第16話 ボロ雑巾の製造過程
俺の願いも虚しく誰も助けに来ないまま、特訓は始まってしまった。
「じゃあまず軽くランニングから」
ちっとも軽くなかった。
実業団のランナーを煽るような速度で30分引っ張り回される。
次はフルコンタクトで格闘戦の実戦練習。
開始直後は最初は委員長といえど女の子、見た目にも何だし組んだり戦ったりしていいのかなという遠慮もあった。
でも10秒以内に俺は本能で悟った。
本気で行かないと俺が死ぬ。
結果、開始30分でもう俺、ボロ雑巾。
吸血鬼ハイブリッドにも体力気力ともに限界はある。
打ち身だろうと骨折だろうと数秒で治るこの体が逆に恨めしい。
疲れと痛みはそのままだしさ。
「じゃあちょっと休憩しようか」
その言葉を聞いた途端もう倒れそうになる。
そのままその場にべたっと腰を下ろして休憩だ。
なお服は一応運動用のスウェットに着替えている。
倒れたり何だりで既にボロボロだけれども。
反対に委員長のグレーのカプリパンツとかピンクのパーカーは全然汚れていない。
本人も軽く汗をかいた程度だ。
彼女はバッグからボトルを取り出して蓋を開ける。
「ん、飲んで。その方が少しは楽になるし」
お礼を言う気力も無いが、ありがたくいただく事にする。
ボトルの中身は冷えたちょっと薄めのスポーツドリンク。
喉にすっと入ってなかなか気持ちいい。
ちょっとだけ気力が戻ってきた。
「ありがとう」
ボトルを委員長に返す。
「それにしても委員長、強いな」
まごう事なき俺の実感だ。
「ん、まあね。積み重ねた時間の差だよ」
彼女はそう言って俺から受け取ったペットボトルをそのまま口へ。
おい、間接キッスだぞ、とは言わないけれど思ってしまう。
委員長は気にしていないようだけれども。
というかこう見るとやっぱり委員長、可愛い事は可愛い。
今のパステルカラーの格好も似合っている。
運動能力や格闘能力は鬼だけれど。
腕も足も特に太いとか筋肉という印象は無い。
中肉中背、胸はちょっと大きめかな。
とにかくどう見ても普通の女の子にしか見えない。
見ただけなら。
「ん、でも佐貫君、思った以上に健闘しているよ。とりあえずこのメニューに初日からついて来ているもの」
ついて行けてません、死にそうです。
それが俺の本音だけれど勿論口には出さない。
「半年前にうちのクラスの虎男が一緒に訓練したいと言うから付き合ったんだけどね。体力に自信があるって言うから大丈夫だと思ったんだけれども。
最初のウォームアップのランニングでもうバテバテ。格闘練習を始めて5分で倒れて気絶しちゃった。それを思うと佐貫君は凄いと思うよ」
いえ、その虎男さんがむしろ普通なんです、きっと。
ネコ科の動物は瞬発力系で持久力は無いって言うしさ。
人外や妖怪に通用するかは不明だけれども。
「ん、休憩はあと3分。後はクールダウンのランニングだけだから」
えっ、あと3分?
それにランニングだけ、というのも怪しいよな。
何せウォームアップのランニング、いきなり全力疾走に近い状態だったし。
そう思いつつも、取り敢えず俺は全力で休憩に専念する。
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