第14話 レイールの道場

 オラ、アルシュ。何か知らんが名門の道場に通うとになったぞ。

 まあ、理由としては…父親のアルファスが陸軍に気を使っての忖度かな。


 アルシュは、陸軍の上層部達の子息が通う名門道場に来ていた。

 そこは、大きなドームで、多くの将来の陸軍の士官候補達が武術を習ったり訓練していたりしている。


 アルシュは、道場ドーム内をアルファスに連れられて歩く。

 所々に沢山のスポーツジムがあり、多くの人達がそこで体を鍛えて汗を流している。


 父親のアルファスに

「ねぇ。父さん。ここはどんな施設なの? 道場って聞いたから、武術の訓練場しかないと思っていたけど…」


 息子の手を握るアルファスが

「ああ…ここは、武術の訓練の他に、帝都にいる臣民にも開放していてね。登録すれば、好きなように施設が使えるのだよ」


 アルシュは「へぇ…」と頷く。

 総合スポーツ施設って所かな…。


 そうして、総合道場ドームの一番の中央、東京ドームでいうなら試合をするグランドに当たる人工芝の所に集団がいる。

 皆、胸だけの簡易鎧を纏った動きやすいスボン衣装である。

 大きな集団で年代別に集まっているらしく、その年代に対応した人物が、その訓練する年代別を纏めている。

 アルシュの入る十代前半の集団を纏めるのは、金髪眼鏡のポニテールの女性と、お爺さんだ。

 

 子供達のクラスのまとめ役のお爺さんがアルシュとアルファスに気付き歩み寄り

「ようこそ…グラディエーター武術の道場へ…」

と、お爺さんは微笑む。

 

 アルファスがお辞儀して

「どうも…レイール様」

 父アルファスがお辞儀して挨拶する人物という事は、相当な人物だとアルシュは気付き


「初めまして」

と、アルシュはレイールに挨拶する。

 

レイールは目を開き嬉しそうな顔で

「なんと礼儀正しい子だ。嬉しいよ。ワシはここの管理を任されている。

 レイール・ファラダット・ダルシュンじゃ」


 アルファスがアルシュに

「この人はここで一番偉いお師匠様だ。失礼がないようにな」


 アルシュは固くなり

「ぼく、アルシュ・メギドス・メルカバーです。よろしくお願いします。師匠様」


 レイールは困った顔で

「良いんだよ。そんな緊張しなくて…」


 レイールの隣に並んでいた金髪ポニテールの女性が来て

「師匠、この方達は?」


 レイールがポニテールの女性を見て

「ああ…ネモシスからの紹介だ」


 ポニテールの女性はアルファスに跪き

「ヴィクタリア陛下。大変失礼をしました」


 アルファスは困った顔をして

「今は、陛下ではない。息子の付き添いで来た父親だ」


 ポニテールの女性は立ち上がり

「こちらが…ご子息様の…」


 アルファスは肯き

「ああ…アルシュだ。世話になる」


 レイールがポニテールの女性の示しながら

「この子は、ワシの孫で、この道場の師範代を務めているレミリアだ。

 アルシュくんが入る十代前半のクラスを纏めている」


 レミリアはアルシュを見る。

 アルシュは、う…と下がってしまう。

 前世で苦しめられた気の強い女達と同じ雰囲気がして怯える。


 レミリアはアルシュの前に来て

「早速ですが。アナタの胴衣が到着しています。今日は、皆と交じって軽く訓練をするという事で」


 レイールが

「レミリア。そんな事を急ぐな」


 レミリアは鋭い視線で眼鏡を上げ

「師匠、ネモシス様の話を…」


 アルシュは、それを聞いて

 え…なに? もっと他に面倒な理由があるの?

 疑わしくなってきた。


 レイールは困った顔をして

「分かった。だが…アルシュくんはまだ、入りたてだ。急ぐ事はするなよ」


「はい」とレミリアは答えて、アルシュを更衣室へ連れて行く。

 

 アルシュは、レミリアから大きめの胴衣を貰う。紫の胴衣でダボダボに緩い。


「これ…」とアルシュは困っていると、レミリアが


「腕にあるメータを捻りなさい」


 言われた通り、腕の袖にあるメータを捻ると、服が締まって丁度良くなる。


「へぇ…凄いなぁ…」


 伸縮自在な素材にアルシュは驚く。

 格好としては、洋風でフェンシングの選手のようだ。


 レミリアは胸部の鎧をアルシュに渡し

「脇にあるヒモで密着を調整しなさい」


 アルシュは胸部の鎧を着て、言われた通りに脇にあるヒモで密着を調整した。


 レミリアはアルシュを一回りして見て

「良いでしょう」


 アルシュは控えめに

「よろしくお願いしますレミリア師範」

と頭を下げると、レミリアが


「正直に言います。アナタがココにきた理由は、アナタの中にある力が原因です」


「え…」とアルシュは戸惑いを見せる。


 レミリアは淡々と

「アナタはアルテナ様を助けた時に、強大な力を見せた。それが暴走しないか、不安に思う者達が、アナタの力を暴走させない為の訓練として、グラディエーター武術のここへ寄越しました。それを自覚して修行に励むように」


 アルシュは俯き加減で

「は、はい…」

と、答えた後、レミリアは背を向け


「では、行きましょうか…」


 こうして、グラディエーター武術の修行が始まる。


 グラディエーター武術とは、自身が持つ精霊との力を織り交ぜた複合武術で、基本的な武術と、対応別精霊の武術を習得する。

 一種の総合格闘技か合気道、又は柔術に近いモノだ。

 まずは、拳の繰り出し方から修行するアルシュ。


 突きの練習をするアルシュと、隣の広い芝生では、同年輩の子供達が、合気道に似た相手を押さえる武術と、空手のような徒手をしている。


 アルシュは突き動きや、受け身の練習を続ける傍には、レイールがいる。

「そう、そうやって…回ってと…」


 レイールは親切に教えてくれる。

 師匠と言われる偉い人なので、厳しい人かと思ったが、優しく手取り足取り教えてくれる。

 それは孫と遊んでくれるお爺ちゃんのようだった。

 時に後ろに付いて、手を合わせて突きの動きを一緒にやり、受け身の回転の動きを支えてくれながらアルシュに伝授してくれる。

 

 アルシュはレイールに

「ありがとうございます」


 レイールは淋しい顔をして

「本当は、みんなと一緒に拳を交えたり、技の動きをしたいのだろう」


 アルシュは微笑み

「師匠とこうしているだけも楽しいです」


 レイールは嬉しそうに微笑み

「良い子じゃなぁ、アルシュくんは」


 レイールがアルシュに受け身と突きを教えているのをチラホラ見るレミリア。

 それに、塾生の女の子一人、黒髪でレミリアと同じくポニテールのルシェルが

「レミリア先生!」

と、呼ばれてレミリアが気付き


「なんでしょう…」


 ルシェルは、アルシュと教えているレイールを見て

「気になるんですか?」

 

 レミリアが目を細め

「ええ…長続きしてくれか…とね」


 ルシェルは首を傾げ

「でも、長続きしない子は、止めてくし。何時もの事でしょう」


 レミリアが顔を渋め

「彼は特別でしてね。続けて貰わないと困るのですよ」


「はぁ…ん」とルシェルは首を傾げる。

 

 レミリアが「さあ」ちルシェルの背中を押して

「次の修練をやりますよ」



 一時間程で武術の修行は終わり、後は同門の全員で、武の象徴の旗にお辞儀して解散。

 アルシュは着替えて迎えを待っていると、ヴィクティアの秘書仕官女史アリアだった。


「ああ…アリアさんが、お迎えなんだ」

 アルシュはアリアに近付く。


 茶髪に眼鏡のアリアは微笑み

「ええ…では、帰りましょうか…アルシュ様」


 アリアの運転する魔導車に乗りながら

「アルシュ様、今日は…どうでしたか?」

 アリアが尋ねる。


「んん…」とアルシュは溜息交じりで

「武術のお稽古は楽しいよ。でも…その…ぼくが力を暴走させない為に武術の稽古をさせているってのは…。信じてないんだね」


 アリアが困り顔で

「もし、何かお困りでしたら、自分に何でもお言いください。出来る事はなんでもしますから」


 アルシュは首を傾げ

「それってもしかして…止めたいって言っても」


 アリアが複雑な顔で

「アルシュ様がとても理解が早い方だと分かっていてお話ししますが。

 グラディエーター武術のダルシュン道場は…陸軍大将ダルシュン様の弟君が師匠です。

 つまり、道場にいるのは全員が、将来の陸軍の士官候補でもあります」


 アルシュは頭を掻いて

「確か…正妃様達と、陸軍は…」


 アリアは肯き

「はい。折り合いが悪い事もあります」


 アルシュは顔を引き攣らせて

「もし、何かあったら言うよ」


 アリアは肯き

「わたくしは、アルシュ様のそういう賢い所が好きです」


「ありがとうアリアさん」

とアルシュは告げる。


 ややこしい所に行かされたなぁ…とアルシュは思った。

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