第8話 レッドリーレスの使い方
オラ、アルシュ。ここいらで、オレの中にあるレッドリーレスの使い方を知った方がいいかもね。
アルシュは、屋敷の前にある庭園に来て
「おーーーーい レッドリーレスーーー」
呼び掛けると、アルシュの背後から、赤いドラゴンこと、レッドリーレスが出現する。
”なんだ?”
答えてくれるレッドリーレス。
アルシュは
「聞きたい事がある。お前ってどんな力があるんだ?」
”それは、お前次第だ”
「はぁ? なにそれ? 何かこういう能力がありますとか、そういう説明書はないの?」
”それもお前次第だ”
「いや、答えになってない。さっきから同じ答えばかりだろう」
”………”
「いや、沈黙しないでよ」
アルシュは考える。
レッドリーレスは力場のように薄いのだ。
「なあ…半透明みたいだけど。密度を高められる?」
”可能だ”
「じゃあ、やってみて」
レッドリーレスは、自分の密度を高める。レッドリーレスの頭上に天使の輪のような光のリングが出現し、そこから膨大なエネルギーを呼び起こし自身の密度を高めた。
それは、爆発だった。
屋敷の庭園を粉砕して、全長四メータ前後の密度の高まったレッドリーレスが出現した。
赤い龍の躯体に胸部にはアルシュを収めたシールドのコアを持っている。
「あああああああ!」
アルシュは叫ぶ、無残に破壊された庭園を目の前に驚愕して叫んだ。
「何が起こったの!」
屋敷から母親のファリティアと祖父のシドリア、数名のメイドさん達が来て、破壊されて、その中心にいる密度を高めたレッドリーレスを見て開いた口が塞がらない。
母ファリティアは、レッドリーレスの胸部のコアにいるアルシュに
「アルシューーーーーーー」
大声で怒った。
密度を高めたレッドリーレスは、アルシュの解除の命令後、砕け散って状態を解除した。
そこに残ったのは数トンに及ぶ結晶の残骸で、後に祖父のシドリアがこれを調査すると、高純度のロゼッタストーンである事が分かった。
魔法技術に欠かせない材料、コンピューターでいうなら内部の電子部品に使われるレアメタルのようなモノだ。
破壊された庭園は、これを売却して修復した。
因みに、相当に良い金額になったらしく、庭園が前よりも豪華になった。
とある日、アルシュは祖父シドリアと共に浴槽につかっていた。
「はぁ…」
シドリアは溜息を漏らし湯で頭を撫でる。
アルシュは、その前にいる。
「アルシュ…」
とシドリアが呼び掛ける。
「なに? お爺ちゃん」
アルシュは見る。
シドリアは渋い顔で
「もしまた…レッドリーレスだったか。その力を試すなら、ワシに言ってくれよ。被害が出ない場所を用意するから」
アルシュは頬を掻いて
「ごめん。お庭を…」
シドリアは微笑み
「お前も知らなかった事だ。仕方ない」
アルシュが湯船を見つめながら
「このレッドリーレスの力…不安なんだ…」
「どうしてだ?」
シドリアはアルシュを見つめる。
アルシュは微かに自分が映る湯を見ながら
「レッドリーレスは、名前じゃあなくて、初期の状態の事を示してるみたい」
「ほう…では、もっと上があるという事か?」
「うん。ドッラークレスって言うらしい」
「アレよりも、もっと凄いのか…」
「もしかしたら…そう…」
アルシュの脳裏に、巨大な爆発、前世の地球の映像で見たツァーリア・ボンバー『皇帝の爆弾』という核融合兵器の規模が過ぎった。
それと同等、いや…以上かも…と無意識に過ぎってしまった。
シドリアが不安がるアルシュの頭を撫で
「お前が、それくらい恐怖を感じて抑えようとするなら、暴走する心配はしておらんよ」
アルシュはそれを聞いてホッとして
「うん。ありがとう。お爺ちゃん」
アルシュは部屋に行き、ベッドで寝る前にレッドリーレスに呼び掛ける。
「レッドリーレス」
”なんだ?”
レッドリーレスの姿が背後から浮かぶ。
「あんな、爆発以外に何か…活用方法は無いのか?」
”ある。お前の身、血肉には我の力が篭もっている。故に、一滴の極僅かな血を核に力のコーティングを施した結晶を作れば、お前がマスタースレーブとなり、力を貸す事が出来る”
「はぁ…便利な携帯みたいにか…」
”概念的にはあっている。この世界で言うなら。大いなる精霊の力を借りるという事だ”
「へぇ…なんか、商売できそうだな…」
”あまり貸しすぎるなよ。多くなれば成る程、お前の制御が難しくなり、制御不能暴走を起こすと、我の力に飲まれて外れてしまう”
「外れるって?」
”言葉の通りだ。人でなくなると言った方が分かり易い”
「成る程、うまい話には罠があり、大きいモノを手に入れるには、相応のリスクがあるって事か」
”肯定する”
「さっき、自分の血肉に宿っているって言ったよなぁ。じゃあ、もし血肉を分けた場合も…」
”血肉を分ける。状況としては、相手の外傷または、血液譲渡によって、力は伝染する。無論、相手が死ぬまでではない。長期的に、受けた相手の質にもよるが、数ヶ月は維持される。
次が…性行為による伝染だ。
これは雄雌の関係でしか成り立たない。
即ち繁殖行為をした場合、乙、雌の体内に汝の生殖液が入ると、力が伝染する。
繁殖行為の場合の伝染は、最低でも数年、最長で二十年は伝染が維持される。
そして、繁殖行為によって子孫を授かった場合、その子孫にも力は伝染する。
無論、子孫故に、その力は永続され、更に汝が死亡した場合、汝の記憶とマスターとしての全能が全て、残した子孫の内、適正が高い者に発露する”
アルシュは驚き
「まて、それじゃあ、自分はお前を広める為にこの世界に転生したようなモノじゃあないか!」
”否定はしない。だが…それだけではない事を報告する”
アルシュは怪しむ顔で
「それだけではないってどういう事だよ」
”お前達、人としての単位では全ては偶然によって成り立つと認識する事があるが…実際は、全ては偶然ではない。
必然によって世界は成り立っている。
この世界に偶然などという現象はない。
汝もこの力を手にした事も、この世界に来た事も偶然ではない、必然だ”
アルシュは焦り叫ぶ
「お前は! オレに何をさせようってんだーーーー」
”それは、お前自身が分かっているのではないか?
お前の前世、地球でのお前は、世界には人の力ではどうしようもない大きな流れがある事を理解していた。
故に、お前は解脱を得ていた。
人の単位で世界を、この世の全てを知ろうなど、傲慢でしかない。
この世の全ては人知を超えた領域によって回っている。
それは人の世も一部品として組み込んで、巨大な流れで動いている。
それをお前世のお前は理解しそれに従って、この力、我を下ろし身にした。
その全ての事が、今も、大いなる流れの中にいる一つでしかない”
アルシュは頭を抱える。
そう、前世の中山 ミスルの時、自分達が生きている社会というのが、とても、無責任で脆弱で、希望に満ちていない世界だった事を知ったから、無欲、望まずの流れを見る透徹した生き方をしていた。まるで、修行僧のようだった。
それを憶えていた筈だったのに…。
頭が混乱する。
レッドリーレスの言っている事は、荒唐無稽だ。だが、それを理解する中山 ミスルの考えと、否定するアルシュの考えが頭の中を巡って気持ち悪くなり、悪寒が走る。
怯え自分で自分を抱き締めて震えていると、ノックがされた。
「アルシュ、どうしたの?」
母親のファリティアが入って来る。
目の前には、自分で腕を抱えていて震えている息子がいた。
「どうしたの?」
ファリティアは駆け付けてアルシュの肩を抱くと、背後にレッドリーレスがいた。
それにファリティアは察して
「アルシュ、何をしたの?」
レッドリーレスがポツリ
”お前は、今の影響によって人並みの部分を持ったのだなぁ”
そう告げて消えた。
ファリティアはその言葉を聞いて「アルシュ、アルシュ!」と抱き締める息子に呼び掛ける。
アルシュは
「お母様…今日は、一緒に寝ていいですか?」
ファリティアは肯き
「ええ…いいわ、一緒に寝ましょう」
ファリティアの寝室でアルシュは共に眠りながらファリティアが
「アルシュ。もう…あの存在に話しかけるのは止めなさい」
アルシュは一緒に眠る母親に抱き付き「うん」と告げて目を閉じた。
それを見てファリティアはホッとする。
そこには年相応の子供のアルシュがいるのだから。
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