第11話 燃費が悪い兄妹もどき
「大丈夫。情報量の多さに少し戸惑うかもしれない。でもすぐに慣れる筈だ」
綾瀬は少し考える様に下を向いて、そして顔を上げて柿岡先輩の方を見る。
「ええ、大丈夫です」
「なら今の状態の君に聞こう。
今の君から見た今までの世界、今までの記憶、そしてここへ来た経緯。そして今。それをゆっくり思い返してみて欲しい。
どうかな、世界は厳しいだけだったかな」
「……いいえ」
その答は小さいけれどはっきりと僕にも聞こえた。
その瞬間、何かがふっと変わる。
さっきの雰囲気が元に戻っていた。
柿岡先輩が同じ声色だが明らかに軽い雰囲気で言葉を続ける。
「なら君に対する僕の助言はこれまでだね。あ、一つ追加。
まだ夜中だから感謝の気持ちを伝えに行くのは早過ぎる。そうだね、何時に起きてという時間サイクルは君が知っているだろうから、それにあわせて」
綾瀬が頷いたのを確認した後、柿岡先輩は更に軽い調子の声で言う。
「という訳で朱里、休憩がてらおやつの供給頼む」
「はいはい」
神立先輩がどこからともなくバスケットを取り出した。
中からサンドイッチの入ったカゴと円形のチーズケーキらしき物が入ったカゴが出てくる。
柿岡先輩が容赦無くサンドイッチを3つ同時につまんだ。
「良ければ皆さんどうぞ」
「いただきます」
そう言って委員長が手を伸ばし、トマトの赤が鮮やかな三角形をつまむ。
「さあ、お二方もどうぞ」
と神立先輩に言われたので、僕は卵サンド、綾瀬はハムサンドをつまむ。
「ん、神立先輩。いつもすみませんが、あまりお兄には甘くしないで下さい。どう見ても太りすぎだから少し厳しめにお願いします」
「慧眼通はカロリーを消費するからこれでいいの。それにこのサンドイッチ、確かに作っているのは朱里だけれど材料は全部僕が買ってきているんだし」
「誰かさんは食べ物にはうるさいですからね。でもまあ、美味しい材料を買ってきてくれるんでついつい作っちゃいますけれど」
「確かにこのハム、美味しい」
「そうだろ、ジャンボン・ド・パリとグリュイエールチーズはそれぞれ専門店で探して買い出した逸品だ。おかげで僕のエンゲル係数は限りなく高い」
「お兄、それ威張れない」
何か一気に和気藹々といった雰囲気になった。
ただ悪くない感じではある。
それにこのサンドイッチ、特にハムチーズサンドは確かに美味しいし。
結構あっという間にサンドイッチは無くなっていく。
量としては結構あったのにだ。
理由は一目瞭然。
材料費を出した大きいのとその妹分がかなりの速度で平らげているからだ。
この兄妹?は大食いなところは似ているらしい。
「お兄、食べ過ぎ」
「だからこれは僕の食費」
とか言って最後のサンドイッチを争っている2人をよそに、神立先輩はチーズケーキをカットして僕達に配る。
「宜しければどうぞ」
「いただきます」
お、美味しい。
そう思ってふと気づく。
そう言えば色々聞いていない事がある。
例えばこの2人の正体や委員長の正体。
そしてさっき言っていた綾瀬がどういう存在になったのかも。
よし、この雰囲気の間にそれを聞いてしまおう。
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