900歳のおじいさん
国境の長いトンネルを抜けると雪国だった、といったか。もし、今僕が見ている世界を僕が描いてあの時代に持ち帰ってしまえばノーベル賞なんてちょろいところかもしれない。
リングを潜ると3000年だった
ドスッ
1度お父さんの方へ視線を向けておいてから、自らの指令に従うように前へ視界を戻した。
なんて美しいのだろう。いや、美しいのではなくて、汚れたものが排除されているだけかもしれない。立ち上がっていくら体ごと回転させても、バックに付いた汚れをこの世界のものとは割り切れなかった。
「どうだ?」
「あっさり、だったね。」
「だから言ったじゃないか。倉望ちゃんも、どう?…聞こえてないのか。そうか、そうだった。」
お父さんは何かを誇らしげに感じるように目を大きく開いた。
「倉望さん?おーい。ん?大丈夫!?」
「平気だよ。これも3000年のすごさだよ。倉望さんがいる場所には、簡単に言えば防音壁みたいな電波が絶えず流れているだ。だからいくら話しかけても聞こえるはずはない。」
そう言って、お父さんは倉望さんの肩を叩いて、こちらの方へ連れてきた。
「す、すごい…あの、ちょっと私…」
「信じてくれてなかったのか?ちゃんと行けると言ったじゃないか。」
「僕だって信じてなかったよ。むしろあんなこと言われて面白がらない人の方が不思議だよ。」
「信じてなかったわけじゃないです。でもまさか、こんなことになっちゃうなんて想像できるはずありませんでした。」
お父さんはいったい何者なのか。これが現実であることは、僕にとってプラスにもマイナスにも思えた。
その日はお父さんが持っているという家に泊まり、夜ご飯は妙なタブレット上のものから「醤油ラーメン」を選択して、10分後くらいにドローンみたいな機械が中を浮いて運んできたものを食べてから寝た。よく分からないけれど、ベットがちょうど3人分あり、今まで敷布団で育ってきた身としてはかなり新鮮だった。
「あれはなんのお店ですか?」
「平成時代でいうコンビニみたいなものかな。でも一番違うことは、あそこで人がものを買うことができないってとこかな。あそこから、あ、ほら、今小さい機械が飛んで入っていっただろう。あれはフレミングっていう空中輸送機だよ。あれが注文された品物をあの店に置いてあるものの中から取っていくんだ。足を踏み入れた瞬間にポリス、ああ、警察のいる建物に警報が鳴って、瞬時に警察とか、ロボットが駆けつけてくるから気を付けて。」
フレミングとかロボットとか。ロボットが駆けつけてくる様子を思い浮かべようとしてギブアップして、あとは慣れるしかないと思えるようになった。
「そろそろ着くぞ。あれだ。修、何をしている建物だと思う?」
「…またフレミング?」
「んー違うな。」
「私たちも入れるんですか?」
「そう!さすが倉望さん。今から歴史博物館に行こうと思っているんだ。最近ではもう家の大画面でたいていの事が済ませちゃうから、だんだん減ってきちゃっているけどね。あれはJHW。ジャパニーズヒストリーワールドの略だ。この辺りでは最後の博物館だから、この時代じゃ貴重なんだ。だから休日はたくさんの人がJHWに足を運ぶ。あんなに外に出ようって思ってる人がいるならもっと増えてもいいと思うけどなぁ。」
この時代の歴史博物館には、何が展示されているのだろうか。僕が飛び越した2017年から3000年の900年の間にどんなことが起こったのだろう。こんな完璧な街にいる以上は大災害なんて想像すらできないのだけれど。
900歳。もし僕が80歳くらいまで生きている間に不老不死を手に入れた時、もう一度この光景を目にすることになるのだろうか。だとしたら僕は今、1回目の900歳のおじいさんだ。
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