No-body's escape
恢影 空論
#1 バッドランド
ここら一帯での贅沢といえばせいぜいが気の抜けた
まぁ、無理な話だったけど。
「ねえ、乗ってみたくない、飛行機って……」
《司書》がそんな誘いをふっかけて来たのは、三日前のこと。日焼けし損ねたように病的に漂白された童顔をアルコールが足りないと言わんばかりの仏頂面で上塗りしながら、ピックアップトラックの荷台の端でブーツをぶらぶら。酸味マシマシのひどい臭いをまき散らす
「あんたのことだから、どうせロクなもんじゃあないんでしょう」
一日一缶ルールの
早々に諦めた
「ヒコウキって、あれでしょ。空、飛ぶんでしょ……」
《司書》は首を傾げて、
「そうだよ、
「そういうことを聞いてるんじゃなくて……ほら、あれでしょう。
うへぇ、と鼻にシワを寄せてみせる《司書》。どこまでも
急激な視界の振動。空は再び頭上へ。《司書》が荷台に転がった
「……さっきから吹いてるそれ、なに」
「あっ、うーんとねぇ……二つ前の町のレンタルビデオ店で観た、おっきなトカゲが出てきて人間を食べる映画、だったよね」
それじゃあ
「……ジョン・ウィリアムズのつもりなら、せめてもう少し唇をすぼめて、指でも鳴らせるようになってからにしてよ」
昼下がりの照りつける陽光は、
「ねえ、せめて助手席に……」
「ダメ。せっかく口笛練習しているんだから。付き合ってくれてもいいでしょ」
あきらかにふくれっ面。黙ってれば儚げな美人で通るのに。《司書》は
視界が揺れる。唇を尖らせながら《司書》は
《司書》が再び歌い出す。干からびることもできないプラスチックとゴムの唇が震えて、熱砂を巻き上げる乾いた風と混じり合う。
“
「……聴くに耐えない」
「せめて、もう少しアドバイスをちょうだい」
実際、こいつの歌唱力ときたらひどいもので、
“
《司書》に目配せして、独唱会は一旦中断。両手で
「イヤホン、付けてくれない……」
——————
——
らしい、というのはつまり、
七十億のニンゲンが喪われた日。それはきっと、人間という生物の輪郭だけを的確に憎悪した犯罪、
結論から言うことは簡単だ。人間は人間としての輪郭を保てなくなった。
みんな一斉にホモサピエンスであることを止め、社会性生物であることを止め、ひとであることを止めた。
「
TYPE-Ⅰ、無機固形適応型。通称「
TYPE-Ⅱ、有機植物適応型。通称「
TYPE-Ⅲ、有機動物適応型。通称「
TYPE-Ⅳ、上記に当てはまらない型。たとえば、首=わたし。
揃えて並べるとしたらまぁだいたいこんなもので、系統を重視しているわけでもないし、そもそも系統的な
だから
ましてや、ある意味世界でもっとも有名な飛行場があるだなんて、知られたくなかった。
——————
心地よい圧迫から、粗雑な音の棄却。
体温と同じシリコンの離れていく空洞に、乾いた風の声。
「ちょっと、いきなりなんなの……」
抗議の声をあげる
「吠え声が聞こえた。食肉目に近いけど、ちょっと違った」
「違ったって、なにが……」
「わたしの歌を歌ってた。たぶん『ぴゅーまさん』、しかも群れてるみたい。ここを出よう、今シートベルトするからね……」
“
さっきまで《司書》のへたくそな唇が乗せていたメロディの
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