第1章 高校生活は暗闇で

第5話 20年ぶりの教室で

 そういう訳で、現在俺は教室の窓側、前から2番目の席にいる訳だ。

 窓の外は暗い。

 何せ今の時間は午後8時15分過ぎ。


 この学校は夜8時10分に始まり、深夜3時に授業が終わる。

 定時制ではなく夜間全日制だそうだ。

 何故こうなっているか。

 パンフレットには『対象生徒の特性に配慮して』とのみ記載されている。


 理由はともあれハイブリッド吸血鬼化した俺には都合がいい。

 日光で灰になる事は無いのだが、太陽の下だと何故かえらく疲れるのだ。

 これは念の為実験した結果だから間違いない。

 まあニート時代も半ば昼夜逆転の生活を送っていたけれどな。


 さて、と担任教師の方を見る。

 確か名字は取手と言って、専門の教科は現国古文漢文だそうだ。

 年齢は見かけでは20代半ばから後半。

 身長は高めで美人ではあるがちょっときつい感じ。

 怒らせると怖そうな感じだ。

 この手のタイプは苦手なのであまり近寄らないようにしよう。


 前の席の綾瀬はここまで一緒に行動したのである程度把握済み。

 顔立ちは整っていて美少女と言っていいのだが、小柄で体型も細くて貧相だ。

 なので最初は中学の方への転入生かと思った。

 待ち時間にも特に雑談もしなかったし物静かな感じだ。

 まあ俺からも何も話さなかったのだけれども。

 元ヒキニートに女の子相手に話す話題など無いからな。


 さて、取手先生は一通り何か話し終わった後、何か小冊子を配りだした。

 前から順に送られてくるので俺も綾瀬から人数分受け取り、自分のを取って後ろに回す。

 小冊子の表紙には『課外活動の紹介』と書いてある。


「中等部からの持ち上がり組にはお馴染みだが、この高校には課外活動がある。入る入らないは自由だ」

 ああそうですかと俺は思う。

 面倒なので帰宅部でいいだろう。


 先生の説明は続いている。

「授業で教えきれない部分のフォローと言う意味もあるので私は入った方がいいとお勧めしておく。個人によって違う能力の細々までは授業では扱えないからな」


 ん、それってどういう事だ。

 例えば俺のハイブリッド吸血鬼としての能力とかか。

 とすると他の生徒もそういった特殊な生徒なのだろうか。

 確かに学校の説明でも校長が『扱う生徒の特殊性に鑑み……』とか言っていたな。

 でも冷静に考えればそんな訳はないよな。


「では9時まで休憩」

 取手先生はそう言って教室を出て行く。


 とたんにざわめき出す教室。

 どんな部活がいいかとか相談をしているのだろう。

 実際そんな言葉も聞こえている。

 さて冊子でも見てみるか、そう思った時だ。


「ねえ、佐貫くんと綾瀬さんは、どの系統が得意なの」

 真横から声がした。

 振り向くと、丸眼鏡をかけたお下げ髪。

 眼鏡の奥の大きい真丸目が可愛い。

 現状では可愛い対美人比は9対1くらい。

 でも眼鏡を外すと美人度がアップしそうな感じだ。

 そして服装自由なのにいかにもって感じのセーラー服姿。


 それにしても面識も無くいきなりだ。

 誰だろう。

 前の席の綾瀬もそんな感じで彼女を見ている。

 そう思ったのに気づいたか丸眼鏡は軽く自己紹介を始めた。


「ん、私は柏秀美。一応このクラスの委員長」

 それで何故彼女が俺と綾瀬に声をかけたか理由を悟る。

 委員長としての仕事の一環という訳だろう。

 まあ彼女も美少女に入る範疇ではあるからそれでも嬉しいのは確かだ。

 少なくともヒキニートな中年時代から比べれば大分天国に近い。

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