第6話 メリティアの予言

 おら、アルシュ。今日は八歳になった子供達が精霊と契約する日だぞ。


 なんでも、この世界の人に物や生物には、魔力が存在し、人は、この世界の主幹部分を担う精霊と契約する事で、面白い事が出来るらしい。

 

 子供達が教会にある精霊と契約する儀式場へ来る。

 大きなオベリスクがあり、それに様々な魔法文字ルーンが刻まれている。

 教会の女司祭様が


「さあ、みんな、間隔を開けてならんで」


 アルシュのいる子供達を儀式場の真ん中に並ばせる。


 女司祭が、契約のオベリスクの前に来ると、それに手を当てて何かを告げる。


「我が(フィマツト)精霊(フィレア)よ。この子(アフ)達(マライア)に精霊(フィレア)の加護(フィスティ)を…」


 司祭が使えるヤハウェ(聖文字)によってオベリスクの力が発動する。


 精霊は、五つの眷属がいる。

 火、土、金、水、木

 この五つの属性を持つ眷属の内の一柱か二柱と契約する。


 子供達の上に、精霊が現れる。その形は様々である。

 炎鳥から、白虎、青龍、天使、マジで羽の生えた妖精みたいなヤツ。

 ざっくばらんに様々な幻獣の精霊が現れ子供達に触れて契約するが、たった一人、仲間はずれがいる。

 

 アルシュである。

 彼の上にはどの精霊も発生する事無く、儀式は終わった。


 子供達は契約した精霊の力を試しにその場で使っているが、アルシュだけは…無言だった。


 ノルンとカタリナが来る。


「なぁ…アルシュは?」

 ノルンが心配げに尋ねる。


 アルシュは目を閉じて渋い顔をして

「ノルン。カタリナ。二人は?」


 ノルンは背後に炎の大獅子の精霊を見せる。

 カタリナは背後に二柱の精霊を出す。炎のフェニックスと木のグリフォンだ。


「そうか…」

 アルシュは淡々と告げて黙る。

 

 そう、予想出来てはいた。自分にはあの不明な赤いドラゴンがいる。もしかしたら…それが精霊のような存在かのかもしれない。何となく予感していたから、嫌な事はない。

 だが…ノルンやカタリナにその他の子供達が静かに見つめている。その視線は、ノルンとカタリナは心配げで、他の子供達は異質な存在をみるような疎外の視線だ。


 そこへ儀式を司った女司祭が来て

「君、こっちへ…」

 どこかへ連れて行った。


 アルシュが通された場所は、儀式場の隣にある教会だ。その礼拝堂にエネシスがいた。

 エネシスは女司祭から事を聞いた。

 エネシスは「はぁ…」と溜息を漏らし


「アルシュ、今からお家に一緒に行きますから」


 即、早退にさせられた。


 メルカバーの自宅屋敷に来ると、母親ファリティアがエネシスから説明を受けていた。

 ファリティアは不安げな顔だ。

 その後、直ぐに父親のアルファスも来て、エネシスから説明を受ける。

 

 精霊契約の儀式にて、アルシュは精霊と契約出来なかった。これは今までにない例であると、原因は恐らく、アルシュが生まれ持っていたあの赤いドラゴンであろうと…。


 エネシスは口にする。

「アガスティア(預言の葉)を受けてみては?」

 

 ファリティアが複雑な顔で

「それを受けるには、教会の大司祭クラスの許可が多数必要では?」


 エネシスが

「それについては問題ありません。この事を教皇様にお伝えています。教皇様は、先の不安を解消する為にも、しっかりと調べた方が良いと申しておりましたので、許可の事についての問題はありません」


 父親のアルファスが意を決して

「ファリティアやろう。それがあの子の為になる筈だ」


 ファリティアが不安な顔で

「もし、良くない預言が…あった場合は」


 アルファスがファリティアの肩を持ち

「そうだったのなら、私達で手を尽くして悪道より守ってやろう」


 そう夫に説得され、ファリティアは同意した。


 

 アルシュは初めて飛翔船に乗る。目指すは教会の総本山があるリーマ教会府だ。

 飛翔船は、その名前の通り、空を飛ぶ船で、船に飛行機の翼が付いた地球では見なかった摩訶不思議な船だ。

 鳥の羽のような翼で大気を掴み、海に浮かぶ船は飛翔して大空を舞った。


 アルシュはそれを客室から見て「魔法の世界っぽい」と漏らした。

 ちょっとワクワクしていた。


 同じ客室にいる母親ファリティアと、父親マリファスが、窓の外を見て驚いているアルシュの姿に、年相応の子供っぽさを感じて安心した。

 アルシュは何処か大人びて子供のような感じがない部分が多かったからだ。


 アルシュを乗せた飛翔船は、無事に教会府があるリーマの港に到着した。

 

 ヴィクタリア帝国の皇帝の妾の子なので公式として残せない訪問だが、皇帝の子なので、ヴィクタリア帝国の護衛隊の付いた送り迎えをしてもらい、教会のとある施設に到着した。

 そこは、ビルのように高い超巨大樹が丸ごと教会になった建物である。

 入口にはエネシスがいた。


「さあ、こちらです」


 エネシスは、アルシュ達をこの建物に通した。


 巨大樹の教会は所々にあるステンドグラスから幻想的な光を通し、神秘的な様相をしていた。

 先を行くエネシスが


「ようこそ、皆様、神託を受ける神殿へ」


 アルシュ達は、奥にある巨大なお盆が浮かぶ場所に来た。

 その巨大お盆の前には一人の純白の巫女服を着た女性が祈りを捧げていた。

 エネシスがその背に


「メリティア、来ましたよ」

 

 祈りを捧げる女性は立ち上がり、ブーケを被る顔を向ける。

 輝くような金髪、母性を醸し出す柔らかな笑顔の美人の巫女。


 アルシュは思う。


 この世界、ワールストリアには美人が多いなぁ!


 そう感じ入ってると、その美人巫女が微笑み


「ようこそ、神託の神殿アガスティアのマラファー(大樹)へ」


 ここの担当である美人巫女メリティアは、エネシスからアルシュの説明を聞く。

 メリティアは肯きながら聞いて「分かりました」と告げた後、アルシュの両脇にいる両親の前に来た。


「ヴィクタリア帝国の皇帝アルファス陛下、アルシュ様の母君ファリティア。

 ここでの神託は、一つの指針をしてお受け止めください。

 もたらされた神託は抽象的でどのように解釈も出来ます。

 悪いように解釈すれば悪く、良いように解釈すれば良きになります。

 その事を踏まえてお受けください」


 アルファスとファリティアは頷いた。


 メリティアは、父と母に両手を握られているアルシュに近付き、跪いてアルシュの額を触ると


「この子にいる存在よ。お前は…何者ぞ。その所在を示せ

 アルファ・ティリッス・ウッス・リミティーア(聖印なる者が尋ねる名を示せ)」


 アルシュの背後に、アルシュの意思に反してあの赤いドラゴンが出現し、全体に響き渡るように重くのし掛かるような音声を放つ


”汝、高慢なり、我、ドッラークレスになる者ぞ。汝、理解するに足りず”


 見えない力がメリティアを襲い吹き飛ばした。

 メリティアは転がり、それをエネシスが駆け付けて支える。


 ファリティアが「アルシュ!」と叫ぶ。


 アルシュは出て来た力を押さえて仕舞うと、力がアルシュの脳裏に名を刻む。


”我は、今は…レッドリーレス(深紅の龍権能)なり”


 アルシュはレッドリーレスに呼び掛ける。


「いいか、僕の許可なしに人を傷つけるな! レッドリーレス」


 そう命令をアルシュは刻んだ。


 エメリアがメリティアに

「大丈夫ですか?」


 メリティアは肯き

「ええ…大丈夫です。申し訳ありません。どんな存在か、分かりませんでした。

 おそらく精霊より、更に強力な存在やもしれません」


 それをアルファスは聞いて、アルシュに不安がこみ上げる。

 精霊より強大な存在、大きな力は必ず災厄を呼び寄せる。

 不安に襲われ、アルシュの手を強く握ってしまい。


「お父様、手が痛い」

 アルシュは父親を見上げる。


「ああ…すまん」

 アルファスは手を離した。


 メリティアはアルシュに来て

「アルシュ様、こちらに来てください」


 アルシュを祈りを捧げていた巨大なお盆の前に来させる。


 お盆の中央には清流が噴き出し、巨大な数メータサイズのお盆の水を満たしているが…全く零れていない。不思議な状態を維持していた。


 メリティアが作法を告げる。

「これより、神託を開始します。とても、簡単です。お盆の水を両手で掬い見つめるだけです」


 アルシュはメリティアを見る。大丈夫なのか?と不安な視線を向ける。


 メリティアは微笑み「大丈夫です」とアルシュの背中を擦る。


 アルシュは巨大なお盆の水を両手に掬って、その手の中にある水を見つめていると、手の中の水が光輝き空へ舞った。


 光輝く水は、空に文字を描く。


 全員の前にアルシュの神託を示す。


 神託の水にはこう描かれていた。


”輪廻(サン)転生(サーラ)を知る天輪丞王である”


 それを見て周囲は響めく。

 アルシュは、何だ? 天輪丞王って?


 本当に意味が分からない神託だった。


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