第15話 ユースの誘い
オラ、アルシュ。オラは信じられていないようだ。レッドリーレスの力を恐れた人達がオラを鍛えてコントロールさせるなんて言い出して、現在、絶賛、道場通い中
アルシュのレイールの道場通いは週に二日である。
一週間の内に火曜日と金曜日、その二日の夜に道場に通うのだ。
帝都にある東京ドームの二倍もの、大きな総合スポーツジムの人工芝生の道場で、アルシュはレイールから色々な手解きを受けていた。
他の道場生達は、師範代達が様々な武術を教えているが、アルシュだけは未だに、受け身や突きの練習をしていた。
まあ、通って二週間しか経っていないから当然と言えば当然だ。
「こうだぞ」
レイールが手本を見せて、アルシュが同じように転がり
「ここは、こうだぞ」
とレイールはアルシュの受け身の練習を手助けする。
それをレミリアは時々見つめる。
武術の修練の時間は、一時間だ。普通なら入った初日と次の日で受け身だけの練習は終わり、四日目には、半分受け身と突きの練習で、後の半分は、同じように武術の訓練だが、レイールはアルシュをそのようにするつもりがないのだ。
アルシュもアルシュで、そのレクチャーだけで終えて何となく帰って行く。
普通の子なら、他の子達がやっている事も同じようにやりたがるのに、そんな素振りは一切見せない。
「レミリア先生」
と、ルシェルが呼び掛ける。
「な、なんでしょう…」
レミリアは眼鏡を上げて焦りを隠す。
「一の型の練習をお願いします」
ルシェルのお願いにレミリアは肯き
「分かりました」
ルシェルが首を傾げて
「レミリア先生。おかしいです。ずっとあの子を見ている」
レミリアは眼鏡の付け根を押さえて
「そろそろ、皆と一緒に武術の訓練でも構わないと思いましてね」
ルシェルがレイールに教わるアルシュを見て
「ずっとレイール先生が、あの子を教えてる。ちょっと憶えるのがヘタなの?」
レミリアは眉間を寄せて
「そんな風には見えませんがね」
「じゃあ、わたしが連れてくる」
と、ルシェルはアルシュの元へ行く。
「あ、ルシェル」とレミリアが止めようとするも遅かった。
ルシェルは、レイールとアルシュの前に来て
「レイール先生、そろそろ、その子も一緒に武術の訓練しましょう」
ルシェルがアルシュを呼びにいったのを、他の大人や年長者達が見つめている。
そう、彼らにはアルシュが加わらない理由が分かっている。
アルシュに接するのを、止められているからだ。
庶子であってもヴィクタリア帝国の皇帝の長男であり、正妃達の息が掛かっている。
陸軍関係者が多いここは、ヘタにアルシュに関わると、職場や、陸軍の関係者に迷惑が掛かる。
レイールがルシェルに
「ルシェル。まだ、この子は上手く受け身が取れないんだ。もう少し待ってくれ」
ルシェルが首を傾げ
「そんな事ないもん。見ていたけど、大丈夫だよ先生」
アルシュは困惑な顔を向け
「ごめん。もうちょっと練習させて」
ルシェルはアルシュの手を取って
「もう大丈夫だって、やってみれば分かるって!」
アルシュを自分達子供の輪に引っ張って行った。
レイールはそれを見つめる。
子供のやる事だ。咎めるのも…良くない。ここは流れに任せて、もし…何かあったらその時はその時だ。
ルシェルは、アルシュを混ぜてレミリアから一の型を習う。
簡単な突きの連続する動きをルシェルと練習するアルシュ。
ルシェルの方は、小さい頃から習っているので上手い。
アルシュはボチボチである。
そうして、今日も終わり更衣室から出るアルシュの背中に、優しい顔の眼鏡の高校生くらいの少年が近付く。
「こんにちは」
その笑みは穏やかで優しく、人懐っこい。
「ああ…こんにちは」
アルシュは挨拶を返すとその少年の隣に着替えを終えたルシェルが来た。
「お兄ちゃん」とルシェルは少年に抱き付く。
少年はルシェルの兄である。
「はじめまして、この子の兄ユースです」
「でだ…」とユースの後ろにいかにも体育会系という少年が来て、ユースの肩に肘を乗せ
「おれは、コイツのダチの、ノアドだ」
ユースは微笑み
「ルシェルがお世話になったね。ありがとう」
アルシュは首を横に振り
「いいえ、そんな…こちらこそ、お世話になりました」
ノアドが訝しい顔をして
「なんだ? ガキのくせに、畏まりやがって。もっと子供らしく脳天気でいろや」
アルシュは右頬を引き攣らせ
悪かったなぁ…ガキらしくなくて…
ユースが
「ノアド、言い方が乱暴すぎだよ」
ノアドがアルシュの前に来て頭を強引に撫でて
「ガキはガキらしく、年上に甘えろ! 一緒にこい、ジュースを奢ってやるぞ」
「いや、でも…」
と、アルシュが断ろうとすると、ノアドは
「いいから来い!」
強引に事を進めようとするが…。
「何をしているのですか?」
アリアが迎えに来て、それを見ていた。
アリアが鋭い顔をノアドとユースに向ける。
ノアドは気にくわないと顔で、ユースはお辞儀する。
カッツンカッツンと、靴音を鳴らしてアリアはノアドとユースに近付き
「これはこれは、陸軍大将ダルシュン様のお孫様でありますユース様と
帝都守護軍ネモシス大佐の子息、ノアド様でありませんか…」
語尾に威圧を感じる。
アリアは見えない威圧をもって
「これはどういう事でしょうか?」
ノアドは苛立った顔をして
「どうもこうもない。同門のガキに奢る途中だ」
アリアは眼鏡を上げ
「それは、陸軍からの要請ですか? ノアド様…」
ノアドは怒りで眉間が寄り
「テメェ…ガキまでも親の関係を持ち出すのかよ!」
「それを理解出来ないアナタ達の方が問題なのでは?」
煽ってくるアリア
「ああ…なんだと!」
ノアドは持っていた胴衣を撫で捨てた。
ユースがノアドの肩を持ち
「ノアド、ダメだ」
一触即発の事態に、アルシュがアリアに駆け付け
「アリアさん。ごめん待たせて。じゃあ!」
と、アルシュはアリアを引っ張って行き、後ろにいるノアドとユースにルシェルの三人へ手を振って別れた。
アルシュはアリアの運転する魔導車に乗りながら
「アリアさん。あの人達は、初めて声を掛けて貰っただけだから」
アリアは運転しながら
「左様で御座いますか…。ですが、報告はします」
アルシュは頭を掻きながら
「じゃあ、僕も一緒に連れて行ってよ。アルテナの家の城へ行くんだろう」
「アルシュ様が報告するのですか?」
アリアの問いに
「まあね。それとアルテナに渡したい物があるから」
と、アルシュは答えた。
アルシュは、正妃城へ行き、ヴィクティアに道場であった話をする。
それをヴィクティア正妃は聞き肯き
「分かりました。ただ、初めて教えて貰ったついでに、年少者に年長者が世話を焼いたという一幕として…」
「はい」とアルシュは頷いた。
アルシュがいなくなった後、アリアが
「ヴィクティア様、信じますか?」
ヴィクティアは笑み
「嘘か真でなくとも、アルシュがあのように説明するのには、理由があるという事です」
アリアが
「それは…アルシュ様が気を遣っているという事でしょうか?」
ヴィクティアは溜息を漏らし
「存外、子供らくない子です。まあ、陸軍大将には一言だけ、お礼を言って置きましょう。我々はちゃんとアルシュを見ているという事でね」
そう牽制も含めてのお礼だった。
アルシュはアルテナの部屋に行き
「アルテナ、これ…」
と、アルテナの左人差し指に小さな赤い宝石が填まった簡素な指輪を填める。
「何コレ?」とアルテナが填まった左手を見ると、特別な魔導金属で出来た指輪のリングがアルテナの指に密着するように縮まり填まる。
アルシュが説明する。
「ぼくのレッドリーレスの力を閉じ込めた特別な宝石が填まる指輪だよ」
アルシュの少量の血を魔法結晶に閉じ込めたダイヤが填まっている。
アルテナがそれを見ながら
「これがあると、どうなるの?」
アルシュは微笑みながら
「アルテナがまた、誘拐された時に、何時でも助けに行けるし、この血(ブラード)金剛石(ダイヤ)から
ぼくのレッドリーレスの力をアルテナに貸すことが出来るんだ。
無論、それがアルテナを守る防御システムにもなる」
アルシュがアルテナを大事に思って、何時でも守ってくれる装備装飾品を渡したのだ。
アルテナは嬉しそうに微笑み、左手にあるブラードダイヤの指輪を握り
「ありがとう。アルシュ」
アルシュは肯き
「いいよ。そのブラードダイヤの指輪は、アルテナを認証したから、アルテナしか外せないよ」
アルテナはアルシュに近付き頬に感謝のキスをして
「大事にするね」
アルシュは照れくさくなって頬を掻いた。
「まあ…ね…。気にしないで、ぼくはアルテナのナイトだからさ」
アルテナは翌日、それを嬉しそうに母親のヴィクティアに言い、ヴィクティアは優しく微笑んで聞いていた。
そして、アルテナからブラードダイヤの事を聞いたノルンとカタリナは、アルシュに同じモノをねだり、アルシュは渋々と二人に同じモノを作って与えた。
因みに、その材料と工賃は、アルシュがレッドリーレスの密度を上げて質量化させたロゼッタストーンと、その売却費用で補った。
認証した本人しか、外せない特殊な魔導金属は、なにげに高く。
数グラムでも数LG(数万円)した。
マジ、純金と同じくらい価値がある高純度のロゼッタストーン、バリだった。
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