第24話 世界を無くしたい

 ひんやりした空気が辺りを包んでいる。

 光が差さず真っ暗。

 でも俺は暗視能力がある。

 委員長も綾瀬も同様だろう。


 今いるのは洞窟の途中、そんな感じの場所だ。

 広さはそこそこある。幅は3メートル位。高さは2メートルちょい。

 前後方向へと緩くカーブを描いて続いている。


「今度は間違いない。松戸さんはこの奥。でもこれ以上は私の力で行けない。不自然なゆがみ方をしていて私の力が及ばない」

「ん、わかった。ありがとう」


 俺達3人は並んで奥へ向かって歩いて行く。

 それほど長く歩く事は無かった。

 おおよそ30秒程度歩くと洞窟は真っ直ぐになった。

 50メートル位先に終点らしき場所が見える。

 地面に巨大な魔法陣のようなものが描かれ、薄く青白い光を放っている。

 そしてその光に照らされた白衣姿。


 白衣姿はこちらを認めるとすっと右手を下から振った。

 紙吹雪のようなものがこっちへ向かって散るのが見える。


「ん、来るよ」

 俺と委員長は同時に綾瀬の前に出る。

 そして紙吹雪はこっちへ向かって飛ぶ途中白い姿の人型へ変形した。

 一体ではない。

 どうみても100体以上。

 その白い人型の群れがこっちへ向かってゆっくり歩いてくる。


「式神よ。性能は不明。気を付けて」

 俺もいつでも動けるように軽く膝を曲げ、右腕を引きつける。

 だがその式神の群れは俺達から10メートル位離れた場所で停止。


 そして奥にいる白衣姿が口を開く。

「ここまで来たのね。でももう、遅いかな」

 聞き覚えがある声なのだが、実際に音として聞いたのは今が初めてだ。

「今引き返せば、多分何も気づかないし痛みも苦しみも感じないで済むと思うわ。だから引き返して、気づかなかったことにしてくれない」


「そうしたらどうなるの」

「全部無くなるの。何もかも」

 松戸はそう言って頷き、言葉を続ける。


「今は地脈の力を借りて地球ごとこの空間を引っ張っている状態。ほぼ3ヶ月かけてやっと地球の直径分だけ引っ張ったかな。

 あとは簡単。夏至の一番地脈の力が強まった瞬間に引っ張る力そのものを反転させるだけ。ここの魔法陣でね。


 地球を含む空間は空間の復元力と地脈の力で加速。その勢いで隣接する他の因果関係の次元世界に続けざまに衝突。

 その結果異なった世界が融合し、因果律の崩壊と事象存在確率の虚数化が進行して、五月雨式にこの付近の時空全体が崩壊するの」


 松戸はそんな台詞を何故か歌のような奇妙な明るさで語る。


「世界を壊すつもり」

 尋ねる綾瀬に松戸は頷く。

「うん。正確には壊すというより無くしてしまう」

「何故」

「この世界が間違っているから」

 松戸はそう言ってこっちを見る。


「いるのは綾瀬さんと佐貫君、そして委員長だよね。

 そこで一番色々知っていそうな委員長に質問。

 過去に病気で死んだ人がいた。

 そして死後、その病気を完治させる方法が見つかった。

 そして過去に戻る方法も手に入れた。

 さて、この状態で過去に病気で死んだ人を助けられるかな」

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