第17話 クールダウンで情報収集

 予想外。

 クールダウンのランニングは本当に普通のランニングだった。

 まあ最初のウォームアップで慣れたというのもあるんだろうけどさ。


「ん、ゆっくりな分、足や体の筋肉を色々意識してね」

「了解」

 話しながら走る余裕もある。

 なのでちょっと委員長に聞いてみる事にした。


「そう言えば委員長の能力って何なんだ。やっぱり格闘とか肉体強化の方なのか。言いたくなければ言わなくてもいいけれど」

「ん、別に隠すことも無いし大丈夫だよ」

 そう言って委員長は説明を始める。


「私の場合は典型的な狸型かな。どちらかというと術主体の。具体的に言うと精神操作系統色々と、あと天眼通ね。

 精神操作はまあ、そのままの能力。欺瞞とかから始まってある程度表層思考をコントロールしたりも出来るかな。まだ完全じゃ無いから言語化した思考で無いと読めないけれどね。

 あと対象がそれを許せば乗っ取って完全に私の操作で動かす事も可能だよ。まあこれは相手が受け入れてくれる場合しか使えないから、使いどころがない能力だけれども。

 天眼通はお兄の慧眼通の一歩手前の能力。物事の性質がわかったり隠された事象に気づいたりする能力。慧眼通みたいに能力の強制解放とか、事象を操作する能力は無いけれどね。

 特殊な能力と言えばそんなところかな。お兄に比べるとまだまだってところね」


 さっき喧嘩したばかりなのに柿岡先輩の事を尊敬しているのは変わらないようだ。

 それと俺が気になった事がもう一つ。


「肉体強化は特にしていないんだ」

「ん、やろうと思えば出来るけれどね。でも私が出来るのは皆と同じ、技術による方だけだよ。それに普段は使わない。あれに頼りすぎると格闘技術とかがおろそかになるし」

 という事はさっきまでの訓練は、普通の状態の体力でやっているという事か。

 恐るべし委員長。

 でも同時に何か納得をしている俺自身がいる。


 委員長に色々付き合わされて思ったのだが、こいつ本人は恐ろしい程に真面目だ。

 だからきっと自分自身にも妥協を許さない。

 今日の訓練もきっと特殊なものでも何でもない。

 委員長にとってはごく普通の日課。


 だからきっと今の俺と委員長の実力差は、彼女心がさらっと言ったとおりの原因。

 積み重ねた時間の差、そのままだ。

 元ヒキニートから見ればまぶしいな、本当に。

 でも少しでも追いつく為にももう少し色々聞いてみよう。


「そういう特殊能力を訓練するのってどうすればいいんだ」

 彼女は少し考える素振りを見せる。

「ん、一概には言えないな。私みたいな種族的な特殊能力なら、普通に体力や他の技術を訓練しているうちに自然に身につくけれどね。

 佐貫君の場合は相当な訓練か何かのきっかけが必要だって言っていたからなあ。強いて言えば死にかける位の体験をすれば何か起こるかもしれないけれど」


 いや、今日の訓練で十分死にかけましたが何も出ませんでした。

 とは勿論言わない。

 言いたいけれど。


「なら当分はこの調子で訓練して様子を見るしか無いか」

 あ、失言。

 この調子で訓練したら死ぬかも、俺。

「ん、そうだね」

 しかも委員長に肯定されてしまったしさ。

 まずい。


 そして委員長は更に、少し小声でつぶやくように言う。

「ん、でも出来れば3ヶ月以内にはある程度物にしたいね」

 何だろう。


「3ヶ月というのは?」

「最初の暴走車の到着時刻、私の能力で見た限りは、だけど」

 彼女はそう、確かに言った。

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