第20話 世界が終わる場所
「でも美久、松戸さんと何かあったの。何か今朝お礼を言っていたようだけれど」
委員長も気にはしていたらしい。
「昨日助けて貰った。その時泣いていた」
綾瀬がそう言って、それだけでは言葉が足りないと気づいて言葉を継ぐ。
「訓練のため私は色々な時空間に行ってみている。
昨日は久しぶりに遠出をしてみた。
思いつく限り全ての座標軸的に出来るだけ遠い場所を設定した。そこで初めて体験する強烈な時空間の流れに流された。流されて私はある座標に辿り着いた」
綾瀬はちょっと間を置いて、そして続ける。
「赤い大きな太陽に照らされた赤い空と岩場だった。空気の組成も変だし空気そのものも薄かった。生物は植物を含めて何も無かった。岩と埃と、時々風で飛ばされてくるガラス質の砂の他は何御なかった。
私は逃げようとした。でも逃げられなかった。そこの空気や岩は自然物ではあったが滅びへと向かうだけで既に力を残していなかった。私の力が使えなかった。
その時彼女を見つけた。」
綾瀬は再び一呼吸置く。
俺達は黙って聞いている。
「彼女は岩の頂上で沈みゆく真っ赤で大きい太陽を一人で見ていた。
私を見つけると驚いたような顔をして近づいてきた。何故ここにいるか聞かれたから正直に流れに流されてここに来てしまった事を答えた。
彼女は言った。
『この場所は悲しみ。全てが終わった滅びの地点。死や滅びが再生ではなくただ無くなって消えていくだけという事をただ実証している場所。
ここにいては危険。あなたも滅びに侵されてしまう』と。
彼女はある座標を教えてくれた。
教えられて気づいたが、確かにその座標には移動することが出来て、そこから元の世界に帰ることも出来そうだった。
私は礼を言って彼女に尋ねた。何故ここにいるか。
彼女は答えてくれた。
『ここにいればは悲しみを忘れないですむ。どんな美辞麗句で飾っても失くしたものは取り戻せない事を教えてくれるから』と。
その空間を去る時、私は彼女が泣いていた事にふと気づいた。でも理由を聞く間もなくその場所は遠ざかった。
教えられた座標について私の力が戻った時、私は彼女を知っていることに気づいた。クラスメイトの松戸夕乃だった」
◇◇◇
「ん、お兄、何か知っているの」
綾瀬の話の余韻の中、委員長が急に尋ねる。
「その場所はね」
柿岡先輩は頷いた。
「綾瀬さん、その帰れる座標とは、小さなオリーブの苗木が植わっている白い部屋じゃなかったかな」
綾瀬が明らかに驚いた表情を浮かべて頷く。
「有名な場所だ。時空間を旅する一部の人の中ではね。実際に行ったことがある人はほとんどいないけれど。
XKシナリオ火星50億年、って呼ばれている。別名この世の果て、人類の文明が終焉を迎える可能性の一つ」
何かひっかかる言い方なので俺は聞いてみる。
「可能性とは何ですか」
「このまま歴史が経過した場合、そこにたどり着く可能性がある。
そういう意味の可能性だ。
未来は確定していない。だから幾つもの可能性が併存している。
そのうちのひとつ、人類の文明が行き着いた先のひとつがそこ、XKシナリオ火星50億年、別名この世の果てさ。
惑星の地中深くに人類の名残と思われる基地があって、その中心の白い部屋には再生の象徴と思われるオリーブの苗木が植えられている。
人の痕跡は他に何もなく、基地からは外に出る通路もない。瞬間移動で外に出ると赤茶けた大地と肥大した太陽しかない風景に出会える。そんな場所だ。」
「ん、じゃあその場所は実在するんだね」
委員長の問いに柿岡先輩は答える。
「実在するし、能力さえあれば行くことが出来る場所だ」
柿岡先輩の台詞に綾瀬は一人頷いた。
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