第16話 インドラ・ヴァーチェーとは
その男は、この世界ワールストリア南東部の帝国、ジェネシス帝国にいた。
ジェネシス帝国、五億人に及ぶ大きな国で、北ち西側に国境の山脈、東側に大きな海洋を持つ、この世界では有り触れた国である。
それはこの男が十歳の時の話だ。
何処にでも貧困格差は存在する。故に…長男であった、当時、少年は…奴隷商人に売られた。
無論、これは非合法である。一発で警察沙汰だが…どんな世界にも裏は存在する。
両親は貧しかった。当時のジェネシス帝国は、隣国のカリメア合衆国との戦争によって疲弊しカメリア合衆国の経済制裁によって貧困に陥っていた。
経済やその他は、勝利したカメリア合衆国に握られ、カメリア合衆国の属国に成り下がっていた。
彼の両親は貧しさ故に、子供を売るしかなかった。
無論、カメリア合衆国は、これを禁じるように、ジェネシス帝国に申し出ていたが、ジェネシス帝国が貧困に陥っている理由は、カメリア合衆国による搾取の所為なのだが…。
その現実をカメリア合衆国は見ずに、ただ、圧力を掛けている。
それが、更なるジェネシス帝国の隷属に繋がっているので、一石二鳥だった。
両親は、少年と下にいる二人の幼子とを比べて、どうするか考えた末、一番上の少年を奴隷商人ならぬ、工夫になる工場へ売られた。
十歳の子供は、高く売れるので、そのお金で、何とか残りの家族は生き残れる事が出来た。
建前は、工場の工夫となる真っ当に見えて、完全なる奴隷の売買だ。
売られた先で死のうが関係ない。
それほど、キツい苦痛の労働の轍にされるか、または…変態貴族の玩具にされるか…。
万分の一の運の良さに掛ければ、優しい人に買われるかもしれないが…そんな事は
ありえない事でもある。
少年は、同じように売られる子供達と共に魔導トラックに乗せられていた。
子供達は男女様々で、同じ十歳達だ。
トラックは静かである。
子供達は分かっている。この先に絶望しかない。
逃げられないように魔導の首輪が填まっている。
大きな肩まで掛かる奴隷の首輪。
運ばれる最中、魔導トラックが轍に填まって動けない。
子供達も手伝わされトラックが抜けると、奴隷商人は近くの冷たい泉で、汚れた子供達に泥を落として自ら洗えと言った。
子供達は素直に、言う通りにする。
その泉の前には、嘗て神世の時代に動いていたとされる百メータもある巨大ゴーレムの化石が横たわっている。
少年がそれを見上げると、頭上に黄金の空を見た。
少年は、引き寄せられるように、黄金の空がある下へ来た。そこには少年しかいない。
そして、黄金の空から光が少年に墜ちて、大爆発した。
奴隷商人は驚き、洗っていた子供達をトラックに回収する。
そして、爆発した中心に来ると、そこには、光を受けた少年が仰向けで浮いていた。
奴隷商人は、少年の息を確認すると生きているので、少年を抱えてその場から逃げた。
少年は乗せられたトラックで目を覚ますと、そこには少年を心配げに見つめる子供達がいた。
少年は起き上がると頭を抱える。
声が聞こえる。
ほう…オレは、ガキの体と一体化したのか…。
少年はトラックで膝を抱えてジッとする。
他の子供達も大丈夫なのを見て、同じく膝を抱える。
だが、少年の脳裏には、少年が知らない記憶が過ぎっていた。
記憶の人物は、男性。
名前は…都田 健慈郎。
日本人で、とある諜報機関に属していたが、上司の切り捨てにあって逃げていた時、
中山 ミスルと同じ不思議な水晶の遺物にエジプトで遭遇。
中山 ミスルと同じく未知の超存在と融合、このワールストリアに来て、少年と融合した。
少年はニヤリと笑った。自分には、邪知を知り尽くした人物の英知と、超存在ドッラークレス(超龍)の力が宿ったのだ。
ゆっくりと、少年と健慈郎の人格、記憶、超存在ドッラークレスが融合する。
少年の目付きが、少年ではない鋭いモノとなった。
少年と同じ少年少女の奴隷を乗せた魔導トラックがとある場所に来る。
そこは、巨大な二十メータの塀に囲まれた町だった。
奴隷商人達は、子供達の首輪を外して解放した。
逃げられない檻の町の中へ。
少年は始めに同じ年代の銀髪の右目が潰れた少女にである。
少女は言う。
「ここは、人殺しの町だ」
そう、ここは人殺しをする為の町。
大金を払った富豪や貴族がマンハンティングする狩り場だった。
獲物は子供、狩人は大人、それも武器を持っている。
警報が鳴る。殺人狩りが始まったのだ。
大金を払って人殺しを楽しむ外道共が来た。
その外道の中で一人
「こんなの止めようぜ!」
止めようとする男がいる。彼はとある貴族の青年で、悪友に唆されて秘密のマンハンティングに来てしまった。
「うるせー 意気地無しが!」
悪友は、人殺しの外道を楽しむ気だった。
少年は、銀髪の少女と隠れながらニヤリと笑う。
貴族や富豪なら、それなりの情報を持っている。
これは…使えると…。
少年は、殺人狩人の前に出た。
子供達は隠れている。
狩人の外道達が、持っている銃剣の銃口を少年に向けた。
「バカな連中だ」
と少年は告げた瞬間、少年は一体となったあの力を発動させる。
黒のレッドリーレスである。黒故に、ブラッドリーレスだ。
ゴオオオオオオオオオ、暴虐な竜の雄叫びが響き渡る。
狩人は、あっという間に狩られる獲物になった。
銃剣も通じない、持ち精霊の攻撃さえも不能。まあ、こんな外道をする連中の持っている精霊なんて、ちっぽけな力しかない。
故に、その劣等感を払拭する為に、外道をやっているのだから、自業自得である。
狩人だった獲物は、あっという間にブラッドリーレスに握り潰され、その握り潰す中で、狩人達の記憶を覗く。
狩人の達の記憶をゲットしながら、一匹一匹、外道を潰して行き、生かす者達の選別をする。
生かす連中は脅しに使える者だ。
富豪と貴族の連中だ。こんな事が知られれば社会的に信用を失墜、終わる。
生かす者達は、両手足を折って、ミミズのようにした。
それの恐ろしい光景を、悪友からの誘いを拒否していた貴族の青年は見て、恐怖で怯えた。
ブラッドリーレスがその青年を黄金に光る竜眼で捉える。
青年は失禁した。
ブラッドリーレスの少年は、一番の獲物を見て笑む。
この青年は、末席だがジェネシス帝国の王族の血筋の者だからだ。
この狩り場を運営する者達が異常事態に、ナイツゴーレムを持ち出すが。
ブラッドリーレスが、五つに割れる咆吼の砲身を向けて、一瞬で消滅させた。
少年は、事態を収束させ、怯える帝国王族末席の青年の前に降り立つ。
「ねぇ…お兄さん。僕を飼わない? その代わり、お兄さんの望みを叶えてあげる」
少年は、悪魔のような恐ろしい笑みを向ける。
青年は逆らえない。逆らえば、殺されるか、両手足を砕かれたミミズのような者達にされる。
「ああ…うん。いいかもね」
青年は怯えて顔を引き攣らせて頷いた。
青年は名を告げる。
「わ、私の名は…ブルートス・ユスタリウス。君の名は?」
少年は首を傾げ
「そうだな…」
過去の名など意味は無い。なら、それらしく恐ろしい存在としての名前を告げよう。
「インドラ・ヴァーチェー」
ブルートスは恐怖に引き攣った笑みをする。
「ああ…名前の通りだね」
その名前は、神世の時代に存在した最強の全てを破壊する閃光の権勢の名だった。
全てを破壊した、インドラの前に、あの右目が潰れた銀髪の少女が来た。
「ねぇ…私達も連れって」
銀髪の少女の隣には、別の四人の少女達がいた。
赤、青、銀、緑、紫の五色の髪の少女達。
インドラは笑み
「いいよ。一緒にやろうか…」
赤がローツ、青がビナウ、銀がジーバー、緑がグユン、紫がリラだ。
そして、ここに連れられて来た子供達は、ここでマンハンティングしていた貴族や富豪の家族達を脅して、金銭の援助をさせて、生活や将来の学業の手助けをさせた。
後に、インドラに助けられた子供達の多くが、ジェネシス帝国の軍や、政府、経済界関係に進出した。
その前に、インドラは、ジェネシス帝国の裏にある闇の情報を全て手にする為に、暗躍する。
非合法の奴隷商人達を鏖殺して、その情報をゲット。
それにはカメリア合衆国のトップ達や、財界連中の知られたくない情報まであったので、それを使ってカメリア合衆国を脅し、ジェネシス帝国の経済界の傀儡を解除させた。
そして、ブルートスの望みは、ジェネシス帝国の皇帝になる事だった。
故に、まずは資金として、インドラは、ブラッドリーレスより上位のドッラークレスを発動させ、その残留で生じる膨大な黒のロゼッタストーンの資源の山を作り、それを資金にジェネシス帝国の経済で暗躍する。
まずは、民衆の生活の向上。膨大な数千億トンに及ぶロゼッタストーンの資源を元手に工場や商業を活発化させ、敗戦で落ち込んでいたジェネシス帝国を復興させた。
無論、カメリア合衆国がやっかみを入れたが、それをやろうとする連中が隠している。
ブラック情報をバラ撒き、失墜させ、それによりカメリア合衆国はジェネシス帝国に手が出なくなった。
インドラが二十歳の時には、ブルートスが皇帝候補にのし上がり、そしてインドラの周囲には、インドラの力を込めたブラードダイヤの女性部隊が誕生した。
そのトップは、彼女達五人だ。
そして、インドラに助けられた少年少女達は、ジェネシス帝国の軍、政府、政治、情報、マスコミ、魔導ネットコミと、進出。
力を強めた。
インドラ、三十の時、ジェネシス帝国で皇帝の後継争いが勃発。
表向きはブルートスのお陰で収束した事になっているが、インドラの影からの行使によって、後継者争いは終わり、それに加わっていた軍関係者は、力を失墜させた。
インドラ、三十二歳、遂にブルートスがジェネシス帝国の皇帝になった。
インドラは、ジェネシス帝国の八つの将軍の内、黒の座を手に入れる。
37歳の現在、インドラが皇帝ブルートスに謁見する。
「おはようございます。陛下。陛下にましてはますますの」
「よい」と皇帝の玉座にいるブルートスが告げ
「わしとお前の仲だ。くだらん形式挨拶なぞ無用」
「は…」とインドラは顔を向け
「陛下、どうやら…例の事が失敗したようです」
ブルートスは頭を振り
「ワザと失敗させたのだろう」
インドラは肩を竦め
「そのつもりはございません。では…予定通りに」
ブルートスが苦笑して
「お前によって落とされた軍関係の連中が、名声を求めてウルサい。
ガス抜きをさせてやれ」
インドラが
「良いのですか? カメリア合衆国と問題を…」
ブルートスが
「もう、我々はカメリア合衆国の属国ではない」
インドラが複雑な顔をして
「ですが…カメリア合衆国の軍事基地は、何カ所か国内にありますが…」
ブルートスがフッと笑み
「そんなの、連中の勝ったんだという自己満足だ」
インドラはお辞儀して
「分かりました。では…」
去ろうとするとブルートスが
「これもお前のシナリオか?」
インドラが振り向き
「わたくしは、邪知暴虐の王ではありませんので」
と、去っていた。
ブルートスが
「何が、邪知暴虐だ、邪英恐見の魔神ではないか…」
と、皮肉のような言葉を紡ぐも、納得はしている。
インドラのお陰で皇帝になれたのだから。
そして、思い返す。
あの悪魔のような笑みをした少年時代を。
今、思えば、恐怖ではなく自分が魅入られたのだろうなぁ…と。
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