好き嫌いゲーム

 大会が終わってから1週間ほどたっただろうか。毎週月曜日に行われる朝会で、倉望さんは校長先生から賞状を受け取った。自分も参加しただけに悔しさは残ったが、それ以上に「優勝おめでとう」という言葉が聞きたかった。

将来有名になった時「メダルを取った本人はメダルの色にこだわるが、周りの人からすれば金でも銀でも銅でも変わりはないのだ」なんて言ったら名言になるだろうか。教室に戻れば「倉望さんてすごいんだね!」とか「憧れちゃう」といった言葉が飛び交い、瞬く間に倉望さんはクラスの人気者になった。

 

 3ヶ月後


「おーい、修ドッジやんないの?」

「今行く。」

「今日は絶対勝つからな。」

「望むところだよ。」

人間の立場というのはめまぐるしく変化するものだと感じた。倉望さんが女子と会話している中で「どうしてそんなにけん玉上手なの?」と聞かれたらしく、そこで「白佐くんが教えてくれたの。すごい丁寧に教えてくれたから分かりやすかったって言うか。」と答えたらしい。こちらとしては飛んだ迷惑で、ずっと1人で静かに過ごしていくつもりだった僕の生活は、僕が倉望さんにけん玉を教えていたという情報が女子から男子に渡った時から全く違ったものになった。最近ではクラスのスポーツ万能な人たち(僕と真逆のタイプ)と一緒に遊ぶことが多くなり、その度倉望さんに自分のせいで違った印象を与えてしまったと思わせないように自分の性格を偽り続けていた。最初の方はそれこそ苦痛でしかなかったが、まさに「朱に交われば赤くなる」。本当の意味は違うらしいけれど、今では違った楽しさに気づけているような気がする。


「はい。これで今日の授業は終わり。28ページから36ページまで宿題だからな。」

「起立、礼!」

「ありがとうございましたー」

「よっしゃーやっと中休みか。よしっ好き嫌いゲームやるぞ!男子は全員参加だからな!」

学校で流行る遊びと言えばドッジボールやおにごっこだが、好き嫌いゲームというのはまた中学生らしい遊びである。ある程度リスクを負えるようなゲームじゃないといけないのかもしれない。

好き嫌いゲームというのは、学校ならではの遊び。ルールは単純。黒板に背を向けて1人の生徒が座る。そして周りの人が黒板に1つお題を書く。そしてそれに対して座っている生徒は「好き」か「嫌い」かどちらかを言わなければならないというくだらないけれどなぜか流行ってしまったゲームである。

「前田行きましょー」

「えー絶対無理だわ。」

「はい、はやく座ってください!」

「うわ…」


カッカツスーカッスーカッスースーカッ


「好きですか、嫌いですか!」

「…嫌い。」

「うわっ可哀想元也!ひでー」

「もう絶交だわ!」

「いや俺悪くないでしょ!」

だいたいの場合はクラスの女子や学校の先生の名前が書かれる。でもたまに本当に大切な人の名前が書かれたりするから、そういう点で「嫌い」ばかりでもいけないのだ。


「じゃあ次白佐行こうぜ!」

「えー僕かー」

「自信を持つんだ!ファイト!」

中休みも半分ほど経った時、ついに僕の番が来てしまった。でもこのゲームにはある程度自信があった。それは、これまで1人で生きていたおかげで、密接に関わってた人が思いつかないからである。女子となればなおさら。僕に「嫌い」と言われて傷つく人なんていないはずだ。しかしみんなは黒板になんと書くだろうか。「ピーマン」なんて書かれていたら、それほど恥ずかしいものはない。

「好きですか、嫌いですか!」

真っ先に「嫌い」と言おうと思っていた。でも、口を開こうとした瞬間、左目にみんなが騒いでいる様子が映った。

「好き。」

「おーやっぱり仲いいんだな。さすがです先輩!」

後ろを振り返ると大きな字で「倉望」とあった。おまけにハートマークまでついている。そうだ。最近僕と倉望さんは付き合ってるという冗談が染みついているんだった。みんなふざけてリア充呼ばわりしてくるような状態だから、確かに書かれてもおかしくはない。でも不思議だったのは、どうして「嫌い」と口にしかけた時に、大きな騒ぎが起こったのが目に映ったのかだった。むしろ「嫌い」と言った方が自然な気がするけど。



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