第18話 シスコン兄貴のお詫びの品

 朝7時ちょうど。

 とぼとぼよろよろ。

 俺は最後の力を振り絞って寮の階段を上がる。


 寮と言ってもいわゆる普通の学校の寮では無い。

 老朽化して住民が退去した公団型住宅をそのまま流用している感じだ。

 なので出入り自由だが作りは古い。

 その階段を残りの力を振り絞って一歩ずつのぼる。

 ちなみに俺の部屋は3階だ。


 クールダウンで楽になったかと思ったら、思った以上に全身に疲れが来ていた。

 委員長と別れた直後にそれに気づいたが、どうしようもない。

 よろよろ外廊下を歩いていると縦横厚みともにでっかい男の姿が見えた。

 居る場所は俺の部屋の前。

 その姿には見覚えがある。

 何せ俺のこの特訓の原因を作った元凶だから。


「すまない、転入1日目から」

 柿岡先輩は俺を見るとそう言って頭を下げる。

 俺の身に何が起こったかわかっているらしい。


「いや、流石にきつかったです」

 何なんですか貴方の妹分は、とは言わない。

 言いたいけれど。


「それも含めて色々申し訳ない。いやね、正直やり過ぎたとは反省しているんだ」

 それを聞いてふと俺は気づく。

 柿岡先輩、わざわざ俺の事を待っていたんだよな、きっと。

 それも今日の事を謝る為に。

 そう思うとちょっと印象が変わる。


「まあ気にしないで下さい。大丈夫ですから」

「でも無いだろう。ちょっと待ってくれ」

 彼の背中から何かが瞬いた気配。

 その直後、俺は自分の変化に気づく。

 何か体が無茶苦茶軽くなったぞ。


「少しだけだが疲労をとり除いておいた。あとこれは今日のおわびという事で受け取って欲しい」

 紙袋を半ば強引に渡される。

 何か北海道土産とか書いてあるけれど。


「大した物じゃ無いから気にしないでくれ。今この時間に空いているそれらしい店は北海道千歳空港の売店くらいしか思い浮かばなかったんだ。あそこは朝6時45分開店だから」

 この人も瞬間移動者テレポーターか。


「よして下さい。そんな」

「いや、秀美の事で今後とも迷惑をかけると思うしさ。あいつはまあ、ああいう奴だし」

 どういう意味かはよくわかる。

 そして別の事にも気づく。

 この人、きっとシスコンだ。

 ああいう態度を取っている癖に妹分の事が気になってしょうが無いのだろう。

 ここへ来た理由もきっとそれがメインだ。


「もし耐えられそうになかったら僕に苦情を言ってくれ。何とかするから」

「大丈夫ですよ。委員長はいい奴ですから」

「すまんな、まあ、よろしく頼む」

 柿岡先輩はそう言ってまた頭を下げ、そうしてようやく帰って行く。

 というか姿を消す。


 俺は震える手で何とか部屋の鍵を開ける。

 後ろ手で鍵を閉め、靴を脱ぎそのままよろよろ歩いてベッドに倒れ込む。

 服は汚れているが着替えたりシャワーを浴びる気力は残っていない。

 あとで起きたら何とかしよう。


 ふと気になったので、先輩からもらった紙袋の中を確認する。

 お詫びの品とは、『マ●セイバターサンド』

 うん、いかにもデブセレクトな逸品だな。

 それだけ確認して、そして俺の意識は薄れていく……

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