第7話 ノルンとカタリナの双子の思い

 オラ、アルシュ。よく分からないが教会の神託を受ける施設でサンサーラ、転生者である事がバレてしまったぜ。

 さて…どうしようか…。



 アルシュ達はヴィクタリア帝国に戻り、メルカバーの屋敷で父親のアルファスが息子に尋ねる。


「なぁ…アルシュ、本当に前世っていう産まれ直す前の頃の記憶を持っているのか?」


 その問いにアルシュは、はぁ…と溜息を漏らし


「父上は、信じられますか?」


 アルファスは黙ってしまう。そう…信じられない。息子に前世という魂の連続した記憶があるなんて。

 エネシスからは説明された。

 教会でも僅かに把握している特殊な事例で、教会の特に神秘に関する部分、ゾディファール・セフィール「光輝の書」という霊性に関する特注の記述に、生命は流転して転生を繰り返していると、余りも突拍子もないので、広まってはいないが、一部の東の地域ではありえるとして信じられているらしい。

 西側であるヴィクタリアには全くの縁もゆかりもない教義だった。

 だが、教義には僅かにそのような記載もある。

 寿命を終えた魂は、天に昇り天国へ至り、空を照らす光になる。その魂の光が新たな魂を産む。


 アルファスは息子アルシュの肩を持ち


「アルシュ、私は、お前がどんな事を言おうとも信じる。それが…父親だ。だから…」


 アルシュは項垂れ

 

 色々と話すと面倒だなぁ…。どうせ、人は自分の信じる事しか信じない。

 おおむね、人が言う真実とは、自分がこうであって欲しいという願望だ。

 それが全く違った場合は、人は拒絶する。間違いとレッテルを貼る。


 ここは一度、冷たく離した方がいいな


「父上、ぼくは、確かに父上の血を引いています。ですが、父上の子ではありません。戸籍的には庶子です。父上の認知はありますが、父上に戸籍に入っていません」


 アルファスはハッとして苦しそうな顔をして


「親子は戸籍では…表せない」


 アルシュは冷徹な目をして


「それは、人の道理ですが。人が暮らす社会のルールではありません。どうぞ、道理でも社会のルールでも子である正妻様や側室様達の子を大事にしてください。僕の事は、そっと思い出した時に、気に掛けてくれれば…」

 

 それを聞いたアルファスは愕然とする。

 アルシュの物わかりの良さは、転生によるモノだ。つまり、それ相応の転生した人物の記憶と経験があるのだ。

 今の自分にそれを打破する言葉が紡げるだろうか?

 そう、気持ちが落ち込み黙っていると、アルシュが


「父上、父上はヴィクタリア帝国の皇帝でございます。ぼく一人の為に気を落とすのは、皇帝として、如何かものかと…」


 アルファスは肯き

「分かった。もう…聞く事はしない」


 アルシュはホッとするが、アルファスだけは自分のやってきた事を悔やんだ。

 どうして、皇帝なんかになったのだろうか?

 もし、そうでなければ、こんなに息子との彼岸を感じる事がなかった筈だ…。



 アルシュが神託を受けた事は、秘密にされたが、護衛していた皇帝の親衛隊達の口づてに広まってしまう。

 人の口に栓をする事は不可能である。


 サンサーラ(輪廻転生)の天輪丞王である。


 天輪丞王、それは古くからある神話に登場する。

 世界がまだ、海しかない頃、空より神を乗せた天舟が来て、海から陸を作り出した。

 そこに生命を植え付け増やし、世界を創造した。

 人が最後に産まれて、人が地に満ちると、知性のある人は争いを始めた。

 それに神は失望し、人の中に七つの威光を持つ王を誕生させた。

 天の輪を持つ丞王、救世の王を降臨させ、人の争いを収め大いなる国を作り出した。

 世界が救世に包まれ、神は安堵して、世界を任せて何処かへ旅立った。

 天輪丞王によって世界は平安が続いたが、天輪丞王が寿命を終えると、また人の世は荒れ出す。だが、案ずることはない

 世が乱れ厄災が広がる時、旅立った神は、再び天輪丞王を使わせるだろう。


 そんな、神話がワーストリアには残っている。


 

 アルシュは学校に来ると、周囲の子供達がヒソヒソと話す声が聞こえる。


 あの子、神託を受けたらしいわ。

 なんでも、転生っていって産まれる前の記憶があるみたい。

 天輪丞王なんて言われたらしいけど、本当かなぁ?

 なんか不気味で怖い。


 大方、怖がる声ばかりだ。


 まあ…そうだろうね…とアルシュは気にしないようにしていると


「よう! アルシュ!」

 

 ノルンが何時もの暢気な感じで来て

「今日もアルテナの家に遊びにいこうぜ!」


 アルシュは手を頬に置いて

「ああ…いいけど、最近、アルテナの家に行く事が多いよなぁ…」


 ノルンは親指を上げた拳で

「デカくて、遊び甲斐があるから!」


 本当にノルンは楽しそうだった。


 午後、アルシュはノルンとカタリナと共にアルテナの家、正妃の城へ行く。

 アルテナも待っていたらしく、すんなり入れて、更にエメリアも遊びに来ていて一緒に五人は遊ぶ。


 城の中を追いかけっこ。広い庭でボールを蹴り合ったり、後は魔法を使ったゲームとか


 アルテナが

「ねぇ、今日は泊まって行けばいいじゃない」

 

 ノルンがカタリナを見て

「どうする?」


「わたくしの方からお家に連絡を入れるから」

 アルテナが微笑む。


 そういう事でアルテナの家に泊まる事になった。


 夜、五人は一緒に食事をして、お風呂に入って、大きなベッドでハシャギまくって、五人して眠りに入る頃、アルシュの隣で横になるアルテナが

「ねぇアルシュ」


「なに?」

と、アルシュは右のアルテナに顔を向ける。


「アルシュって産まれる前の記憶があるの?」


 アルシュは天井を見上げ

「あるって言ったらどうする?」


 左で背を向けていたノルンが寝返りをうってアルシュに向いて

「聞きたい」


 アルシュは目を閉じて

「誰にも言うなよ」


 どうせ、言うなよって約束しても周りにいる大人が、君と自分だけの秘密にするからと言って聞くだろう。どうせ、ヴィクタリア帝国の常識では、計り知れないから戯言になるだけだ。


 アルシュは話す。

 ここではない別の世界の生まれで、中山 ミスルという人物の話を脈絡もなく、思い出せる限りで語る。

 日本という国で生まれ、機械工学を専攻し、大人になって就職するも、世の中は、大不況の真っ只中、勤めた会社のパワハラで心を病んで仕事を辞め、職を数回転々として、花開く事なんて無かった。

 そこにあった現実は、社会からの必要とされない自分と、社会が余りも脆弱で、人を犠牲にしないと成り立たないという現状。

 そう生きて行く内に、幼い頃にあった家庭を持つとか、恋人とか、結婚とか、明るい将来とか、自分の子供を持つとか、人としての当たり前が、自分には手に入らないという世界に、何時しか、自分はそういう運命なんだ…と受け入れて、望まず求めずと生きるようになって、気持ちが軽くなったと…。

 そうした日々の中で雷か何かに打たれて死んだ。呆気ない死だったと…。


 アルテナが

「悲しかった? 苦しかった?」


 アルシュはフ…と息を吐いて

「悲しいも苦しいもなく、気付いたら生まれ変わっていたから…なんとも…」


 アルテナの右に寝ているエメリアが顔をアルシュ側に向け

「アルシュくんは、きっとこの世界で幸せになる為に生まれ変わったんだと思う」


 ノルンの左にいるカタリナも

「わたしもエメリアと同じだよ。そんなに大変だったんだら、生まれ変わった先では幸せになるように神様がここに寄越してくれたんだよ」


 アルテナが

「アルシュは、何か…やりたい事はないの?」


 アルシュは考え

「まあ…とくには…。死にたくないくらいかなぁ…」


 ノルンが

「じゃあ、さあ、アルシュの夢を見つけようぜ。オレの夢は、凄いゴーレム(魔導鎧)を発明するんだ」


 カタリナが

「わたしは、ノルンの作ったゴーレムを上手く操縦して帝国一番のゴーレム使いになるんだ!」


 アルテナが

「わたくしは、この国の皇帝になって、お母様のように素晴らしい国を作るの」


 エメリアが

「私もアルテナと同じです。フランディオを素晴らしい国にするのが夢です」


 アルシュは

「みんな立派な夢があっていいね」


 ノルンが

「アルシュは、自分の夢が見つかるまで、僕たちの夢に付き合えよ」


「はぁ?」とアルシュは疑問符が浮かんだ。


 アルテナが

「夢がないなら、誰かの夢に付き合う内に、きっと自分の夢が見つかるわ。アルシュの夢が見つかったら、みんなで手伝うの」


 アルシュが呆れ気味に

「そんな簡単に見つかるかなぁ…」


 カタリナが

「大丈夫だよ。アルシュには特別な力があるし、見つかるって」


 ノルンが

「約束だぞ、アルシュ」


 アルシュはちょっと呆れつつ

 当面の目標はない訳だから、まあ…付き合うのも悪くはないか…。

「分かったよ。付き合うよ」

 それは気軽な約束だった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る