第12話 アルテナの叫び

 オラ、アルシュ。ついに誘拐されたアルテナを発見。助けだそうとするも、誘拐犯の連中はプロの軍人の動きだった。ヤバいぜ。



 アルテナをバイクの後ろに乗せて逃走するディリア。

 バイクの後ろの席には簀巻きにされたアルテナが縛り付けられいる。


「アルシューーーーーー」


 アルテナが後ろへ叫ぶ。


 背後にはアルテナ誘拐犯達を乗せた飛翔船が大破して、そこから五メータのレッドリーレスのアルシュが飛び出し、アルテナを連れて行くディリアを睨む。

 

 レッドリーレスのアルシュは、胸部コアにいるアルシュが

「あの女…」

 十歳の子供には全く見合わない殺気を纏わせる。


 レッドリーレスのアルシュは、大破した飛翔船を足場にして飛翔した。

 更に飛翔船の真っ二つになった残骸は、レッドリーレスのアルシュの加速の足場にされ真っ二つに壊れた。

 

 音速を越えるレッドリーレスのアルシュ、衝撃波を纏って、ディリアの運転するバイクの上を通過。

 その後の凄まじい衝撃波が、ディリアとアルテナの載るバイクを引っ繰り返した。


「野郎ーーーーーーーーー」


 ディリアは転がりながらバイクから吹き飛ばされ、アルテナが縛り付けられているバイクが宙を舞う。


「いやああああああああ」


 アルテナが悲鳴を上げるも、それをレッドリーレスのアルシュが、両手で優しくキャッチした。


「アルテナ! 大丈夫か?」


 レッドリーレスのアルシュからする、アルシュの声にアルテナはホッとして


「アルシュ…助けに来てくれたのね」


 胸部コアにいるアルシュは微笑み

「ああ…僕は、アルテナのナイトだからね」


 ディリアは立ち上がり

「冗談じゃあない。これで終われるかーーーー」

 右目の水晶眼帯を外して

「スノーホワイト! アイツを止めろ!」


 ディリアの右目には、魔法陣と中心に乙女の横顔が掻かれた紋章型の聖遺物があった。

 アルテナを攫った時に使った力は、聖遺物の力だった。


 レッドリーレスに、全てを眠らせるスノーホワイトの力が照射される。

 これで、眠らなかった存在はない。

 全てを睡魔に沈める聖遺物。


 だが…


”笑止”


 レッドリーレスは、眼光を輝かせる。聖遺物の力を消し飛ばした。

 その余波が、強風のようにディリアを襲い、腕を組んでディリアは守る。


「何したの?」

 全く効いていないレッドリーレスのアルシュがそこにいた。


 ディリアは驚愕を見せ

「そんなバカな…」

 今まで、聖遺物スノーホワイトが聞かなかった存在なんてなかった。

 邪神さえ、眠らせる聖遺物の力が全くレッドリーレスのアルシュには効かない。

 そして、そのレッドリーレスのアルシュの手の中にいるアルテナにさえ、届いていない。


「なんで、お前には聖遺物の力が効かないんだーーーー」


 ディリアの怒声にアルシュは目が点になり、とある事が過ぎる。


「ああ…そう言えば…前に、聖遺物の力を壊したっけなぁ…」


 エネシスが使った審判の女神を思い出した。


 アルシュはフッと笑み「さて…」とアルテナを縛っている紐をレッドリーレスの指先で器用に切り裂き、アルテナを解放、アルテナを左手に乗せると、開いている右手でディリアを掴み掛かる。


 ディリアも抵抗する。

 自身の身に宿る魔法の力、炎獅子精霊を出して、その右手に業火を浴びせるも、それを圧倒して突き破り、巨大な竜の右手が出現、ディリアの胸部を掴み持ち上げる。


「離せーーーーー」


 ディリアは腰にある銃剣を取り出し、銃剣とは拳銃型の魔導銃に魔法の剣が伸びる、この世界の剣と銃を兼ねた装備である。


 銃剣で自身を掴んでいる右手を壊そうとするも、全く刃が立たない。


「さて…こいつ…どうしようかなぁ…」

 アルシュが、子供には見えない残酷な笑みを見せる。


 ディリアが胸部コアにいるアルシュを睨み

「このバケモノがーーーーー」


 そこへ、砲撃が届く。

 

 レッドリーレスのアルシュの頭部に直撃する。

 攻撃したのは、大破した飛翔船に残っていた部下達だ。

 部下達が、何とか残っているナイツゴーレムを動かし、砲撃装備でレッドリーレスを攻撃する。

「お嬢ーーーーーーー」


 ディリアを助けようとディリアの仲間達が駆け付ける。


 アルシュは苛立った顔で

「ウザいな…」


 どんな砲撃でもレッドリーレスにはダメージが入らない。

 そして、レッドリーレスは竜の頭部の口を開く。

 それは咀嚼の為の獣歯ではない。

 口が五方向に割れて、まるで光線砲の如く展開される。


 それをディリアは見て青ざめ。


 レッドリーレスの砲口に光が収束してエネルギーが集中する。

 強烈な破壊咆吼が放たれようとしている。

 そう、アルシュは完全に部下達を殺そうとした。

 ディリアはそれを察して

「止めてくれーーーーー」


 レッドリーレスの咆吼が放たれようとした瞬間

「アルシュ、ダメーーーーー」

 それをアルシュが聞き届け。レッドリーレスの咆吼が、攻撃する彼らから外れ、その通過余波で、ディリアの部下達は吹き飛び地面に転がり、向けられる筈だった破壊咆吼の光線は、周囲を覆う特殊な濃霧を切り裂き、何処かの山頂に衝突した瞬間、強烈な全てを薙ぎ払う爆炎に変わった。

 山頂から数十メータが消失する程の大爆発に、濃霧はかき消え、巨大なキノコ雲が空へ昇った。


 それをディリアは見て青ざめ、追って来た戦闘のプロであるディリアの部下達も腰を抜かした。


 アルシュは「はぁ…」と溜息を漏らし

「全く、アルテナは…」

と愚痴のように漏らす。


 レッドリーレスの左手にいるアルテナが

「アルシュ。ダメ…人殺しなんてダメよ!」


 アルシュはアルテナを見つめ

「また、アルテナを誘拐しに来るかもよ」


 アルテナが訴える。

「何か、事情があるのよ! それを聞けばきっと…」


 アルシュは右手にいるディリアを見る。ディリアは畏怖に怯えて睨んでいた。


 全く、なんて甘ちゃんなんだよ。


 アルテナが告げる。

「アルシュはわたしのナイトなのよね。だったらわたしの言う事を聞いて!」


「はいはい」

と、アルシュは左手を下ろさせ、アルテナを地面に下ろし、右手にいるディリアには、右手の掴んだまま上から押さえるようにしてディリアを地面に押さえ付けて下ろした。

 そして、レッドリーレスを解除すると、漆黒のロゼッタストーンの塊に変わり、ディリアはそれに押さえられた。


 アルシュはディリアのそばに着地すると、ディリアの腰にある小刀を握る。

 ディリアはそれで息の根を止めると思い。


「なんて残酷なガキだ! 呪われろ!」


 アルシュはニヤリと皮肉に笑み

「残念。そんな事はしませんよ」

と、自分の右手の一差し指を小刀の先で刺し血を出させると、それをディリアの口にツッコみ、アルテナと同じように血を飲ませた。


「ガハ! 何をするんだ! ガキが!」


 怒るディリアにアルシュが

「オレは、アルシュだ。アルシュ・メギドス・メルカバー。ヴィクタリア帝国の皇帝の妾の子だ。お前の名前は…いいや。

 どうせ、任務の失敗で殺されるか、始末されるかのオチになるから…」


 ディリアが鋭い目線で

「アタシ達は、ただの犯罪者集団だ」


 アルシュはニヤリと怪しげに笑み

「そうかなぁ…この装備、そして、このルートへ逃げる算段。そして、聖遺物って言っていたよね。

 聖遺物って厳格に管理されているよね。国やそれに相当する組織とかね。

 それに、アンタを慕う部下達の練度も普通じゃない。

 って事は、それ相応の組織か何かに属しているっている事。

 将来のヴィクタリア帝国の女帝を誘拐する事をしたんだ。

 失敗すれば、それ相応の罰が、いや…消されるかもね。数日後には…」


 ディリアは察した。

「嫌な、ガキだ…」

 そう、血に何かの特別な力を持つ者が世の中にはいると、聞いた事がある。

 つまり、自分に血を飲ませたという事は、その血の力を入れて、自分が死ぬのを確認する為だ


 アルシュは肩を竦め

「死にたくなかったら、言うといい。レッドリーレス、アルシュってね。助けてやれるかもしれないぞ」


 アルシュはそこから離れアルテナの肩を抱くと、レッドリーレスの深紅の竜のオーラを展開させ、自身と寄せて肩をつかむアルテナを、オーラの中に入れて

「じゃあねぇ…」

 爆発するようにアルテナを連れて空へ飛翔した。


 その下には、ディリアの仲間達が駆け付けディリアを助けたのを確認して、アルシュは

「どうしよう…アルテナ。帝都に帰る道順が分からない」

 

 アルテナは呆れた顔をして

「もう…助けにくるなら、帰る方法くらい用意しなさいよ」


 アルシュは微妙な顔をして

「ごめん。アルテナを助けるに必死過ぎて…」


 アルテナは周囲を見渡すと、山岳の岩肌にあるヴィクタリア帝国の要塞を見つけ

「あの要塞にいきましょう。きっと帰れるから」


「はーい」

とアルシュはタクシー感覚、アルテナを入れるレッドリーレスのオーラをそこへ飛翔させた。


 アルシュは少しホッとしていた。

 アルテナを無事に助ける事が出来たのだから。


 要塞に到着する寸前に、アルテナがアルシュの頬にキスをして

「ありがとう。わたしのナイト様」

 アルシュはフッと嬉しげに微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る