第3話 正妃の娘アルテナ
こんちはー オラ、アルシュ。現在6歳の初等部入りたてだぜ。
しかしまあ…周りはつるぺったんの幼児部から出たばかりの連中しかいない。
全くの何も高ぶる事はない。
っていうか、オレはロリコンじゃあない。
こんな子供ばかりの環境で、楽しいなんて事はない。
女教師がアルシュに近付き
「アルシュくん。皆と遊ばないの?」
アルシュは微笑み
「本を読んでいた方が楽しい」
先生よ、考えてくれよ。外見は子供、中身は大人なんだぞ。
ガキといて楽しいなんてないだろう。
女教師は不安になって、母親達に連絡を入れた。
アルシュのいる学校は、幼児の頃から大学までの貴族が通うエスカレーターの名門学院である。
アルシュの母親は、メルカバー家という代々、戦闘用のゴーレム(魔導鎧)を作ってきた一族だ。所謂、ヴィクタリア帝国の軍事産業様って所だ。
お陰で、それに通じる魔法技術やらの本を仕入れるには不便しなかった。
まあ…魔法に関しては、八歳になるまでのお楽しみだ。
一応、この世界にある魔導具は、子供でも使えるので当面は問題なし。
だが…新たな問題勃発。
アルシュの前に母親の父親、祖父のシドリスがいる。ここは、メルカバー家の屋敷の中だ。
「アルシュや、どうして、友達を作らないのだ?」
祖父のシドリスの隣には母親の銀髪美人のファリティアがいる。
二人は困り顔だ。
アルシュは困ってしまう。
いや…回りがガキ過ぎて、嫌なだけだから。猿山に放られた人間って言えば分かるよね。
自分が大人みたいな外見だったら、ついて行ける。
でも、体はガキで、中身が違うからムリだよ。名探偵コ○ンだよ。
そんな事を言えば怒られそうだから…。
アルシュは俯きながら、悲しそうに演じながら
「僕ね。知ってるんだ…。お妾さんの子なんでしょう」
それに祖父と母親は、ハッとする。
小さい子ながら、アルシュが、手付きの女の息子であると分かっている。
確かに本を読んでいる勉強家であるなら、何れは気付くだろうと思っていた。
だが、まだ6歳にして、その事に気付いたのは、驚く事だが…余りにも残酷だった。
と、周囲は思うが、本人は
こういう悲しい感じを出せば後は、ツッコまれないぞ!
もの凄い酸いも甘いも噛み締めて、寧ろ、ちょっと邪に解脱した37歳がいた。
祖父と母親は思った。
アルシュがいる学院の子供達はそれなりにちゃんとした夫婦での子供達だ。
自分とは違うという負い目をアルシュに持たせてしまった。
その後悔が脳裏をよぎる。
翌日、その後は何も言われず。
これで自分の時間を持って勉強が出来るとアルシュは清々して学院に来ると…
「よう!」とアルシュに声を掛ける男の子がいた。
「だ、誰?」
マジでアルシュには憶えが無かった。
その隣には声を掛けた赤髪の男の子と同じ赤髪の女の子がいた。
「こら! ノルン。紹介もなしに声を掛けて驚いているでしょう」
赤髪の女の子に言われたノルンという男の子は、ハニカミ
「ごめん、ごめん」
アルシュは戸惑いながら
「何か、ご用ですか?」
赤髪の女の子がお辞儀して
「初めまして、私達、アナタのお家と同じ事をしているアイオーン家のカタリナと、こっちは双子のノルン」
女の子はカタリナ、男の子はノルン、双子の姉弟で、アインオーン家は、メルカバーと同じゴーレム(魔導鎧)を作っている一角だ。
ノルンが
「今日から、オレ達、友達だから!」
「は?」とアルシュには全く理解出来ない。
カタリナも
「そう、今日から友達だからよろしくねアルシュくん」
ノルンとカタリナは無理矢理に、アルシュの手を取って学院に引っ張っていった。
アルシュは呆然として為すがままだった。
後々に祖父から、ノルンとカタリナにアルシュの友達になって欲しいとお願いした。ノルンとカタリナの両親もアルシュの境遇に心を動かされ快諾した。
訳の分からない内に、長きに渡ってつき合ってくれる二人が出来た。
その日はアルシュが7歳になる誕生日だった。
何時もならメルカバーの屋敷にて、祖父母や母親といった屋敷の面子で祝って貰うのが通例だ。一度も、誕生日には父親はこない。その代わり、父親が手作りした魔導具や玩具を誕生日プレゼントとして貰う。だけど、この日は違っていた。皇帝の王宮、皇帝城に呼ばれた。
大きな魔法で動く車、魔導車に乗って母親と一緒に、皇帝城の門を潜る。
十五階建てのビルに匹敵する巨大門を潜り、皇帝城内に入る。
そこは、巨大なお城だった。恐らくキロ単位の広さはある。町のように大きな王宮を進み、広い四車線のような通路を通って奥にいる皇帝、父親に謁見する。
そこには皇帝の威厳を放つアルファス、父親がいた。
なんだ…ちゃんと皇帝してる!
アルシュは思う。
アルシュに合うと、なんか普通の息子を溺愛する父親にしか見えないからだ。
母親ファリティアと一緒にアルシュは、皇帝の高座の下で跪き、父親が偉そうな言葉を放ち、それが終えるとファリティアと一緒にアルシュは下がり、別の部屋に行く。
そこはアンティークに包まれた部屋で、テーブルにお菓子や飲み物が置かれていた。
セルフサービスである。
アルシュは何となく、それを摘まんでいると、ドアがノックされる。
「入りますよ」
入って来たのは、金髪、見るからに豪勢なドレスを纏った鋭い感じの美女である。
その右には、同じ金髪で似た顔をしたアルシュの同年輩の女の子がいる。
ファリティアは直ぐにお辞儀して
「正妃ヴィクティア様、このような身に余るようなお心遣い感謝します」
そう、この金髪鋭い美女が正妃ヴィクティアで、その脇にいるのが、娘のアルテナだった。
「構いません。アナタもあの人の寵愛を受けた者。自分を貶める事などありません」
おお…余裕だね…とアルシュは思っていると、付いて来たアルテナがアルシュの手を取り
「お母様、この子と遊んで来ます」
アルシュを引っ張っていった。
アルシュはアルテナに連れられ個室に来ると、ニコニコしていたアルテナの顔が鋭い感じに変わる。
「え…」とアルシュは固まるとアルテナがアルシュの口を掴み
「いい気になるんじゃないわよ! この下郎」
えええ! 初対面でこれですか!
「アンタは、アタシの下なの。なのにいい気になって」
アルテナはアルシュの腰にある玩具の剣を取る。
それは、父親アルファスが作ってくれた玩具だ。
それをアルテナは、真っ二つに折った。
えええええええ!
アルシュは困惑する。
その折れた玩具の剣でアルテナはアルシュに殴りかかる。
「アンタなんか! アンタなんかーーーー」
何度も殴るアルテナに、アルシュが怒り
「いい加減にしろーーー」
怒鳴った瞬間、アルシュの背後から深紅の鱗の獣腕が飛び出しアルテナの殴る玩具の剣と、後ろにあった扉を破壊した。
アルシュの背中から浮かび上がるそれは、深紅の竜の上半身だった。
ゴオオオオオオオオとつんざくような竜の咆吼が響き渡り、それに大勢が駆け付ける。
アルテナは腰を抜かしてその場に座り込み。
その正面に、深紅の竜の上半身を出すアルシュがいた。
それを見ていた全員が驚愕に包まれていた。
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