アクシデント

 ついにやらかした。ちゃんとテスト対策もした。消しゴムも余分に2個持っていったし、完璧な状態で臨んだつもりだった。問題は、なにもないはずだった。でも…

 今回の模試で僕は1つ上のクラスへの昇格が掛かっていた。一番上のクラスで勉強することができれば、合格に近づけることは間違いないと思っていた。でも、失敗した。3科目の社会からはほんとに最悪だった。

1科目の理科は得意だったのでいつも通り手がさらさらと進んだ。手ごたえはいつもよりあったし、今回は特に調子が良かった(これは事実)。悪夢は次の2科目の国語だった。心を打たれてしまった。平常心が、平常心が維持できなくなった。目の奥が詰まるような感覚がはしり、息切れが多くなっているのが自分でも分かった。問題文があまりにも心に刺さった。動揺して集中力が削がれた。どのような意図であの文章を選んだのか分からなかったけれど、それからはろくに集中力も続きはせず、良い結果は期待できそうもなかった。

 家に帰ってもう1度あの文章を読みなおすことにした。何がほかの作品と違ったのか、今なら分かる気がした。


  きいろいろ


 雨の日は少しぐらいの悪事じゃばれることはない


 急行列車と各駅停車は同じスピードで走るし


 落ち込んだ時は、手から落ちるバッグが私を起こしてくれる


 バスの座席をあと15度だけ後ろに傾けよう。もう少し、平和な世界になるから。


最初のうちは意味がよく分からなくて焦った。でも何度も何度も読み返しているうちに、少しずつ意味が理解できるようになっていった。題名は「きいろいろ」だけど、本当は「黄色色」と書くはず。でもよく考えれば「赤色」「青色」と違って、「黄色」だけは「黄!」ということが少ないように思える。言いにくいからいつの間にか「黄色!」と言うようになったのだろう。

急行列車と聞いただけで、各駅停車よりも目的地までの時間が短く済むから、てっきり電車のスピード自体が速いのだと勘違いしている自分に気付かされた。分かっているはずなのに、どうして。

水泳の大会でライバルと同じレースを泳いで完敗して泣きながら電車に座っていた僕は、感極まって力が抜けた手から落ちたスイミングバックを落としてしまった。拾うためには、涙で溢れた顔を覆っていた腕を外さなければならなかった。涙をぬぐって顔を上げた時、自然と涙が乾いていくのを感じた。

バスの座席を15度傾けるとはどういうことだろう。この詩を書いた人はきっと、バスに座った時に座席の窮屈さを感じたのだろう。そして、身近なところから変化していくことで、少しずつ少しずつ、穏やかで平和な世の中に近づけるのではないかという筆者からのメッセージが感じ取れた。

僕はこの詩に安心させられたような気がした。どこか共感するところがあって、その場所に僕はいつでも帰ることができる。人間の原点。都合の良いように解釈を替え、心のないものに救われる。そんな理念がずっと今まで、そしてこれからも受け継がれていく。僕はこの考えをこの時代から学び、この考えに少しの変化を与えている。地球に生まれた以上は、この世界のすべてに影響を与えている。生きている間も、死んだ後も。

 1週間後、テストの結果がネット上で公開された。クラス昇格が掛かっていたはずが、どうやら1つ下のクラスに落ちるそうだ。個人的にはそれ以上に収穫があったし、そこまで落ち込むことはなかったが、塾の先生は当然違った。

「白佐、お前今回どうしたんだ?もう7か月きってるんだぞ!とにかく5時に塾に来るように!」

お説教と聞いてこれ以上書く気がすっかり失せてしまった。続きは次の章からにしよう。

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