第15話 こんな仲の良さ求めてない!

「ん、ごめんね」

 帰り道の階段で委員長が立ち止まる。

 そして俺と綾瀬に頭を下げた。


「何が」

 あえて俺はそう言ってみる。


「何か私が一方的に怒って攻撃してわめいていたでしょ」

 委員長も自分の様子がどう見えるかわかっていた訳か。

 でも、それなら。


「委員長なりの理由があった。きっと」

 返答以外に喋らなかった綾瀬が口を開く。

 綾瀬なりに気を使っているんだろう。

「無理に理由を言う必要は無い。私にも人に話したくない事はある」


「ん、ありがとう、綾瀬さん」

 委員長はそう言ってもう一度頭を下げた。


 こうやって見るとさっきの暴力女のイメージはまるで無い。

 服装髪型その他含め、典型的な委員長系美少女だ。

 そんな単語があるのかは知らないけれど。

「ん、佐貫君はまた変な事を考えたようだけれども、まあ悪い事じゃなさそうだから許す」

 委員長、お前超能力者か。

 いや、狸だった。

 いてっ。


「ん、やっぱり余分な事を考えたような気がした」

 委員長チョップ、ただし若干パワーダウン版だ。


「その口より先に手が出るの、勘弁してくれ」

「ん、今のはちゃんと手加減したでしょ」

「そうだけれどさ」

 やっぱり手加減していたか。


「ん、それに佐貫君、これからそんな事は言っていられなくなるわよ」

 えっ。嫌な予感。

「まさかと思いますが、あの……」

「血反吐位生温いと思える程度までガンガンに鍛える、覚悟してね」

 いや、それを笑顔で言われても。


「世の中には言葉の綾とか比喩とかがあると思うのですが」

「大丈夫、私が付き合うから」

 いや、付き合うというのは別の用途に使用していただければ嬉しいのですが。

 委員長もおとなしくしていれば十分美少女だし。

 あっ。


「ん、やるね」

 今度は何とか委員長チョップをかわす事に成功した。

 俺、進化している?

「今度は手加減抜きでも大丈夫かな」

「やめて下さい」

 あ、その前に聞いておこう。


「ところで委員長、ひょっとして表層思考読めるの?」

 委員長は軽く頷く。

「ん、本気で能力を使えば言語化している思考なら読めるよ。でも今のは単なる女の直感」


 いや、狸の直感だろう。

 あっ。痛っ!

 とっさに避けたが避けきれなかった。

「ん、今のはお兄に出すのの4割程度のパワーね」


 綾瀬が何か横で笑っている。

「何か2人、仲良さそう」

 やめてくれこんな暴力女、あっ。

 振り上げられた手刀を全速で回避成功。


「ん、筋はいいわね。じゃあこのまま校庭に出て特訓開始!」

「勘弁してくれよ。そろそろ眠い」

「元はと言えば佐貫君の運命でしょ。だから人生諦めが肝心!」

 綾瀬、笑っていないで少しは助けてくれ。


「では私、今日はちょっと用事があるから」

 そう言うと同時に綾瀬の姿が消える。

 え、何?瞬間移動テレポート


「感謝の気持ちを伝えに行くとか言っていたわね」

 そう言えば柿岡先輩がそんな事を言っていたな。


 ん、待てよ。

 これで委員長の暴虐を止めてくれそうな人がだれもいなくなった訳で……


「大丈夫、今日も授業があるし、朝7時までで勘弁してあげるから」

 あ、そう言って指をコキコキ鳴らすのは止めて下さい。

 マジで怖いんですが。

 誰かいませんか、ここに暴力女がいますよ。

 お願い、誰か……

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