倉望さんとの再会

 お父さんは僕が学校を辞めたいと言った次の日、すぐにクラス担任の池宮先生に転校することを伝えた。あっけなく面談は終わったらしく、家で出発の準備をしていた僕に、2016年の思い出と言って普段とらない新聞を買ってきてくれた。当然僕も自分をいじめた生徒の名前をすべて言わされて、それをそっくりそのままお父さんが池宮先生に伝えた。「これから修君が学校にいらっしゃることはないのですか?」と聞かれたらしく、「あんな姿を見せられたら、学校に行かせる理由が思いつかなくなった」と言ったそうだ。僕ももうお別れのあいさつなんかをするためだけに学校に行くつもりはなかった。後日先生から僕の転校が伝えられ、森安を含めた男子4人が特別指導となった。

「転校」といえば「今までありがとう」とか「たくさん素敵な思い出ができました」とか、「みなさんと会えなくなるのが寂しいです」みたいな言葉の聞こえる、面映ゆく玲瓏なイメージを持っていたけれど、それと比べ僕の場合あっさりし過ぎていたような気がする。それは、転校するきっかけの中身の違いである。引っ越します、父の仕事で海外に行きます。そんな始めて人間関係にひびが入るような瞬間。クラスのみんなが笑って見送ってくれる。でも僕が転校しても、それはむしろ変なやつがいなくなって良かった、くらいにしかならない。転校以前に人間関係にひびが入って、そのひびが埋まらないことをきっかけとした転校は、そこにひびを修復してくれる誰かがいないからでもあるから、当然と言えば残酷だけど当然なのだ。

「お母さんはまだこの時代でゆっくりしていたいから、お父さんが帰ってくるまで待ってることにしたの。でも、まさか転校だなんていって3000年の学校行くって言われたときはびっくりしたよ。でもお父さんがどうしても修に3000年の世界を見せたいって言うからそれもいいかなって。お母さんもちょっと気になるけど、怖いところもあるし。戻って来れる時があったらいつでも来てね。もしかしたら私がそっちにいくかもしれないけど。」

「本当に3000年になんか行けるのかって半信半疑だけど、お父さんが本気だからありえそう。昨日心配になっていろいろ考えてたんだけど、確かに怖い。しかもどうしてよりによって1000年後の中学校に行かなきゃいけないのかが分からない。でも、戻って来れるなら、言ってみて損はないかなって。」

「そうね。思いっきり楽しんできなさい。新しい修の人生だから。」

「うん。じゃあ用意の続きしないと。」

そう言って僕は自分の部屋に戻り、まだ入っていない靴下といろんなサイズのズボンを手についたものからバックに詰め始めた。


ピーンポーン ピーンポーン


こういう展開でドアを開けることに緊張してしまう僕は、たまたまお菓子を取りに下の台所にいたので他に出てくれる人を探したのだけど、先にお母さんに

「修出てー」

と言われてしまったので仕方なく靴のかかとを踏みつけて、玄関のドアを引くことにした。

「はい。っあ。」

「突然ごめん。でも学校辞めちゃうって聞いて今日も来ないから心配になって。私のせいでいなくなっちゃったのかなって思ったから。」

「そんなわけないよ。倉望さんが何したって言うの?」

「でも・・・」

「むしろ謝らなきゃいけないのは僕の方だよ。さんざん巻き込んでおいて屋上にまで来てくれてたのに。ごめん。」

「ねぇ、いつまた会えるか分からないし、今からどこか遊びに行かない?」

残念だ。わざわざ来てくれたのに、遊ぶ時間は無さそうだ。でも、もしかしたら。

「あの、さ。すごい変なこと聞いてもいい?」

「うん。」

「もし1000年後の未来に今から行けるとしたらどうする?」

「確かに変な質問だけど、私なら行くかな。結構未来の日本とか興味あるし。」

「そっか。実は、今からそこに行こうと思ってるんだ。」

「どういう意味?」

「もう会わないからこそ話せるようなすごい馬鹿げた話なんだけど。この前倉望さんと廊下で話してた時、僕が3秒後の世界が見えることは言ったと思うんだけど、実はその原因はお父さんなんだ。その僕のお父さんなんだけど、自分で俺は未来人だって言い張る人で、最初はへんなお父さんだと思ってたんだけど、それをお母さんに聞いたら、お母さんも信じてるって言ってて。なんかお父さんはもともと3000年に生きていた人で、時空間上でタイムスリップしてる途中にいろいろあってこの時代に来たんだって。それで、未来に生きていた人間とこの時代に生きていた人間の間に生まれたのが僕だったから、「未来人」という点で、遺伝しずらいDNAがわずがに僕に伝わって、ある時から3秒後の世界が見えるようになったんだ。」

「すごい話だね。」

「正直何の根拠もないから僕も信じ切れてるわけじゃない。だからこそ今回、気になって3000年の世界に行くことになったんだよね。たぶん何も起こらずに終わりそうだけど、お父さんがずっと真剣に向こう行くための準備してるから僕もしなきゃいけなくて。で、良かったらお父さんの大嘘が暴かれる瞬間を一緒に見ないかなって。」

「私も3000年行きたい!今日は暇だし、修君といつまでいられるか分からないしね。準備しに1回家帰るね。準備できたらまたお邪魔します。」

「分かった。荷物は軽めでいいと思うよ。ペットボトル1本あれば十分じゃないかな。」

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