第18話 エネシスとの行楽
オラ、アルシュ。何となくグラディエーター武術の道場に通うのが日課になって来た時だ。エネシスが顔を見せた。
メルカバー邸にエネシスは来て
「こんにちは、アルシュ」
どこか冷たい表情に固い笑みをエネシスは向ける。
アルシュは微妙な顔をして
「どうも…で、何の用ですか?」
エネシスはジーとアルシュを見つめ
「貴方の様子を見に来ました」
アルシュは面倒クサそうな顔で
「なんで? また…」
エネシスは目を細め、チベットスナギツネのような顔で
「貴方は、天輪丞王という予言を授かりました。
教会は、貴方の行く末に興味がある。
破壊者になるか…偉大なる王になるか…」
アルシュは皮肉な笑みを向け
「普通に何もしないで終わるかもしれませんよ」
エネシスはニヤリと怪しげな笑みを浮かべ
「その心配は一切しなくていいですよ。
絶対に貴方のような者は、巨大な流れに否応なしに巻き込まれるのは必須ですから」
アルシュは頭を掻きながら
「様子を見に来たのならいいでしょう。こうして、元気ですから」
エネシスはアルシュの頭を撫で
「ええ…ですが、今…貴方が何を思っているか…それを聞き出さない事には、帰れません」
アルシュは大きく右に項垂れ
「面倒クサい…」
エネシスが淡々と
「面倒なら、ハッキリを考えを言いなさい。それで終わりです」
アルシュは頭を掻きながら
「別にそんな…大した…」
脳裏に、アルテナを誘拐した女の姿が過ぎった。
あ! あの女…確か…聖遺物って、スノーホワイトとか…
アルシュはエネシスを見つめ
「エネシス様、聖遺物ってどんな扱いになっています?」
エネシスは首を傾げ
「扱い? どういう事です?」
アルシュは好奇心の目
「誰か…そう、管理をしているとか、どんな聖遺物があるか把握しているとか…」
エネシスは左に首を傾げながら
「ワールストリアに置ける聖遺物の管理は、主に教会が行っています。
それでも、管理出来ない聖遺物はありますから…何とも…」
アルシュは顎に手を置いて考え…
「こんな聖遺物って何処の所在か…分かります」
アルシュは、メルカバーの屋敷の書斎で、紙にディリアの目に浮かんだ聖遺物の紋章を書く。
幾何学模様の円環に中心に乙女のようなマークを書き
「スノーホワイトって、言っていたような…」
アルシュの図と言葉にエネシスは考える様に右手を顎に当て
「絵は…まあ、得意ではないのですね」
アルシュは右頬を引き攣らせ
「まあ…それはいいとして」
エネシスは「んん…」と考え込んで
「その構図、スノーホワイト…。もしかしてワールストリアの南にあるカメリア合衆国のレアド領の領主の血筋に代々伝わる聖遺物、スノーホワイト(眠れる森の美女)では…」
アルシュはエネシスを見つめ
「それ…聞かせて貰っていいですか?」
アルシュはエネシスから、カメリア合衆国のレアドの穴という紛争が勃発する寸前の領地の話を聞いた。
「ああ…ジェネシス帝国とカメリア合衆国が…」
なんで、アルテナを誘拐するに関係しているんだ?
エネシスがアルシュに
「何か、思い当たる事でも?」
アルシュはエネシスを見つめ
「黙っていてくださいよ。実は…」
アルテナを誘拐したのが、そのレアドの領地にいる者かもしれないという話を聞いて、エネシスが暫し考えた後、右腕にある立体映像端末の手甲からとある画像を出して
「これに見覚えがある者がいますか?」
それは、ディリア達の写真だった。
どこかの集合写真で、皆、武装して並んでいる。
アルシュは驚きを向ける。全員が、しかも中央にいるディリアは間違いなく誘拐しようとした女の首魁だった。
アルシュは微妙な顔をして
「その…全員が…アルテナの誘拐に…」
エネシスは眉間を寄せて
「もしかして…領地を救う為にやったかもしれませんね」
エネシスは、アルシュにとある推論を聞かせる。
現在、カメリア合衆国レアド領地は、東にある天然の要害であり、国境たる山脈が何かの原因で消し飛び、巨大な湖になり、そこへジェネシス帝国の軍団が入り込んでいる事。
ジェネシス帝国は、二十年前の戦争でカメリア合衆国の敗れ、その意趣返しをしたいと思っている事。
つまり、ジェネシス帝国にレアド領が滅ぼされるかもしれないと事態であり、その打開として、北半球でも巨大な力を持つ、このヴィクタリア帝国を巻き込んで、三竦みの状態を作りだそうとしたのではないか…。
アルシュは腕を組み
「ふ…ん。じゃあ、レアドが無くなれば自動的に、アルテナが再び狙われる事は…」
エネシスは肯き
「ええ…ないでしょうね」
アルシュは考える。
このまま放って置いても…でも…。
地球時代の事が過ぎる。戦争によって難民となった人々が悲惨な事態になった事。
そして、自分は…その地球時代では、全くの立場のない弱者だった事。
自分で自分の額を叩きながら
このまま、見捨てるか…まだ、血の力は生きているから呼べば…。
エネシスが
「気になりますか?」
アルシュは微妙な顔で
「まあ…見届けたいってのは…」
エネシスが軽く
「じゃあ、行きましょう」
アルシュが「え?」と口にして
「でも、アルテナの誘拐犯が気になりますから、はい、行きましょうなんて…」
エネシスは得意げに
「理由は幾らでも作ればいい。
そうですね。こういう理由なら誰しもが納得するでしょう。
貴方は、自分の力の最大値を知らない。それを知る為に教会の関係者である私が
貴方を連れて行く。どうですか?」
アルシュが首を傾げ
「そんなの通じるのですか?」
エネシスは肯き
「任せなさい」
エネシスは、祖父シドリアと母ファリティア、父アルファスにアルシュの力がどれ程のモノか調べたいとして預かりたいと申し出た。
三人は顔を見合わせる。
エネシスが
「後々の為には必要だと思いますよ」
アルファスが
「分かった。お願いします」
アルシュは思った。どんだけ教会に信用があるんだ?
こうして、エネシスの目論み通り、アルシュはディリアのレアドへ向かう事になった。
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