3秒後の世界
目が覚めた。どこか硬くて、それでも落ち着くようなものに倒れていることに気付いて周りを見渡すと、そこは想像通りの病室だった。想像通りというのも、夏ドラマで放送されている医療ドラマでこれというほど目に焼き付けられた病室の風景と大して変わらなかったということ。
「良かった。大丈夫か?店でいきなり倒れるからびっくりして急いで病院まで運んだんだよ。」
「…。」
「どうした修?大丈夫か?」
「や、やっぱり違う…これなんだろ」
「目がおかしいのか?倒れた時にぶつけたのかもしれない。先生は特に異常はないって言ってたんだが。」
「同じことしてる…」
「え?」
「うわああああああ!」
おかしい、おかしい。どうして同じ出来事が2回起こるんだ?全く同じ行動をお父さんがしているように見えてしまう。どうなっちゃってんだろ…
僕は怖くなって、2つに折れた布団を急いで顔を覆うようにかけた。何も見たくない、どうかしてる。もう、何も起こらないでくれ。そう思って自らの五感をすべて封じて蹲った。それからも、ずっと。
「入りますよー」
看護師の人が夕食を持ってきてくれた。
「今回は特別に普通の人より多めに作ってあるから。体調はどうですか?」
「あの、いや。体調はいいんです。あの、変なことだと思われるかもしれないんですけど、聞いてほしいことがあるんです。」
「もちろん。」
「やっぱりそうだ。えっと、僕は僕が看護師さんに話を聞いてもらいたいと言う前から、看護師さんが『もちろん。』と言ってくれると分かっていたんです。」
「信頼してくれているのね。」
「違うんです。いや、違くはないんです。でも、僕が分かっていたのはそういう理由ではなくて、もっとこう…不思議なことが僕の中で起こっているからなんです。」
「不思議なこと?」
「どうやら僕は、ちょっとあとに起こる出来事が見えてしまうみたいなんです。だいたい3秒くらい。例えば僕が廊下に歩いている時、何も起こることのない静かな様子と合わせて、おばあさんがこちらに向かって杖を突いて歩いてくる様子が見えるんです。そして6歩くらい歩いた後、ついさっき見た、おばあさんが歩いてくるんです。他にも、お父さんがここから出ていく姿、音がしないまま着信し続ける携帯、そして看護師さんが「もちろん。」と答えている様子。すべての物事が起こる3秒前に僕はその様子を見てしまっている。今も、僕には18時3分36秒の世界と18時3分39秒の世界が見えてる。」
「そんなことがあるのかしら。でももしそれが本当だとしたら、すごくお得なことなんじゃないのかな?だって普通の人よりも早く物事を知ることができるわけでしょう。私だったら逆に喜んじゃうかも。」
看護師さんは笑顔で答えてくれた。本当にそう思っているのか、それとも信じてくれていないのか。
「何かあったらまたいつでも呼んでくださいね。」
そう言って看護師さんは病室から出て行った。静かな夜を一人過ごすこともとっくに知っていた。それはこんな能力がなかったとしても分かっていたことだけど。
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