第三十七話:『卒業パーティーで、婚約破棄された公爵令嬢の持っていたワイングラス』

「お、紅鮭師匠からメールだ。現地の人間に返り討ちにあったみたいですね」

※転生を繰り返している異世界転生者の一人、第二話参照。

『しれっと異世界転生者とのメールのやり取りをしている所に質問なのですが、どう言った仕組みなのでしょうか』

「縁が出来た相手には届くんですよね」

『よく分かりませんね。確か貴方は以前その人を別の名前で呼んでいたような』

「スペイシャスですね、やり取りをしていたら実は紅鮭師匠だったと判明して驚きでしたよ」

※第七話、第八話冒頭参照。

『もう何度か驚くことになると思いますがね』

※色々出てくるので割愛。

「田中さんからもメールだ、今回も運命の人には出会えなかったそうです」

※転生を繰り返している異世界転生者の一人、運命の人を求めているがきっと会えない。

『異世界転生をして婚活をする話はよく聞きますが異世界転生を繰り返して婚活をする人は中々に稀有ですよね』

「左太郎は相変わらず着信拒否されてるなぁ、残念」

※転生を繰り返している異世界転生者の一人、初登場は第三話参照。

『それが正常な判断だと思いますよ。というか左太郎って』

「左サイドに拘りを見せている以外印象が薄いんですよね」

『そんな扱いの相手とよく連絡を試みようとしますね』

「何が切っ掛けで仲良くなるか分かりませんからね。与えられた時間が少ない人間からすれば第一印象は大事ですけど長生き出来るのなら話は別です」

『自分が人間だという感覚が麻痺していませんかね』

「何にせよ縁と言うのは大事にしろとご近所さんに言われたことがありまして」

※別作の誰かさん。

『ご近所さんに感銘受け過ぎではないでしょうか』

「最初はよく睨まれていたのですが、打ち解けてからは色々と親身になってくれた人ですからね。俺の事はともかく女神様は友人を作っては如何ですか」

『私に友人がいないとでも言いたげですね』

「俺がこの空間にいるときに遊びに来ている神様とか見たことないですし」

『遊びには来ませんが抗議や喧嘩を売りに来る神は時折いますよ、3分以内に帰ってもらっていますが』

「ウルト〇マンみたいな神様ですね、しかし女神様に喧嘩を売るとはとんでもない神様もいますね」

『大半が貴方の転生先の世界の創造主ですね』

「おっと藪蛇だった」

『神はそもそも個で完成されている存在、時折競い合う事はあっても慣れ合うことは稀です』

「完成されてその体ですか」

『急に力を使うと加減が出来ないので挑発は控えるように』

「リスポン、どの道消し飛ばすのに加減とは一体」

『貴方は100の力で消し飛ばせますが今の一撃には1億ほど力を注ぎ込んでいました』

「オーバーキルも良い所、頭の上にダメージの数字が出てたら楽しいことになっていた気がする」

『貴方を延々と消し飛ばしても力は枯渇しませんが無駄な労力は避けたいところです。さてそろそろ異世界転生の時間ですね』

「今回の縁はどんな感じかなーっと、Who?さんより『卒業パーティーで、婚約破棄された公爵令嬢の持っていたワイングラス』」

『出会うどころか別れていますね』

「世の中って世知辛いですね、しかし女の子との出会いなら喜ぶべきですね」

『傷ついている女性に下心で言い寄る男性には反吐がでますね』

「手厳しい。大丈夫ですよ、ワイングラスですから男性とは見なされないでしょうし」

『そう言う問題でしょうか。冷静に考えるとそう言う問題でも良い気がしますね』

「まあ見ていてください、華麗なハッピーエンドって奴を見せてやりますよ」

『期待は半分程度にしておきましょう。見ませんけど』



『ふむ、試しに別の女神をお茶に誘ってみましたがあまり喜んではいただけませんでしたね。口で言っても了承しないと思って強制連行したのが間違いでしたか』

「ただいま戻りました。おや、お客さんでもいましたか」

『ええ、別の世界の女神を連れて来ましたが涙目で震えているだけでしたので先ほど帰したところです』

「コミュニケーション能力に問題がありそうですねその女神様」

『温和な女神ではダメなようですね、しかし戦闘するために誘うわけではないので難しい所です』

「何度か誘えばそのうち慣れるのではないでしょうか」

『そうでしょうか、まあ気が向いたらまた連れてくることにしましょう』

「その時は是非とも俺も加わらせて欲しいですね」

『色欲を持った人間が近づくと灰にさせられる女神ですが、お望みなら考えておきましょう』

「へへ、そいつはワクワクしますね」

『死んでも生き返る貴方に物理的な脅しは無意味なようですね。卒業パーティーで婚約破棄された公爵令嬢の持っていたワイングラスでしたか』

「ええ、該当する公爵令嬢ですが魔法学校に通っていたテミトマと言うお転婆な女性です」

『お転婆系ですか、大人しいだけの公爵令嬢が貴方の手で改造されたら目も当てられませんからね』

「それはもうお転婆でしたね。生徒から売られた喧嘩は必ず買う、先生であっても筋が通らず気に食わなければ容赦なく制裁、他の魔法学校への殴り込みも日常茶飯事と言った感じです」

『それはお転婆ではなく不良なのでは』

「見た目は普通の公爵令嬢ですからね、品性の欠片はありましたよ」

『欠片しかないのはどうかと思いますが、それだけお転婆なら婚約破棄されるのも頷けます』

「テミトマは無事卒業、その後は許嫁の貴族の跡取りと結婚し平穏な人生を迎える。そう思っていた矢先、卒業パーティーでその跡取りから婚約を破棄されたのです」

『理由は聞くまでもないですが一応聞きましょう』

「跡取りが実は女性だったのです」

『聞いておいてよかった、後で齟齬が出るところでした』

「その貴族は男が生まれず長女を男装させていたそうですがその長女が普通に恋に目覚めまして」

『断る理由としては充分ですね、しかし女性同士で許嫁にした親の気が知れない』

「テミトマも男勝りだから何とかなるかもしれないと許嫁にしたそうです」

『頭のネジが没落貴族ですね』

「婚約を破棄され周囲からは白い目で見られたテミトマは手にしていた俺を地面に叩きつけます」

『スタンバイしていましたか』

「婚約を破棄された瞬間に転生した感じですね」

『転生したと思ったら即座に終了しそうな流れですね』

「ええ、突如地面に叩きつけられた俺は思わずバウンドしてテミトマの顎へと直撃します」

『ワイングラスってガラス製ですよね、スーパーボールと同じ材質じゃないですよね』

「ガラス製ですよ、念のためにとオプションで少しばかり弾性を持たせておいて正解でした」

『婚約を破棄された女性の持つワイングラスに転生ですから落下する可能性は大いにあったでしょうね』

「初めて会心の一撃を受け、膝をついたテミトマに俺は言います」

『会心の一撃でしたか、そして喋りますか』

「『物に当たるなんて器の小さい事をしているんじゃない』と」

『小さな器に言われては元も子もないですね』

「突然喋ったワイングラス、テミトマは俺を魔物か何かと勘違いしてか俺に攻撃を仕掛けます」

『ファンタジー世界ならばそう考えるのは自然でしょうか、場合によりけりですかね』

「いやぁ、転生したてでレベル1だったので倒すのは苦戦しましたよ」

『倒しちゃいましたか、レベル1でも戦闘技術は高いですからね』

「パーティー会場にいた人たちは皆避難し、残っていたのは息を切らせた俺とのされたテミトマ。ここに友情が生まれました」

『殴り合うなら河原で殴り合ってください、記念日の記念会場で思い出を壊さないように』

「俺はテミトマの破れた服の箇所を眺めながら言います。『婚約を破棄されたくらいでヤケになるな、お前は良いものを持っているんだから』と」

『下心自重しなさい』

「まあそんなわけで俺はテミトマが新たな婚約者を得るために協力することになったのです」

『自分を倒したワイングラスと協力するあたり脳筋ですね』

「しかしこれが難しく、魔法学校に通えるような上流階級の者達は卒業後に結婚するのが普通で既に同年代は売り切れ状態だったのです」

『当人も許嫁がいましたからね』

「ならば階級に拘らず勇敢な冒険者や熱心に働いている村人なんてどうだと言いましたが『筋肉な感じは嫌』と返されまして」

『お転婆脳筋の癖によく言いますね』

「この時点で俺が候補から外れましたね」

『最初から外れていたと思いますが』

「こう見えて中々の肉体美だったんですよ」

『ワイングラスの肉体美とは、わかりませんね』

「透き通る肌」

『グラスですからね』

「光沢のあるボディ」

『グラスですからね』

「一見クールな感じでも交われば心も体も即座に温まる」

『ワインのせいでしょうね』

「そんなわけで俺は素直に協力するスタンスを取ることにしました。見てるだけでも飽きませんし」

『女性相手だと万年思春期ですね』

「相手が決まっているのならば戦略も立てられるのですが不特定な相手だと中々難しく、俺達は恋愛事情に詳しい田中さんに相談することになりました」

『当たり前のようにいますね』

「女性が活躍できる世界の大半には田中さんがいると思って行動していますからね」

『今後田中の影を警戒しないといけない私の立場にもなってください』

「田中さんは言います、『テミトマさんのようなお転婆な方ですと知的な方は敬遠する可能性が高いです』と」

『まあそうでしょうね』

「『ですからいっそ更にお転婆に行動しましょう』と」

『矯正する流れではないのですか』

「田中さんは続けて言います、『貴方の素は矯正したところでいつか地が見えてしまう。それを隠し続けて窮屈な生き方をするくらいならばいっそより個性を目立たせることで貴方を受け入れてくれる殿方を探すべきだ』と」

『理にかなっているのが逆に嫌ですね』

「生半可なお転婆では理想の男性に気づかれないかもしれない、そう思った俺はテミトマと共に冒険の旅に出ることにしました」

『自然な流れとは言いませんからね』

「テミトマは元々魔法学校で鍛えていたと言うのもあり、俺や田中さんのサポートでみるみる活躍していきます」

『異世界転生者二人掛かりのバックアップともなれば無双状態でしょうね』

「山賊の一派を討伐し、悪政を行っていた王を打倒、魔物に苦しめられていた村や国を次々と救いテミトマの名は徐々に知れ渡っていきます」

『最後に勇者を倒すところまで展開が読めました』

「やだなぁ、俺だって同じ展開を繰り返すことはしませんよ」

『それは何より、貴方も成長しているようですね』

「勇者なら山賊の一派を討伐する前に倒しています」

『悪化していた』

「箔をつけるなら勇者とか倒さなきゃなとテミトマと相談してその後日には挑んでいましたからね」

『血の気にあふれる令嬢ですね。しかも勇者を倒すとは』

「ええ、勇者を倒したことでテミトマはより一層やる気になりましたからね」

『倒された勇者が不憫でならない』

「やがて片手にワイングラスを持った優雅な公爵令嬢の噂が大陸中へと広まります」

『常に貴方を持っていたのですか』

「なんたってダチですからね」

『貴方も毒されていますね』

「しかし大陸中に名が知られてもテミトマを迎えに来る白馬の王子様はやってきません」

『表現が古い』

「テミトマの憧れがそうなんですよ」

『お転婆のくせにロマンチストですね』

「いっそこちらから会いに行こうとしたのですが各国の王子は皆テミトマを恐れていて夜逃げする始末でした」

『勇者を倒した女ですからね』

「ちなみに勇者は生まれた村に引き籠って『ワイングラスの女が襲ってくる』と賢者にセラピーを受けていましたね」

『不憫にも程がある』

「人間界ではダメだ、いっそ魔界に探しに行こうと俺達は魔界へと乗り込みます」

『魔王を倒すオチがちらつくのは気のせいでしょうか』

「倒すには倒しましたね、割と早い段階で」

『クライマックスにも使われない魔王が不憫でならない』

「ですが魔王と出逢ったことはテミトマにとって大きな出来事になりました」

『おや、その様子では魔王が理想の男性でしたか』

「いえ、魔王は女性でした。わがままボディの母性溢れる人でしたね」

『わがままボディの情報は要りませんね』

「魔王は強く、テミトマは苦戦しながらも勝ちました。その際に仲良くなりました」

『よく拳を交わして仲良くなる世界ですね』

「魔王も同じように恋人を探しており、『放っておけないような小動物系男子はいないものか』とこぼしていました」

『母性溢れる人にありがちな好みですが母性ある人は自分で言いませんよ』

「折角なので村で震えていた勇者を紹介しておきました」

『容赦ないですね』

「それが意外と上手く行きまして」

『男性の勇者に女性の魔王、元々くっつく可能性があった世界なのかもしれませんね』

「テミトマに感謝した魔王はお礼にと魔界の公爵、その後継者等を紹介してくれることになったのです」

『お見合いをセッティングする親戚のおばさんのような方ですね。ですが魔王を倒すような令嬢ですからやはり敬遠されたのでは』

「それが魔界では逆に魅力的に感じられるようでして、テミトマはあっと言う間に多くの魔族から求婚されることになったのです」

『見方の違いですか、争いの種にもなればこういった事にもなるのですね』

「そんなわけで戻ってまいりました」

『おや、まだ続きがありそうな気がしたのですが』

「求婚された以上俺の役割はもう終えたのも同じですからね。それにここから先はテミトマの幸せな思い出を作る期間です、俺がいたら魔族達が嫉妬しますからね」

『自惚れはさておき、確かにかき乱す必要はありませんからね』

「それに乙女ゲーム的な展開は辛くて」

『それが本音ですか。私もあまり好んで遊ぶジャンルではありませんね。貴方は苦手だったのですか』

「いえ、テミトマが常に俺を持っていたので魔族達の囁く愛の言葉が俺に向けられている気がしてきて辛くなりました」

『あと十年は居て詳細を報告して欲しかったですね』

「男でも揺らぐようなイケメン揃いでしたからね、それは辛い」

『望むところです』

「当人には黙っていなくなりましたが、まあ上手くやってくれているでしょう」

『珍しい、別れの言葉は無かったのですか』

「理由も理由ですし、テミトマの性格からして親友と今の生活を天秤に掛けさせたら親友を選びかねないので」

『自惚れ――とは違いますね。なるほど、良い友人関係を築けたようで』

「そんなわけでお土産を持ってくる余裕もありませんでした、申し訳ない」

『お土産なら話だけでも結構です。欲を言えば欲しかったですが』

「おや、田中さんからメールだ」

『田中も生涯を終えたのですか』

「いえ、まだあの世界にいるようですね。あちゃぁ、テミトマは号泣しているようです」

『突如親友が消えましたからね』

「生涯を終えた以上戻れないしなぁ……メールを送るのは良いですかね」

『そうですね、本来はダメですが一度くらいは見逃してあげましょう』



「お、田中さんから荷物が届きましたね」

『何故この場所を知っているのでしょうか』

「住所は教えていない筈ですけどね」

『住所なんてくくりはありませんよ』

「荷物の内容は……ワインですね」

『まあ折角ですから頂きましょう』

「ではおつまみをささっと作ってきますね」

『よろしくお願いします。おや、手紙が入っていますね。勝手に開くのは悪いでしょうが田中からの手紙と言うのも危険な臭いがします。女神的な力で中だけ確認させてもらいましょう。おや、これは女性の字ですね』

【スケベグラス、なにが『お前が幸せそうなのを見ていたら愛しい人に会いたくなったから帰る、元気でな』よ、そうだとしても最後の一言くらいちゃんと言いなさい。礼すら言わせてもらえない私がどれだけ辛い思いをしたのか、分かっている――】

『下心は見え見えでしたか、そしてふざけたメールを送ったようですね。十枚程不満を書き連ねた愚痴が延々と書かれていますね』

【――精々勝手にしなさい。          本当にありがとう。 テミトマ】

『そして礼は一言と』

「おつまみ用意できましたよ。それでは早速ワインを注いでっと、乾杯」

『別に乾杯するつもりはありませんがね』

「お、これテミトマと出会った時に注がれていたワインだ」

『味が分かるのですか』

「口をつけてもらえるかなと念の為オプションで」

『下心は程々にしなさいスケベグラス』

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