第13話 ネモシス大佐の報告
ヴィクタリア帝国帝都守護軍、ネモシス大佐がアルテナ救出の現場に来る。
そこは、報告があった通り、飛翔船と、多数のナイツゴーレムの残骸が転がっていた。
そこから奥へ行くと、アルシュがレッドリーレスを解除した際に生じるロゼッタストーンの小山があった。
この現場には自分達の部隊以外、誰もいなかった。
恐らく誘拐犯達は逃亡したのだろう。
帝都の報告では、アルシュはアルテナを助ける為に誘拐犯達と戦い、アルテナを奪還、その場を離れて、近くにあったヴィクタリア帝国の要塞に来たというモノだ。
ネモシス大佐が、その戦闘があったであろう巨大なエネルギーが通過した跡を見回し、その先に山頂が消えた山があった。
「これを…アルファス陛下のご子息がやったのか…」
余りにも想像すると恐ろしさがこみ上げる。
ネモシス大佐に部下が近付き
「大佐、この何かが通過した場所の魔力数値をチェックすると…飛んでも無い事が…」
「なんだ?」
と、ネモシス大佐は部下を見る。
部下は不安げな顔で
「この通過した場所に残留している魔力エネルギーと、山頂を破壊した魔力エネルギーは同質のエネルギーと判明しました。
そして、周辺の村や町から、この山頂を吹き飛ばした大爆発を見たと…証言が…」
ネモシス大佐は複雑な顔で
「つまり、これは…アルシュ様の報告通りだったという事だな」
部下は肯き
「はい…わたくしも信じられませんでしたが…」
ネモシス大佐は部下に
「とにかく、現場を徹底的に調査しろ。賊の手がかりを探し出せ」
部下は敬礼して「は!」と調査に戻る。
ネモシス大佐はレッドリーレスの残留であるロゼッタストーンの小山を見上げて
「これは…厄介な事になりますぞ。陛下…」
この調査の後に、事の大きさを察した帝国政府は、アルテナを誘拐する賊から助けたのは、帝国陸軍の部隊として報告。
アルシュがやった事を隠蔽した。
だが…噂は一人歩きする。
帝国の隠す秘蔵っ子が、とんでもない力を持ち、山頂を吹き飛ばす所業をしてアルテナを助けたと…。
帝都の皇帝城では正妃ヴィクティアがその噂を使える秘書仕官の女から聞いて
「いかが致しましょうか?」
問われたが、ヴィクティアは
「噂に蓋をすることは出来ない。我らはあくまでも発表した公式を伝える。それで十分です」
秘書仕官女が
「では、山脈が消えた事は…」
ヴィクティアは頭を振り呆れを見せ
「アルテナを誘拐した犯人達が、持ってた魔導兵器で行った。公式の発表通りです」
秘書仕官女が
「別の噂を流すというのも…」
ヴィクティアは眉間を寄せ
「噂を噂で消すのですか?」
秘書仕官女は肯き
「はい。アルテナ様の誘拐における。アルテナ様奪還は、我ら陸軍も関わっていたが…。
それをよしとしない第三国も関わっていた。
故に、山頂を吹き飛ばすような大きな戦闘になったと…」
ヴィクティアはフッと笑み
「確かに、その方が…陰謀論者が喜びそうですね」
皇帝アルファスの前にネモシス大佐が跪き
「陛下。是非、聞き届けて頂きたいご進言があります」
アルファスはテラスにいた。
「なんだ? 帝都守護軍ネモシス大佐よ…」
ネモシス大佐は立ち上がり
「ご長男であります。アルシュ様を…わたくしの父に預けて頂けないでしょうか?」
アルファスは眉間を寄せ
「どうしてだ?」
ネモシス大佐は真剣な眼差しで
「父ウルシスは、わたくしに帝都守護軍の代を譲り、その後、精霊の力を交えた武術の道場をしています。
アルテナ様誘拐犯からの奪還現場を見ました。
アルシュ様は…恐ろしく強大な力を秘めています。
それ故に、道を間違えば恐ろしい結果をもたらすやもしれません」
アルファスは察する。
「つまり、そのようにならない為に…アルシュをお前の父に預けると…」
ネモシス大佐は
「父の道場に通わせるだけでも…」
アルファスは、息子アルシュを思う。
アルシュの力については、ファリティアとその父シドリスから聞いている。
不安がある訳ではない。
だが…ネモシスの父ウルシスが道場主である道場には、多くの陸軍の士官やその士官候補生達が通う。
アルシュを陸軍の政治的道具にされないか、心配だ。
ただでさえ、陸軍と正妃や側室達の折り合いが悪いのだから。
アルシュを担ぎ上げ、自分達の権勢を強くするに…。
ネモシス大佐は
「父ウルシスは、節度を弁えています。アルシュ様を無用な派閥闘争に引き込む事は、絶対にさせないでしょう」
アルファスが背を向け
「条件がある。もし、アルシュが無用な権力闘争に巻き込まれる兆候が見えた場合は…」
ネモシス大佐は肯き
「はい、直ぐに、切り止めて頂いても一向に構いません陛下…」
アルシュはアルテナの家、正妃城にいた。
実はここ最近、泊まっているのだ。
理由は、アルテナだ。
誘拐された事が怖くて、思い出して怯え精神が不安定になるのだ。
軽い怯えだが、助け出したアルシュがいるとそれが起こる事がないのだ。
だから、当分の間、アルテナの傍にアルシュはいる。
アルテナの傍にいて、本を読んだり、話をしたり、そんな日常を過ごしているアルシュ。
「アルテナ…どんなお菓子作る?」
アルシュはアルテナと一緒に、お菓子のクッキング本を開いて、三時のおやつにどんなモノを作ろうか決めていた。
この後、名門の道場に通うなんて夢にも思っていなかった。
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