第19話 アルシュのドッラークレス

 オラ、アルシュ、呼ばれて来ました。アルテナを誘拐した女の領地へ。

 さて、どうしたモノか…。



 アルシュは、レアド領の巨大な湖が見える先端の塔にいた。

 おお…大艦隊だなぁ…。

 巨大な湖には何十艦ものジェネシス帝国の飛翔船が停泊している。


 アルシュのいる塔は、元城壁の一つで、まあ…巨大な湖がそこまで迫ったから、灯台のようになっているが、それは明らかに陸地の仕様である。

 

 アルシュの右隣にいるディリアが

「やはり、ムリか…」

 それは縋るような視線である。

 

 左隣にいるエネシスが

「大口を叩いて失敗しましたね。あんな大艦隊、ムリでしょう」


 普通なら、エネシスの言う通りだが、不思議とアルシュにはムリに思えない。

 なぜなら、自分が感じるレッドリーレスの更に上位は、それを呑み込む程巨大であると感覚が知らせている。


 アルシュはポケットから指輪を取り出す。

 それはアルテナに上げた、レッドリーレスの力を与える指輪、ブラードダイヤだ。


「これ…」とアルシュはディリアに渡す。


 ディリアは受け取り

「なんだ…これは?」

 

 アルシュは頬を掻きながら

「暴走した時に、もしもの帰る目印にするから、付けていてよ」


「ああ…」とディリアは受け取り、右手の小指に填めた。

 スッと、ディリアの指に密着する。


 アルシュが

「装着した人以外、外せないから」


 そこへディリアの部下が来て

「お嬢、通信を傍受したが、連中…動き出すぞ」


 アルシュはジェネシス帝国側を見ると、艦隊が陣形を組んで飛翔を始めた。

 戦争が始まるのだ。


「さて…」とアルシュは背伸びしてレッドリーレスを展開して

「じゃあ、行ってくる」

 飛び出した。


 ディリアは祈るように手を合わせ、その右手の小指にはにはアルシュの与えたブラードダイヤが輝いていた。


 

 アルシュは湖面を飛翔し、ある程度したら水面に突入する。

 湖に沈みながら、自身の力を解放する。

 そう、本来の小規模であるレッドリーレスではない。本気のドッラークレスを…。



 ジェネシス帝国の帝都では、皇帝ブルートスを奥に、八人の将軍とその部下達が、巨大な皇帝城の作戦会議ホールに鎮座していた。

 皇帝を奥とする長テーブルの左右に四人づつ八将軍がイスに腰掛けている。

 皇帝の左側には、黒の将軍であり皇帝の懐刀インドラとその部下達がいて

 皇帝の右側には、白の将軍、ラエリオン卿がいる。角張った髭に大きな体躯のラエリオン卿は、獅子のような余裕の笑みをたたえ


「陛下…よいよ開戦ですな」


 ブルートスは無表情で

「宣戦布告の知らせは?」


 ラエリオン卿の隣にいる黄の将軍が

「三日ほど前から…」


 さらに隣の青の将軍が

「ですが…その日…カメリアではウェフォルの襲来が二件ありまして…」


 更に隣の緑の将軍が

「国内にあるカメリア在軍の将校からは、待って欲しいと…」


 緑の将軍の向かい向かい側の紫の女将軍が

「当然、宣戦布告は、その国が最も嫌な時に行うが、定石でしょう」

 

 紫の将軍の右隣、赤の女将軍が

「嘗てのカメリアも我々が不利な時に宣戦布告しました。そのお返しです」


 赤の女将軍の右隣、銀の将軍が

「これは勝ち戦です。ゆるりと勝利するのを見届けましょう」


 ラエリオン卿が

「インドラ殿…顔色が優れないが…どうか、したのかね?」


 インドラは口を詰むんで目を閉じている。


 ブルートスが

「どうした、インドラ?」


 インドラは目を開け

「余り、図に乗ると痛い目を見るのは、世の常なので…」


 他の将軍達が、インドラを見つめる。


 将軍達は、名門貴族の者達だ。貴族でもなく、ブルートスのお陰で将軍になれたインドラにあまり良い感情を持っていない。

 それに、インドラの背後にある、ヴァーチェー財閥は、膨大なロゼッタストーンの資源を使って急成長した。成り上がり者と思う者も多い。


だら、ラエリオン卿は

「インドラ殿、確かに卿の言葉は身に染みる。だが…今は、二十年前のような我々ではない。アレもある事だしな…」


 銀の将軍が

「宇宙砲台ネメシス。それによってレアドを隔てる巨大山脈を吹き飛ばしたのだ。それも合わさっている。問題はなかろう」


 インドラが

「だと、良いのですがね」



 レアドとジェネシス帝国を隔てる十キロの巨大湖の上をジェネシス帝国の飛翔船艦隊が進む。膨大な量の物量を持ってカメリアに侵攻するのだ。

 現在、カメリアは二体のウェフォルの襲来によって軍を派遣出来ない。

 まさに、絶好の機会だった。


 だが…湖面が荒くざわめく。


 飛翔船艦隊のレーダーに巨大な影が映る。

 それは、十キロの巨大湖を覆い尽くす程の何かだ。


 十キロの巨大湖の湖面が爆発し、巨大な山脈が突き出る。

 それを回避する為に艦隊は後退した。


 それは十キロの巨大湖を覆い尽くし、雲を突き抜け、天を穿つ程の巨大さだった。

 その頂上が動いた。巨大な龍の顔だ。

 全長十二キロ、最大高さ十二キロの深紅に輝く超巨大な龍が出現した。

 巨大な山脈の如き腕を脚、赤く光る連峰の如き龍躯体。

 余りの巨大さに艦隊は何が起こったのか、理解出来なかった。


 この十二キロ級の深紅の龍こそ、アルシュの超龍(ドツラークレス)だった。


 ゴオオオオオオオオオオ、衝撃波の雄叫びを上げるアルシュのドッラークレス。


 アルシュの意思は、ちゃんと通っていた。


 アルシュは、ドッラークレスの地平線が丸くなる高さから、足下を見て

 まずは、壊滅させるか。ああ…でも、犠牲者は少ない程度ね。

 

 アルシュのドッラークレスは数キロ級の龍の顎門を開き、そこから豪雨の拡散光線を放つ。

 それにジェネシス帝国の飛翔船艦隊は襲われ、損傷、不時着して、さらに周囲数十キロの拡散光線の被害が広がった。



 その場景を通信でジェネシス帝国の帝都にある皇帝城の作戦会議ホールから見る一同は、驚愕に包まれていた。

「な、なんだこれは…」

 緑の将軍が漏らす。


 だが、慌てていない者がいた。

 皇帝ブルートスとインドラに、インドラの後ろにいる部下の女、ローツとグエンだ。

 四人とも、それがインドラの使うドッラークレスと同質であると見抜いた。


 ラエリオン卿が

「ネメシスを放て!」


 その命令を受理して、帝都の真上の宇宙にある全長二百メーターの巨大宇宙砲台が、あアルシュのドッラークレスに照準を向ける。


 アルシュのドッラークレスは、強力なエネルギーの収束とドッラークレスの感覚で感じる。

 なんだアレ?

 ドッラークレスの超視力が宇宙砲台ネメシスを捉えた。

 ああ…アレか! もしかして、この山脈を吹き飛ばしたのは! 

 ネメシスの貯めるエネルギー規模から、それが推測出来た。

 じゃあ、潰そう。

 

 アルシュはドッラークレスの咆吼をネメシスに向ける。


 ゴギャアアアアアアアアアアアアア

 直径五キロ級の超巨大咆吼光線がネメシスに走る。

 その距離は軽く数千キロ。

 ネメシスも砲撃の光線を放つも、アルシュのドッラークレスの咆吼が強すぎてかき消え、アルシュのドッラークレスの咆吼閃光によってネメシスは破壊された。


 その間に、艦隊は撤退していて、アルシュのドッラークレスの周りにはいない。


 よし、とアルシュはドッラークレスの山脈級の両龍腕を振り上げ、大地を突貫する。

 その衝撃がジェネシス帝国側へ走り、地震を発生、突貫した大地から大量のマグマが噴き出し、アルシュのドッラークレスをマグマに包みながら、ドッラークレスを呑み込んで巨大な火山山脈を形成した。

 レアドとジェネシス帝国を隔てる天然の要害が再び復活した。


 アルシュは、露出していたドッラークレスの部分から飛び出し、ディリアの元へ帰る。

「終わったよ」

と、暢気に告げる。


 ディリアは起こった事に言葉を失って呆然として、エネシスは額を抱える。


「全く、何て事を…やり過ぎです」


「そうかなぁ…」

と、アルシュは思いつつ残り香として残ったドッラークレスだった赤いロゼッタストーンの火山山脈を見て

 あ、取れそうな位に表面が出てる…。もしかして…。


 アルシュは怪しげな笑みを浮かべ

「ねぇ。ええ…ディリアさん? 様? ああ…レアド領主様?」


 ディリアは頭を振り

「ディリアでいい」


「じゃあ、ディリア、カメリア合衆国大統領と話が出来る?」

とアルシュは告げる。


 エネシスが怪しむ顔で

「何をするつもりですか?」


 アルシュは肩を竦め

「手打ちだよ。上手いね」

と、怪しげに微笑んだ。

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