第25話 戦力不足、それでも……

「無理だね」

 委員長は即答した。

「時間律より因果律の方が上位だから。過去に戻ってその人を救った時点でそれは既に違う世界線での結果になる。最初の世界で死んだ人は死んだまま」


 松戸は頷く。

「正解。何故知っているのかな。昔の伝承でもあったの」


 委員長が苦い顔で首を横に振った。

「ここにいるのは、それを試してみた私なんだ」

 松戸は大きく頷いた。

「そうか、委員長も私と同類だったんだね。なら私の気持ちも少しはわかってくれるかな」

「わかるのと認めるのは違うよ」


「そうか、意見は一致せず、と。

 なら次の質問、さっきの質問の続きね。

 それではその、病気で死んだ人を助けるためにはどうすればいいのかな」


 委員長は首を横に振る。

「不可能、だね」


 松戸は軽く頷く。

「それもひとつの見解かもね、確かに。

 確かにあの世界でもこの世界でも彼女は助からなかった。助けられなかった。

 でも私はこう考えたの。彼女が助かる世界もあるんじゃないかって

 ここから遠い因果律の世界なら、彼女が助かる世界もあるんだろうなって」


「ん、だからこの世界を含む近い因果律の世界を壊す。結果として彼女が助かる世界の確率が増える。それが目的なんだ」

 松戸がうんうんと2回頷いた。

「ご名答。さすが委員長ね。私がやろうとしているのはそういう事。ただ自分の目で結果を確認する事はできないですけれどね」


「このままそれを認めると思う」

 松戸は軽く首を横に振る。


「でもその答えも予想範囲内かな。

 確かに綾瀬さんの能力なら地脈も龍脈も操作できるわ。この場所まで辿り着ければ事態を元に戻す操作が出来るでしょう。委員長の知識と能力なら操作方法を教えたり手伝ったりも出来るでしょうね。


 でもだからこそ、私も準備したの。

 地脈と龍脈のエネルギーを蓄えて環境と装置を整えて。


 例えばこの場所、もう気づいていると思うけれども空間を捻じ曲げて移動できないよう措置してあるわ。つまり自分の体を使って洞窟の空間通り来るしか道はない。

 式神も私が学校で確認した誰が来ても防ぐのに十分な力と数を用意済み。


 だからお願い、無理だからこのまま外へ帰って。

 次の授業開始までには全てが終わるから。

 苦痛どころか何も気づかないうちに、全部。

 無益な戦いはしたくない。そっちがこれ以上進まなければ式神もこのまま動かさない。だからお願い」


 あくまで俺の感じだが、松戸は嘘は言っていない。

 世界を消そうとしているのも戦いたくないのも本心。

 でもそうは言ってもここでこのまま見過ごす訳にもいかないだろう。


 本音を言えば、俺自身は別にどうでもいい。

 どうせ元ヒキニート、人生の価値なんてそれほどでもない。

 ただ委員長や綾瀬、こいつらがいなくなるのはちょっと納得がいかない。

 多少感情移入する程度にはこいつらと付き合ってしまっているから。


 ならば問題はこっちの戦力。

「一度戻って応援を読んだ方がいいか」

「無理。多分この洞窟ごと空間を高位に閉鎖される。一度出たらもうここにも戻って来られない」

 綾瀬の返答。

 つまり戦うならこの3人でという事か。


 だとすると気になるのは委員長だ。

 どうも松戸と話している間、何か調子がおかしかった。

「委員長、大丈夫か?」

 念の為聞いてみる。

「ん、何が?」

 いつの間にかいつもの委員長に戻っていた。

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