第2章 この世の果てに会いに行こう
第19話 学校で一番特殊な少女
5月のゴールデンウィークから早1週間は経った火曜日の午後8時27分。
火曜日はホームルームが無いので皆、授業ギリギリの時間に来る。
綾瀬がある生徒の姿を認めて立ち上がる。
目標は今入ってきたばかりの長身の少女。
長い黒髪に何故か白衣姿だ。
その少女が席に着くと同時に綾瀬は声をかける。
「おはよう松戸さん。昨日はありがとう」
その少女はただ、小さく頷く。
そして席座ると同時に鞄から分厚い本を出して読み始めた。
それは明確な拒絶の姿勢。
綾瀬はそれ以上声をかける事が出来ず、戻ってくる……
◇◇◇
「ん、松戸さん。あの人はこの学校で一番特殊な存在だね」
委員長がそう言って、紅茶のカップを手に取った。
放課後のTRICKSTERSの部室後ろ半分。
白いガーデンテーブルを囲むのは、もう見慣れたいつもの面々。
俺の他には綾瀬、委員長、神立先輩、柿岡先輩だ。
結局あの大喧嘩の後も、俺達は毎日ここに来てはお茶をご馳走になり、その後訓練をするという日々を続けていた。
神立先輩によればあの程度の喧嘩は別に大したことではないらしい。
その辺の感覚が俺には理解できないが、現実を見る限りではその通りなのだろう。
なお何故他の部員がいないかというと、やはり柿岡先輩の能力のせいらしい。
正確には柿岡先輩と神立先輩と委員長の共通能力、表層思考等読取能力のせい。
普通の人は表層思考を読めるという人間がいると落ち着かないものらしい。
俺は別に気にしないのだが。
さりとて生徒内での狐狸界トップ2人をないがしろには出来ない。
更に瞬間移動可能な柿岡先輩と神立先輩はそれぞれの里との連絡や荷物配達まで請け負っている。
その辺りのことを鑑み、こうやって別室待遇となっているそうだ。
ちなみに教室の後ろではなく前の扉から入ると通常の元教室スペース。
他の部員がくつろいでいたりするそうだ。
俺はそっちは入った事が無いけれど。
そして後ろ扉、つまり今いる方は簡易的に作った別空間とのこと。
ちなみに今日は満月に照らされた山間の集落が映し出されている。
狸の里の昔の風景だそうだ。
「特殊な存在って?」
「ん、つまりただの人間。純度100%の人間で一般人よ。陰陽師とかそういった家系でもない、本当の意味での一般人」
委員長はそう答える。
でもそれって、この学校へ来る意味があるのか?
「松戸さんの場合は特別ね。古来の様々な文献を読んで、いろんな遺跡を調べた上で異空間操作系の技術を使って自力でこの学校に辿り着いた。普通の科学技術ではない力を求めてね。その姿勢が認められてこの学校に入学が認められたの」
「詳しいな、委員長」
委員長は少し寂しそうな顔をして頷いた。
「ん、松戸さんは半年前の転校生だよ。佐貫や美久のすぐ前のね」
なお委員長は俺の事を佐貫と、綾瀬の事は美久と呼ぶようになった。
だからと言って色々仲が進展したとかそういう事は無い。
単に毎日訓練とかでいちいち君付けで呼ぶのが面倒になったからとの事だ。
「ん、外部からの転校生なんかにこの学校の環境に慣れて貰うのも委員長の仕事だしね。でも松戸さんの場合は結局うまくいかなかったな。結局あのまま。
勉強も実技も優秀なんだけれどね」
実技の方の腕は俺も知っている。
何せ一度酷い目に遭っているから。
この学校は妖怪の学校らしく模擬戦の授業がある。
それで俺は一度、松戸に思い切り叩きのめされたのだ。
松戸は委員長と違って戦闘時はほとんど動かない。
ただ一瞬でも隙を見せたらその瞬間に倒される。
武器有りでも武器無しでもそれは同じ。
ひたすら待ちに徹して一撃必殺。
そんな戦い方をする奴だ。
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