 予想された委員長チョップはやってこない。

 これは委員長、重症だな。


「ん、避けられている理由のひとつはね、私の能力のせい。人の表層思考を読み取る力のせいなの。

 誰だって人に見られたり気づかれたりするのが嫌な事ってあるじゃない。

 そして私はその気になればそれを視る事が出来る。更にその気になれば佐貫君にやったように身体を乗っ取って、深層意識まで含めて全部見たり感じたりする事が出来る。

 私は佐貫君にそれを全部やったんだよ。

 それでも佐貫君は私を嫌だとは思わない」


 うん、重症だな。

 俺はちょっとだけ怒りを覚える。

 委員長にでは無く、その不特定多数のクラスメイトやらに。


「嫌な思いをするのは委員長の方だろ。見たくも無い人の嫌な部分を見せられて。

だから俺のその辺を読み取った事で委員長が俺を嫌になる事があっても、俺が委員長を嫌だと思うのは筋違いだ、違うか。

 それに委員長だってよほどの必要がなければ思考を読むなんて事はしないだろうし。さっきだってそうしなければ勝ち目が無いのに委員長、躊躇っただろ。

 そういう意味で、俺は委員長を信じていいと思っている。文句あるか」


 何とか言いたい事は言えた。

 でも反応はどうだ?

 あ、逆効果だったかも。

 委員長、また泣き出した。

 今度は本格的にしゃがみ込んでまで。


 不味い事言ったかな。

 ちょっと俺は綾瀬の方を見る。

 よかった、非難しているような視線では無い。

 むしろ大丈夫、って感じで頷いてくれた。


 でもこの後どうしよう。

 泣いている女の子を相手にする方法論なんてのは非モテには無いぞ。

 綾瀬はそれ以上何も言ってくれないし。

 うーん、誰か教えてくれ!

 頼む!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る