第四十五話 エレルアリーナ 6/6

 

『えーっと』

【シェリルのご乱行の原動力はあのオバハンの入れ知恵やった、っちゅうわけか】

『本当にあの人は……』

【いらんことを】

 

「シェリル」

 アプリリアージェはシェリルに声をかけた。もちろん、それはエイルから睨まれたから、というわけではないだろう。

「やはりルルデはあの時消滅したのでしょう。死体が見つからないのはもしかしたら異世界にのまれてしまったからなのかもしれません。今まで懐疑的でしたが、異世界が本当にあるのならそういうこともあるということなのでしょう」

「じゃあ、ルルデはフォウに居るかもしれない」

「いいえ」

 アプリリアージェは静かだがきっぱりとした口調で続けた。

「ファランドールで消滅したにしろ、フォウにのまれたにしろ、どちらにしてもそれは死体がどこにあるかというだけの話なのですよ。彼はもうどこにもいないのです」

「でも、リリアさんもこの人がルルデかもしれないって……」

「ええ、言いました。でも私が考えていたのはシェリルとは少し違う事です。一体どうやって死人が甦ったのだろうか、という事なのです。いえ、誰が甦らせたのだろうと言うことでしょうか。そういう呪法もしくはルーンが存在するという伝承がありますから、エイル君の場合がそれに当てはまるのかも知れないと思ったのです。でもそこにいる瞳髪黒色の少年が甦ったルルデの死体ではないのだとしたら、答えは一つしかありません」

 そこまで言うと、アプリリアージェは一端話を区切り、口調をがらりと変えてから、こう続けた。

「もう一度だけ言います。ルルデ・フィリスティアードはあの時私が殺しました」

 

『え?』

【話が違うな】

『オレが見たのは微妙に違うものなのか?』

【あ、いや。多分これはリリア姉さんの十八番やろな】

『十八番?』

【相手の注意は一カ所に集中、やな。対処はその方が簡単や。リーゼをこの話に巻き込んでややこしくしたないんや、きっと】

『なるほど、ここでも戦術、か』

【念のために言うとくけど】

『わかってる。夢の話は誰にも言わない。いや、言えないよな。言ったら話はさらにややこしくなる』

【お。ようやく「わかってきた」感じやね】

『何だよ、それ』

 

 エイルの襟元を掴んでいたシェリルの手から力が抜けた。そしてシェリルはそのままストンとその場に座り込んだ。たき火の明かりが、うつむくシェリルの横顔を赤く照らしていた。

「私……何だか、疲れちゃった」

「せやな。色々あったさかい、今日はもうゆっくりお休み。明日ゆっくり考えたらええ」

 エルデはエイルの声を使い精一杯優しい声でそういうと、シェリルの頭にそっと手を置いた。するととたんにシェリルは、操り人形の糸が弛んだように、がくんと頭を垂れると、その場に崩れ落ちた。

「おい、何をした」

 それを見ていたベックがたまらず駆け寄ると、動かなくなったシェリルを抱きかかえた。エルデは自分を睨むように見上げるベックを見てその目を細めた。

「大丈夫や。眠ってるだけやから」

「なんでルーンで無理に眠らせる必要があるんだよ」

「ベック、待ちなさい。今のは的確な判断だ」

 ハロウィンは穏やかにベックをたしなめると、ルネに目配せをした。ルネはうなずくとシェリルのそばに来た。

「今夜はウチらが側についとクさかい、大丈夫ヤ」

 ベックはルネにそう言われて視線をルネからシェリルの寝顔に移すと、しぶしぶながら小さなルネの腕にシェリルを預けた。

 それを見届けたエルデは体の正面をたき火の炎の方に向けて、あらためて一同を見渡すとニヤリと笑った。

「さあ、質問を受付よか。……もっとも」

 そしてこう続けた。

「まだ答えられへん事の方が多いけど、な」


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