第三十四話:『勇者の口癖』

「今日の俺の星座の運勢は……やった6番目だ」

『12星座で考えれば平均値ではないですか』

「悪くもなければ良くもない、つまりは今日起きる出来事は自分の実力で引き起こしたってことですよ」

『なるほど、無駄にポジティブシンキング』

「とは言え運に左右されつつも実力が必要とされることって何かありましたっけ」

『麻雀とかですかね』

「女神様との脱衣麻雀ならやる気も出ますが」

『色欲の塊ですね、私は豪運なので止めておいた方が良いですよ』

「ちなみにどれくらいですか」

『では試しに自動卓を取り出してみましょう』

「よし、今だツバメ返し」

※麻雀のイカサマ技、手元の牌をそっくり入れ替える高等技術。

『全自動卓なのに牌を見る前にやっても意味ないですよ』

「一度自慢して見たくて」

『確かに見事な手際でしたが宣言して使ってどうするのですか』

「ですがイーシャンテンですよ、イーシャンテン」

※麻雀は役が出来たら上がり、後一枚で完成がテンパイ、後二枚で完成がイーシャンテンです。

『無駄に引きが良いですね』

「女神様はどうですか」

『大車輪で天和です』

「豪運ってレベルじゃなかった。そして渋い役」

※天和は最初に牌を操作する人が最初から上がっていること、役満。

※大車輪、ローカルルールでたまにある役満。

『シングルでもダブルでも貴方の負けですね、ただし服を脱いだら皮膚ごと脱がしますが』

「ではおやつのプリンを差し出すと言う事で」

『採用』

「そもそも実力で女神様に勝てない事ばかりなのに運も平均的な状態で挑んでも何の意味もない気がする」

『そこに気づくとは成長しましたね』

「勝てる勝負で挑んでもなぁ」

『戦闘特化ですからね、私は』

「転生特化じゃないんですか」

『転生特化の神は対話とかなしに流れ作業の如く転生させますよ』

「オートマチック化の弊害みたいな神様ですね、やはり一人一人面談してくれるくらいがちょうど良いですよね」

『ええ、一回の面談で終わるくらいがちょうど良いですね』

「中々辛辣。そう言えば女神様って何座なんですか」

『神が定めた枠組に私が入るわけないじゃないですか』

「では血液型」

『女神の血なのでどれにも該当しませんね』

「輸血できないじゃないですか」

『神はそもそも失血死しませんから』

「あとは手相か」

『ああ、それならありますよ。どうぞ』

「うん、柔らかい」

『油断も隙も無い』

「リスポン、腕だけ残して消滅させられるとは、しかしぱっと見普通の手相でしたね」

『死の間際にも手相を見続けられるあたり占い師も天職そうですね』

「問題があるとすれば手相を見る知識が俺には無いってことですね」

『見せ損じゃないですか』

「あ、でも結婚線は一本でしたね」

『その辺は分かるんですね、まあすることはないですが』

「女神様の外見年齢ってギリギリ結婚適応外っぽいですよね」

『貴方の今日の実力は中々の様ですね』

「リスポン、女神様を煽る実力があるつもりはないのですが」

『外見年齢で言えばギリギリ十六歳前後には見れる筈です』

「まあ発育の悪い女性ならそれくらいですよね」

『やれやれ、そういう貴方の外見は幾つくらいに見えますかね。二十歳前後でしょうか』

「リスポン、享年はもう少し上でしたけどね」

『意外と童顔ですよね』

「女神様ほどでは」

『さて、リスポンついでに異世界転生の準備を始めてもらいましょうか』

「リスポン、そしてガサラマス。ラビたんさんより『勇者の口癖』」

『概念系なのでしょうか』

「概念系なのかなぁ、口癖のあるキャラって印象に残りますよね」

『そうですね、決め台詞とかも大事ですが個性を出す口癖は人の心に残りますからね』

「しかしこれを転生と呼んで良いのでしょうか」

『その疑問はもう少し前から持ってほしかったところではありますね』

「口癖で戦う事は難しそうだしなぁ」

『言葉で戦うとなると悪口やら論破と言った行動でしょうか』

「あまり口汚い言葉は使わない主義なんですよね」

『色欲まみれの穢れた男が良く言いますね』

「健全な男として、色欲は必要だと思うんですよね」

『次は口癖なので不必要ですね』

「何はともあれ、引いた以上はやるっきゃないですね、行ってきます」



『これが生命線、太くて長いですね。恋愛線もくっきりと濃い感じですが内容は……』

「ただいま戻りました。手相の勉強ですか」

『ええ、入門程度ですが』

「俺の手相って見えますかね」

『生命線が非常に短いですね』

「若くして死んでいるので納得ですね」

『ある意味では長寿なのですがね。勇者の口癖でしたか』

「ええ、勇者シアノと言う青年の口癖になってまいりました」

『口癖に転生させておいてなんですが、どういった感じだったのでしょうか』

「ええと、シアノが勇者として覚醒した際に俺が言霊として宿り口癖が変化すると言った感じですね」

『勝手に口癖が変わるのは中々迷惑ですね』

「シアノのそれまでの口癖は『最悪だ』『ついてない』『まあいいや』が主だったものですね。あと独り言が多い感じです」

『ラノベとかに良くいる面倒くさがり系男子ですか、そう言うのに限って熱血だったりするんですよね』

「ええ、普段はだらしない男でしたがやる時には芯の熱い奴でしたよ。才能も豊かで剣術の腕はさることながら、魔法なども途中詠唱なしで技名だけで発動できるまさに主人公体質ですね」

『最近にもなると技名すら叫ばないことも珍しくはないのですがね。ですが貴方が宿ることで口癖が変わるなら面倒くさがりなイメージは多少なりとも払拭出来そうですね。それで貴方はどのような口癖だったのでしょうか』

「『轟け、テンペストライトニング』です」

『もう一度』

「『轟け、テンペストライトニング』です」

『それが口癖ですか』

「はい」

『わけが分かりませんね』

「例えば冒険の最中に山賊に囲まれた商人を見つけるじゃないですか。するとシアノは口にするわけです、『はぁ、良い天気だってのに山賊のお仕事と出くわしますか。しかも発見されてるし、こりゃ囲まれるな。轟け、テンペストライトニング』と」

『中々即断即決で動いていそうな感じになっていますね』

「そして放たれるテンペストライトニング」

『詠唱無しで技名だけで魔法が打てたんでしたね、そしてあったんですねテンペストライトニング』

「その世界では雷属性最強の魔法ですね」

『それに打たれた山賊は無事では済まないでしょうね』

「そりゃ勿論、先手必勝で山賊たちは壊滅します。そして助けてもらった商人が言うわけですよ、『どうか私の館で一晩もてなさせてください』と」

『よくある展開ですね』

「シアノは悪い気もしなかったのでやれやれといった感じで言います、『先を急ぎたいんだけどな……轟け、テンペストライトニング』と」

『商人に最強魔法打ち込みましたね』

「これにはシアノも『やっちまった……轟け、テンペストライトニング』と溢していましたね」

『追い打ちを放ちましたね、ただその口癖が元はどれだったのかでその勇者のクズ度が変わりますね』

「まあそんなこんなで少々旅にスパイスが含まれる感じですね」

『スパイシーにも程がありますね、勇者はどうにかしようとは思わなかったのでしょうか』

「シアノも馬鹿ではありません、自分が普段口にしている口癖が最強クラスの魔法に変わってしまうことに気づいていました。ですが『轟け、テンペストライトニング』と呟いただけですね」

『そのまま放置したと言うことはまあいいやと言うことですかね』

「普段の魔力では打てない筈の最強魔法をノーリスクで打てますからね」

『その辺は貴方の力の影響ですかね』

「概念なので体力がない代わりに精神力や魔力が非常に高い感じでしたからね」

『ステータスがあるだけで驚きですがね』

「シアノも勇者として覚醒した弊害だと納得してましたしね」

『うっかり口にする悪い口癖が最強魔法に切り替わったわけですからね、ある意味では試練と言った形に捉えるのも不思議ではないかもしれません』

「ただまあ、独り言を口にする癖もあったので頻繁に口にしちゃっていたんですよね」

『そう言えばそんな特徴もありましたね』

「急な雨が降り出せば『うげ、轟け、テンペストライトニング』」

『まるで雨雲を呼んだのが勇者みたいですね』

「道具屋で買おうと思っていた薬草が目の前で売り切れになったら『あと少し早く出ていれば……轟け、テンペストライトニング』」

『道具屋への八つ当たりが酷い』

「大好きなケーキを食べる時に『ショートケーキから先か、いやチーズケーキも……轟け、テンペストライトニング――ああああ』」

『悲痛な叫びが入り込んでいますね』

「他にもダンジョンのギミックを解いている時に『む、この扉取っ手が轟け、テンペストライトニング』とかもありましたね」

『運がない意味でのついてない以外の言葉でも反応するのですね』

「流石にその辺の人間やらを巻き込むのはさておき、大好物のケーキを失ってからシアノは極力喋らないように努力を始めます」

『もっと反省すべき事例が早期にあったはずなのですがね』

「無口キャラになったとしてもシアノは勇者、その活躍や人情溢れる行動に仲間も加わっていきます」

『ちなみにパーティーメンバーの役職は』

「戦士、戦士、武道家ですね」

『偏っていますね、最強魔法があるから魔法職は不要なのかもしれませんが回復担当は欲しいですね』

「魔法使いの女の子や僧侶の女の子もいたにはいたのですが、シアノがハーレム体質なのでいつも痴話喧嘩に巻き込まれていまして」

『ああ、そういう類の主人公って女性の争いが嫌いですからね』

「ええ、『またか……轟け、テンペストライトニング』と打ち込んでしまうことが多々ありまして」

『ヒロイン達にも最強魔法を打ち込みましたか、やりますね』

「取り敢えず事情を説明したのでフラグは残ったままでしたが、穏便に過ごす為に男のパーティーで構築していましたね」

『ハーレム体質でハーレムが苦手なタイプってある意味では人生を損していますよね』

「俺もハーレム体質になりたいところです」

『最初なったじゃないですか、ハーレム体質の勇者の肋骨に』

※第一話参照

「個人でなりたいところです。男パーティーと華も無く、つまらない感じかと思いきや思ったよりも和気あいあいとした感じで物語は進みます」

『パーティー内にカップルとか生まれたらそれはそれでギクシャクしますからね』

「いましたよカップル」

『いましたか、後で詳細レポートの提出をお願いします』

「美少年同士ではなくおっさん系と少年系ですけど」

『問題ありません、許容範囲内です』

「では後程レポートをまとめるとして、いよいよ最後の戦い、魔王との決戦が始まります」

『まともに冒険をしている内容を聞いていない気もしますが』

「シアノが異世界転生者ばりに優秀だったので盛り上がりが殆ど無かったんですよね」

『精々が仲間内のカップル誕生くらいですか』

「シアノが時折仲間に打ち込むテンペストライトニングに比べればどれもインパクト薄れますからね」

『結局打ち込んでいましたか、良く生きていましたね』

「全員雷耐性に極振りしていましたから」

『警戒心マックスですね』

「それでも瀕死にはなりますけどね」

『最強魔法は侮れませんね』

「魔王との戦いに戻りますが流石に魔王ともなると非常に強く、僅かな隙を突かれピンチとなったシアノを庇った武道家が致命傷を負います」

『ちなみにその武道家はカップルの片割れですか』

「いえ、余り物です」

『ならどうでも良いですね』

「ただ実家には10人の美形な兄弟がいます」

『ちょっと数が多すぎて印象が薄れそうですね、減点です』

「厳しい、力尽きた武道家を抱きとめてシアノは言います、『しっかりしろ、ああ、どうして、こんな結末、こんな轟け、テンペストライトニング』」

『トドメ刺しに行きましたね』

「ところが逆に心臓が動き出しました」

『最強魔法で心臓マッサージになりましたか、黒焦げになると思ったのですが』

「雷耐性マックスでしたから』

『思わぬ副産物』

「仲間が奇跡的に蘇ったことで士気の上がったシアノ達は見事魔王を倒して見せました」

『奇跡によるモチベーションの向上は確かに大きいですからね』

「そして俺の最期の時もやってきます」

『口癖に終わりなどあるのでしょうか』

「不幸を嘆いたシアノでしたが、その不幸だと思った口癖が幸運を呼び仲間の命を繋ぎとめることに成功しましたからね。それ以来彼の口癖は『最高だ』とかになりましたよ」

『なるほど、悲観的な性格から楽観的に変わったと言うことですか』

「口癖が上書きされたことで俺は一時的にシアノの体から外れました、もう一度『滅びよ、プリズンフレイム』とかになって取り付くことも出来ましたが良い方向に変わったシアノの人生をこれ以上スパイシーにするのも気が引けましたので」

『普通の口癖にすれば良かったのではないでしょうか』

「なるほど、その手が」

『思い至らなかった辺り貴方の成長性に疑問を持ちますね』

「それと申し訳ないのですが概念体だったので今回はお土産を掴むことができませんでした」

『お土産が義務と言うわけではありませんからね』

「ただテンペストライトニングを覚えて来ましたよ」

『その世界で最強の魔法ですか、試しに受けてみましょうか』

「随分と余裕そうですが結構痛いと思いますよ」

『問題ありませんよ』

「では失礼して……轟け、テンペストライトニング」

『ふむ、肩凝りには多少効きそうですね』

「恐ろしい。でも女神様の胸の大きさじゃ肩凝りなんてなるはずも――」

『轟け、テンペストライトニング』

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