第17話 ディリアの故郷
ディリア・アーヴァーチェスト・レアド
カメリア合衆国、東部の山脈の麓にあるレアド領を治める貴族の娘だ。
アルシュと遭遇した年齢は二十歳。
カメリア合衆国は大小様々な領地の集合国家で、細かい領地が数十個集まり、一つの州を形成し、その州が集まってカメリア合衆国という連合国家を形成している。
君主民主主義国家ではなく、立憲民主主義国家だ。
北と東には国境と隣国を隔てる山脈の国境があり、南と西には大きな大洋を持っている。
人口は凡そ、三億人。一応は民主主義国家であるが…根深い地域差別は残り。
政治の主柱は、ワールストリアを又に掛けるカリメア合衆国の国際企業や財団によって仕切られている。
まあ、大統領制をとってはいるが…大企業や財閥の息が掛かった大統領がなりやすい。
偶に、民衆の支持によって無関係な大統領も出るが…。
あまり、大きな事は出来ない。いや、後押しがないから何も出来ない。
自由と平等、そしてどんな者でも大物になれるカリメアドリームなんて、言葉もあるが…そんな人物は、数億人に一人しかいない。
そんな妄想を信じている民衆もいるが、現実は非常で、結局は持って生まれた家や、身分によって将来は決まってしまう。
貧困だった生活が、精々、中流くらいになるまでは、よくある。
不幸な生まれも者が大成功するなんてのは、結局、数億人に一人しかいないのだ。
そんな地球でいう何処かの、世界一番って言っている何とか合衆国と似た国では、とある問題が勃発していた。
ディリアのいるレアドの領地には、東に大きな山脈を背負っている。
それが天然の要害となり、ジェネシス帝国の侵攻を防いでいた。
無論、レアド領にも、レアドの軍があり、合衆国軍隊も駐留している。
その天然の要害たる山脈が、突如、破壊されて巨大な広い湖となった。
直径十キロもの巨大湖、険しい二千メータ級の山脈の尾根が消え、その爆発した粉塵で、冷夏の年になった。
そして、ジェネシス帝国との堺が消え、ジェネシス帝国の軍団が目前に出現した。
ジェネシス帝国の抱える軍隊は総数二千万、その殆どは、帝国内の警備や治安維持で消えるが、数百万もの軍隊は予備として、その価値を見いだされてはいない。
開かれてしまったジェネシス帝国との穴、レアドの穴。
そこにジェネシス帝国の軍隊二百万が集結する。
始めは国境は越えてこなかった。だが、次第に国境を越えて、サラミを薄くスライスするように国境を制圧し始めた。
単なる領域侵犯が、やがて定住、ジワリジワリと、ジェネシス帝国が迫って来る。
むろん、カメリア合衆国は抗議、領地侵犯する部隊に攻撃を仕掛けようとしたが…その年は飛んでも無い事態になった。
この世界の魔法や、魔法工業を支える重要物質。
地球でいうレアメタルや、シリコン、ネオジウム等、工業の主要部材であるロゼッタストーンはどのように取れるのだろうか?
それは、地中にあるウェフォルという巨大な金属生命体の化石が、ロゼッタストーンの原料である。
ウェフォルは太古から存在し、それが陸地や海底で死んで、大地に埋まって化石になり、それを人は地中から採掘してロゼッタストーンにする。
しかも、このウェフォル。現在も存在し、海中から災害のように出現し、陸地を荒らす。
ウェフォルの全長は大体百メートル、全高五十メートルという、とんでもない大怪獣だが、倒せば、多くのロゼッタストーンが取れるので、軍隊を使って陸地に上がって来るウェフォルを狩るのだ。
ウェフォルの陸地襲来は、年に数回、平均して6・7回程度だが…。
この年のカメリア合衆国のウェフォル出現は異常で、十回を超えていた。
無論、多くのロゼッタストーンが手に入るのだから、有益だが、何と…二体同時に出現やら、通常の何倍もあるキング級が出現が度々起こった。
ロゼッタストーンは手に入る。
だが…その損害が大きく、消耗も激しい。
復興や、ウェフォルの対策、その他国内維持の為に、ジェネシス帝国への対処が後手に回る。
まさに、カメリア合衆国にとって泣きっ面に蜂の状態だった。
ディリアの両親は死んでしまっている。
自分にあるのは、残っている妹達と、この領地の皆だ。
守らねば…。
ディリアは秘密裏に、ジェネシス帝国に接触を行う。
交渉によって、自分達を守る為に。
ディリアの領地を前にするジェネシス帝国の軍隊は、ディリアに告げる。
今すぐ、自分達に従うか…蹂躙されるか…。
四半世紀前、カメリア合衆国とジェネシス帝国は戦争をして、カメリア合衆国が勝利して、ジェネシス帝国は敗戦してカメリア合衆国の搾取されるという属国になってしまった。
現在は、その関係は解消され、対等にはなっているが、ジェネシス帝国の中には、カメリア合衆国に対して恨みを持つ者が多い。
とくに、このレアドの穴に集まっている軍隊は、その流れをくんでいた。
カメリア合衆国を倒して、再び勝利を!
そんな狂気を纏った軍隊達が、レアド領の前にいた。
ディリアは絶望に陥っていると、そこへジェネシス帝国にとある上級士官の一人がとある提案をする。
北半球にある巨大帝国、ヴィクタリア帝国の皇位継承者を誘拐して、ジェネシス帝国にいるとすれば、ヴィクタリア帝国は、ジェネシス帝国に皇位継承者を奪還する為に、動きを起こすだろう…と。
つまり、この戦争に、別の第三者を取り入れて引っかき回し、自分達を守るという案を提示したのだ。
実際、ジェネシス帝国の内部にも、カメリア合衆国と戦争をするのを良しとしない人物達はいるのだ。
二極対決を三竦みの状態にさせる。
無論、ヴィクタリア帝国が絡めば、直ぐに皇位継承者はヴィクタリア帝国に帰す。
そんな、算段である。
これはとんでもない案だ。一歩間違えば、この案を決行したカメリア合衆国が攻められ、ヴィクタリア帝国とジェネシス帝国が結託して、カメリア合衆国は終わるかもしれない。
大戦争になって、多くの死者が出る。
だが、成功すれば…大きな楔にはなる。
もう、一か八かの賭けにでるしかなかった。
ディリアはそれの案を飲んで、そのジェネシス帝国の上級士官に頼んだ。
無論、失敗すれば、全て終わり、協力したジェネシス帝国の者達は知らぬ尊前。
ディリア達は、殺されるか、もしくは…考えたくもない事態になるだろう。
ディリアは、これを領地の仲間達に打ち明ける。
みんな、快く了承して、作戦が決行された。
それは、アルシュによって失敗した。
ディリア達は、急いでレアド領へ戻る。
領主館の高い部屋のテラスから現状たる東、レアドの穴を見る。
巨大湖には、ジェネシス帝国のナイツ級やギガント級、キングス級のゴーレム達を乗せた輸送飛翔船の艦隊が展開されている。
もう…この故郷であるレアド領が蹂躙される未来しかない。
何より、アルテナ誘拐事件に協力したディリア達を生かしては置かないだろう。
ディリアは、ジェネシス帝国の艦隊を見つめ、希望が消えた眼で、ただ、この後の地獄を見ていた。
そんな時、ある事が過ぎった。
”死にたくなかったら、言うといい。レッドリーレス、アルシュってね。助けてやれるかもしれないぞ”
アルシュの言葉が過ぎった。
何でも縋る気持ちだった。
「助けてくれ…アルシュ…」
そう告げた。
そうして、ディリアはその場に蹲った。
もう、終わりだ…と。だが
「はいよ。呼ばれて来ました!」
と、アルシュが屋根からディリアの前に飛び降りた。
「ええええええ!」
ディリアは度肝を抜かれて腰を抜かした。
アルシュはニヤリと笑み
「呼んだのにその態度は、寂しいなぁ」
そこへテラスの部屋の奥から
「何をバカな事を言っているんですか!」
エネシスが出てくる。
ディリアは、アルシュとエネシスを交互に見て
「なんで? ええ? 本当に呼んだから…」
「そうだよ」とアルシュは笑む。
エネシスが呆れ顔で
「私が、アナタの事を教えたら、気になるから来てみたいと言って、私が連れてきたんですよ」
ディリアはアルシュを見つめ
「本当に何とかしてくれるのか…」
アルシュは悪魔のような笑みを浮かべ
「ただし、条件がある。お姉さんを僕のモノにしたい」
その笑みはまるで子供には似つかわしくないゲスの笑みだ。
その頭にエネシスが拳骨して
「そんなバカな事を言わない。本当の目的を言いなさい!」
アルシュは殴られた頭をさすりながら
「ここで起こる事は、絶対に僕がやったって事を秘密にしてね」
ディリアが不安げに見つめ
「何をするんだ?」
アルシュは真剣な眼差しで
「僕の力、レッドリーレスが何処まで発動出来るか…試すのさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます