6回目の決断
「はいドンマーイ!コーラ3本買ってこい。」
「よろしくー。明日の罰どうする?」
「どうしよっか。あじゃあビンタ10回ってことにするか!」
「さすがにきつ過ぎると思うけどまぁおもしろそうだしいっか。」
「買ってきたよ。450円はやく返して。」
「は?外したらコーラ3本おごりって言ったじゃん。」
普通の好き嫌いゲームに飽きた僕たちのクラスでは、女子の名前に対して「好き」と言ったらその人に告白するというような罰ゲームや、ジュースを奢らされたり、1週間無視され続けるなど内容がより過激なものに変化してしまった。だからみんな参加することを避けようとしていたのだが、僕はあいにく危険を犯すことを好む男子たちと遊ぶことが多く、今回も参加せざるを得なかった。
「なんか今日人数少なくね?まぁいいや。昨日大塚だったから今日白佐じゃん?」
「あそっか。で罰ゲームは何?」
「廊下で裸踊りする。」
「え、嘘でしょ?」
「当たり前だろ。それはない。3回連続でわざと体育着を忘れるってことにした。」
「白佐すぐ泣きそうだわ!」
「そんなのひどくない?もっと軽いの…」
「〇か✕、どっち?」
言い忘れていたけど、今に至っては罰ゲームが本命で、黒板には〇か✕しか書かれない。〇と書いてあるのに「✕」と言ってしまえば罰ゲームを受けることになってしまう。
ただし、作戦はしっかり用意してあった。僕の左目を使えば、結果がどうなのかは分かってしまう。だから始めに「〇」と言おうとして、その時左目に映る様子で判断すれば絶対に外すことはないはずだ。でもあまりに当たり過ぎても怪しまれるから、「これならいいか」と思える罰だった場合はあえて外せばいい。
予想通り作戦が功を奏し、僕はすでに3回連続で罰ゲームから逃れることに成功していた。けれどその時から僕には、もっと重たいような罰ゲームが科せられるようになった。3回とも罰ゲームを受けることに恐れた僕はどれも正解してしまい、それによってみんなは僕を怪しむようになったのである。
「白佐、一緒に帰ろーぜ。」
「ちょっと待って。まだ宿題写せてないから。」
「お前宿題写すとか真面目かよ。」
「そりゃ写さないと覚えられないじゃん。」
「いやそうじゃなくて。別にこの学校そこまで頭がいいわけでもないじゃん。もう俺なんて功星落ちて勉強する気失せたわ。」
「そうだったんだ。でも去年の功星の入試形式ってすごい変わっちゃったんでしょ。だったら森安の頭が悪いわけではないんじゃないの?」
「いや。俺は功星には届かなかった。実力不足だ。今から必死で勉強して、功星の奴ら見返してやる!」
どっちなんだよ…。頭いい人ってちょっと変わってると思う。
「うわ雨降ってんじゃん。傘忘れた最悪。」
「さっき傘の貸し出しやってたけど。」
「うっそまじか。今更学校戻るのも面倒くさいし、たまには濡れて帰るのもいいか。」
「傘貸そうか?」
「そしたらお前の分なくなるだろ。そういえばお前まだ罰ゲーム受けたことないんだっけ。」
「ない。運良く全部当てたからね。」
「でもそんなことあるのか?2択って結構当たらないし、しかもそれを3回連続で当てちゃうなんてさ。お前なんかズルしてるだろ?」
「するわけないよ。だいたいどうやってズルすればいいんだよ。」
「まぁたしかにそうだけど。じゃあよっぽど運がいいってことか。でも正直言って俺はまだ怪しいと思ってるけど。だから、これからのゲームでまた3回連続で正解したら、俺はお前の運の良さなんて信じないで、お前の仕業を見破るつもりだからな。あー寒!」
「もう少し自分の心配したらどうなの?」
「はいはい。じゃお先に。」
「じゃあね。」
明日からの3回、全部正解すればいよいよまずいことになりそうだ。ここは2回目あたりで外しておくべきだ。いや、罰ゲームがより軽そうな時に。
6日後
あれから今までに1度僕の番が来た。1発目から間違えるのもそれはそれで違和感が残ると思って、罰ゲームの内容関係なしに「〇」を選んで正解した。そして今日が2回目の出番。できればここで間違えておきたい。
「白佐ね。っていうか白佐全然外さないから逆に怖くなってきたんだけど。」
「それな。いい加減罰受けてるところみたいわ。」
「みんなひどくない?やるけど、あんまりきつい罰にはしないでね。」
「もう内容は決まってます!外したら次の授業中に3回好きな曲を大音量でかける。」
「ま、まじか。それは本当やりたくない。外してもやる勇気があるかも分からないし。」
チョークが削れる音も聞こえないまま、〇か✕か回答を迫られた。本当はここで外しておきたかった。でも授業中に自分が曲を流したことが先生にばれてしまったら、高校受験の内申点の減点になりかねない。仕方がない。
「〇。」
・・・
「こいつ本当なんか持ってんな。」
「絶対なんかおかしいって。つまんねーの。」
これで、良かったんだろうか。
4日後
「さぁ。今日こそ決着をつけようじゃないか!」
「そろそろ外すとは自分でも思ってるよ。」
「嘘付け。どうせ今日も正解して6回連続罰ゲーム逃れだろ。」
「今日はかなりきつい罰を用意してみた。今まで逃れてきた分、今回まとめて味わってもらおうとね。」
「なんなの?あまりにもきついなら僕もうこんなゲームやめるよ。」
逃げよう。正解しても外しても外れなら止めてしまえばいいんだ。
グイッ
「待てよ白佐。お前そんな弱い人間じゃないだろ?はやくやろうぜ。」
力では勝ちようがない。逃げたって追いつかれて罪が重くなるだけだ。ここは罰を受けるよりない。
「分かった。やればいいんでしょ。で、どんな罰なの?」
「それを今から黒板に書く。お前はやるかやらないかを答える。」
「はぁ・・・」
黒板を激しく叩くような音が長く聞こえて、僕は回答を迫られた。選択肢は1つしかないが、念のため 「やらない」 と口にしようとする。左目の景色は・・・とっても静かなように思える。よし、大丈夫だ。もう、3秒後を見る必要はない。
「・・・やる。」
「キャーキモ!白佐ヘンタイ!!」
「よし。白佐。外したから罰ゲームよろしくな。俺たちも監視するから。ガンバ!」
後ろで弁当を広げていた女子たちの悲鳴が聞こえると同時に憎たらしい微笑みが左目に映った。心臓がバクバクなって、悪事がばれたときのような感覚に陥った。黒板にはこう書かれていた。
「倉望に屋上で告白した後手を握る」
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