第5話 アルテナとの約束
よう、僕じゃあない。オレ、アルシュ。
今日はアルテナのいる正妃の城に来ている。
城って言われる位、バカデカい。お金持ちの邸宅、例えで言うなら
ザ マーナー カルフォルニアだな。
アルテナが玄関にいて
「こっち!」
アルシュと一緒に来たノルンにカタリナを引っ張って行く。
アルシュはアルテナと部屋を見回りながら、来客が多いことに気付く。
そう、金持ちはただ、デカい家を欲するのでない。そこで仕事とプライベートを同時にこなす為に、デカい邸宅を欲するのだ。
アルテナの母親は、ヴィクタリア帝国の正妃、いわば、帝国を支える大黒柱である。
様々な財閥、財団や、貴族との繋がりがあり、その者達と交渉したり、計画を練ったりするにこのような大きな城を持っている。
アルシュはそれをヴィクティア本人から聞いて
成る程、金持ちは金の使い方が上手いから金持ちなんだなぁ…
将来、もし、お金とか諸々の相談は、アルテナの母親ヴィクティアにしようかなぁ…と思う。
アルテナと遊びつつ、アルシュは、キッチンに行く。
大きなレストランのキッチンには専属のコックがいて、アルシュはそのコックと一緒にとあるモノを作っていた。
そして、夕暮れ時、始まった。
アルテナの誕生日パーティーだ。
多くの人がアルテナの誕生日を祝おうと駆け付ける。
国内の有力貴族、他国の同年輩の同姓の御姫様達。
その御姫様達の中でも仲がいいのが、ヴィクティア帝国の隣国、フランディオ王国の姫
エメリア・アルファルド・フランディオだ。
エメリアは翡翠色の髪を持ち、フランディアの至宝とされる正妃の美貌を受け継ぐ、将来のフランディアの象徴、財宝だった。
勿論、アルテナだって負けていない。
輝く豪華な金髪で正妃ヴィクティア譲りで美人だ。
だが、エメリアは漂う気品が違う。神聖な感じで尊いのだ。
アルテナは、母親譲りの覇気に満ちている。
アルテナは太陽、エメリアは月だ。
そんな豪華なパーティーが広がる庭園をアルシュは二階のテラスから見下ろす。
ああ…なんか、場違いだなぁ…。
キラキラして宝石じみていて、なんか…息苦しいっていうか…。
居心地が悪いっていうか…。
何か、別世界のような高貴な一団様には、オレは似合わないなぁ…。
そんなリア充のような光を見下ろすアルシュに、パーティーに呼ばれていたエネシスが近付く。
「パーティーに参加しないのですか?」
アルシュは冷たい視線を向け
「場違いだと思いますよ」
エネシスは困った顔をして
「子供がそんな事を言うではありませんよ。それに…ほら…」
皆に祝われるアルテナの前に、大きなケーキの城が来た。
それは、アルシュが作った、手伝っては貰ったが手作りの誕生日ケーキだ。
「アレは、アナタが作ったのでしょう…」
エネシスは淋しげに告げる。
「まあ…料理は好きなんで、ここに来ると、どんな高級素材も使いたい放題ですから」
エネシスはアルシュの隣に来て
「アルテナ、喜んでいましたよ。自分の為に精魂込めてアルシュが作ってくれた。嬉しいと…ね」
別に…とアルシュは何処か冷めていた。
このぐらいのご機嫌取りをしないと、自分の母親ファリティアに迷惑が掛かりそうだから。それに…
「エネシス様…オレは…昔、いえ…そのケーキで祝われた事がないから」
そうミスルの前世では、両親が共働きだった故に、一度も誕生日なんて祝われた事はない。弟や妹はいた。弟妹だけは小さいって事で祝ってくれた。
オレは…一度も祝福された事は無い。何時も一番上だから、ガマンしろ。なんて言われて育った。
だから、誕生日なんて自分以外の誰かの為にある。そんな自覚があった。
エネシスは淋しそうな顔で
「アナタは、何かに復讐しているんですか?」
「はぁ?」とアルシュは疑問の顔を向ける。
エネシスはジーとアルシュを見つめ
「欲しかったモノが手に入らなかった者は、それを一生欲して飢えるか、それを拒絶して無欲になるか、どちらかです。アナタは、拒絶して無欲になった。そうして、欲しかったモノに復讐している」
アルシュは今の人生を考える。
アルシュの時は、誕生日を祝ったり無かったりのまちまちだ。
母親は気にしていたが…前世の事があって、全くの無関心だった。
アルシュの声が変わる。それは幼子ではない。前世のミスルの声で
「そうですね。何も手に入らなくて、それが分相応と無欲になったかもしれませんね。
ああ…でも、生存欲はありますよ。死にたくないですから」
エネシスは静かな視線で
「何も欲していないというのは、何者も必要としていないと同じですよ」
エネシスのご高説の後、アルシュは城の図書室に向かう。
一人で知識を欲して、本を手にしていると…「アルシュ…」とアルテナが図書室に来た。
アルシュは本を閉じて、何時もの幼子の声で
「主役がいなくなるとパーティーがダメになるよ」
アルテナの隣には友人の隣国姫エメリアがいた。
アルテナが優しく無邪気に微笑み
「アルシュ、誕生日のケーキありがとう」
エメリアも優しく微笑み
「とても、おいしかったです」
アルシュは淡々と「別にいいよ」と告げて本を読み始める。
アルテナが本を読むアルシュの前に来て
「一緒にパーティーに行きましょう」
「行けない」とアルシュは告げて本を見続ける。
「なんで?」とアルテナは問う。
アルシュは本を見つめたまま
「アルテナは、将来、この国の皇帝。僕は、将来…どうなるか分からない」
「なんで?」とアルテナは食い下がる。
「アルシュは凄い力を持っている。あの大きな赤いドラゴンを持ってる。その力があればなんだって出来るよ」
アルシュは冷徹な目を向け
「力があってもそれを受け入れる場所がない限り、将来は…大人になっても暮らしていけない」
そう、多分、自分の将来はこの未知の力によって左右されるだろう。どのように利用されるか…きっと、帝国の未来の為に生け贄にされるか、実験動物か。
実験動物は嫌だから、どこかに逃げないと…。
そんな悲観した未来をアルシュは見ていた。
それは、21世紀初頭の日本で生きてきた人生の価値観も加わっていた。
手に入ると思ったのが、実は手に入らない。それは自分とは別な他人が手にするモノだから、お前の人生は、何も手に入らない。そんな予感がするのだ。
アルテナが無理矢理、アルシュから本を取り上げ
「じゃあ、アタシがアナタに将来をあげる。今日からアタシのナイトになりなさい。そうすれば、将来は皇帝の配下として、不自由のない暮らしが出来るから」
アルシュは頭を面倒クサそうに掻く。
本を取り上げるワガママを見せられ、これ以上、何か口答えすれば、どんな邪魔があるか分からない。どうせ、八歳のガキの約束だ。何時か、忘れて終わり、それだけ…なら
「分かったよ」
この一時を何とかする為に、アルテナの言葉を飲む事にした。
アルテナが右手を差し出し
「ほら、騎士の…ナイトの忠誠を示しなさい」
右手に忠誠のキスをしろいうのだ。
アルシュは跪き、アルテナの右手にキスをした。
アルテナのナイトして従うという、何とも子供じみた約束をしたのだ。
それを終えるとアルテナはアルシュの手を取って
「さあ! パーティーに行きましょう」
アルシュを連れて行った。
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