第三十三話:『こんにゃくゼリーしか斬れなくなった伝説の刀』

「今日のご飯はおでんでんー」

『おでんですか、和からしの用意は忘れないようにお願いします』

「柚子胡椒や味噌だれの用意もぬかりありませんとも」

『よろしい』

「そう言えば二月二十二日はふーふーふーでおでんの日でしたね」

『地球かつ日本の新潟県の狭い箇所で制定された日ですけどね。場所によっては十月十日だったりしますよ』

「日本人は記念日が好きですからね。他には猫の日とかですかね」

『にゃんにゃんにゃんの数字繋がりですからね』

「可愛い、ただ猫の日だからと言ってそれっぽいことは出来ませんからね。ここに猫を連れてくるわけにもいきませんし」

『猫ならそこにある巨大なバハムート(猫)のぬいぐるみで充分ですよ』

※第二十話参照。

「ではバハムート(猫)の前足を輪っか状にしてっと、この中で食べましょうか」

『猫に見下ろされて食べるおでんと言うのも新鮮ですね』

「食べられる心配はありませんよ、猫舌ですからね」

『肉食の猫なら食べるのは貴方ですけどね』

「女神様になら食べられたいところですが」

『百歩譲って私の飼うであろうアクアリウムの魚の餌が良い所ですね』

「喜ぶべきか悩ましい所ですね」

『悩んでいる時点で論外ですがね。貴方達が姿の似ている猿をわざわざ食べたいと思わない程度には人肉を食べたいと思ったことはありません』

「世の中には食べていそうな人もいますけどね」

『神様の中には人間を食べる者もいますね。美食家気取りだったり、魂目当てだったりと様々ですよ』

「世界を創造して人間達の起こす物語を楽しんでいるあたり、結局人間は神様の家畜って感じがしますね」

『その神に反旗を翻し、神を倒している貴方が言いますか』

「家畜にも五分の魂ですよ」

『一寸の虫が持つサイズですよね、それ』

「敷かれたレールに従う気がないと言った捻くれた根性もあるのですが、それ以外にもやはりその世界の神様レベルでないとまともに戦闘できないんですよね」

『圧勝ばかりしていると戦闘の楽しさは無くなりますからね。そもそも私も戦闘になった経験が無いので戦いの楽しさは殆ど知りませんが』

「もう少し手加減してくれればいい勝負して見せますよ」

『そうしたら貴方が力を奮って活躍するじゃないですか。何故弱者の力なんて見せられなければならないのですか』

「それが戦いの醍醐味なんですけどね」

『わりと貴方って戦闘好きですよね。報告にない所でしっかり鍛えていたりしていそうですね』

「それはまあ、男の子ですからバトル物には憧れますよ」

『では次の異世界転生ではそう言った世界が楽しめると良いですね。時間です』

「グツグツ言わせている土鍋のおでんを食べきれるか心配になってきた」

『問題ありません、貴方が去ってもおでんは私がしっかり面倒を見ます』

「物凄いからしつけてますけど辛くないのだろうか、ではガサガサっと。くらげ狂信者さんより『こんにゃくゼリーしか斬れなくなった伝説の刀』」

『おや、伝説の武器ですか』

「しかも五〇衛門の斬〇剣に斬れないこんにゃくが斬れる名刀ですよ」

『斬れる物が一つに絞られていますがね。待ち時間も見事になしです』

「へっへっへ、今宵の俺は血に飢えていますぜ」

『血も斬れませんがね。出かける前にこんにゃくでも食べて行ったらどうですか』

「そうですね、あれこんにゃくがもうない」

『おやすみません、私が食べているのが最後の一個でした』

「むしろそれで良いですよ」

『あげませんよ、和からしならあげますが』

「おでんの具ですらない。仕方ないのでしらたきで我慢します。では行ってきます」



『ふむ、地球では今日は二月二十二日ですか……おでんが食べたいですにゃあ』

「ただいま戻りました」

『今日は貴方を土鍋で煮込むとしましょうか』

「帰ってきたら女神様が食人に目覚めていた。あ、でもこれはこれでありなのか」

『煮込むだけですよ、灰汁の塊なんて食べたくないですし』

「灰汁の強さには自信がありますからね」

『褒められたことではないのですがね。こんにゃくゼリーしか斬れなくなった伝説の刀でしたか。刀となれば世界設定や時代背景はファンタジーではなさそうですね』

「和風テイストな武士系の世界でしたね」

『一応は異世界への転生なのですが、そうなると異世界感が物足りないですよね』

「出生から説明すると俺は辺境の山奥に住む伝説の名鍛冶であるムダマサによって打たれた刀です」

『伝説の名鍛冶には聞こえない名前』

「ムダマサは試しにと刀を振るうと山が真っ二つになりました」

『伝説の名鍛冶でしたね』

「俺の切れ味を目にしたムダマサは俺を封印することにしました」

『山を真っ二つに両断する刀ですからね、危険視するのは当然でしょう』

「いえ、ついでに彼の家を両断したのが一番の原因です」

『可哀そうに』

「月日は流れ、ムダマサは死亡。誰もいなくなった家に一人の剣豪が現れます。その名はゴセキモン」

『名前にパチモン感が抜けない世界ですね』

「ゴセキモンは山中を徘徊していた際にムダマサの家を見つけ、封印されていた俺を発見しました」

『辺境の山奥を徘徊していた剣豪の私生活が気になりますね』

「そんなわけで今回の転生先の相棒は山賊に身包みを剥がされて必死に逃亡するも道に迷い行き倒れかけていたゴセキモンとなります」

『補足説明ありがとうございます。しかし幸先の悪そうなスタートですね』

「そう悪くはありませんでしたよ。ゴセキモンは非常に腕の良い剣豪でしたからね」

『山賊に身包みを剥がされたのにですか』

「実はゴセキモン、過去に剣技を競い合った友人を斬り殺してしまって以来刀で人を斬る事に恐怖を覚えた剣豪だったのです」

『戦うことにトラウマを持つ主人公ですか、出だしとしては確かに悪くありませんね』

「俺を手に入れたゴセキモンは山賊への仕返しを行うため山賊の住処へと殴り込みを掛けます」

『人を斬る事への恐怖心とは』

「大丈夫です、それはそれ、これはこれです」

『少しも大丈夫には感じられませんが……ああ、そう言えば貴方はこんにゃくゼリーしか斬れなくなった伝説の刀でしたね』

「はい、長年手入れもされずに封印されていた俺はすっかり鈍らになってしまいこんにゃくゼリーしか斬れない存在になってしまいました」

『その時代にこんにゃくゼリーあるんですかね』

「ゴセキモンは驚きました、試し斬りにとあらゆる物を試しましたがどんなに巧みに斬りつけても何も斬れないのです」

『無さそうですね、こんにゃくゼリー』

「そう言ったわけでこれなら山賊をうっかり斬り殺す心配もないと山賊の住処に殴り込みに行ったというわけです」

『斬れない刀で挑んでも勝てないのでは』

「ゴセキモンは山賊たちを皆殴り倒します」

『斬れなくても殴ることは出来ましたか』

「斬れない分斬りつけた衝撃が全て相手に伝わると言う事ですからね。鉄パイプで殴るのと変わりませんよ」

『耐久面はどうだったのですか』

「山を切断できた伝説の刀ですからね、どんなに使っても刃こぼれ一つありませんよ」

『鈍らになった経緯が謎に感じますね』

「ムダマサの呪いか何かかと」

『家を斬られた呪いは大きかったようで』

「ゴセキモンは俺を大層気に入り、『拙者、この刀ならば諦めていた世界最強の剣豪を再び目指せるでござるのことよん』と俺を連れて放浪の旅にでます」

『語尾がとてもダサい』

「ゴセキモンは土地を転々として旅回り、名のある剣豪を次々と倒していきます」

『名のある剣豪ですか、どれくらい強かったですか』

「先ずはどんな紅鮭も容易く三枚に降ろせる名刀を持ったジョウベエ」

『紅鮭ならその辺の包丁で降ろせますよね』

「巧みな名刀捌きでしたが、ゴセキモンはジョウベエが紅鮭を捌いている隙を突き見事に勝利します」

『勝負中に紅鮭を捌いている方が悪いのか、それとも単純に捌いている最中に不意打ちをしただけなのか、その辺で賛否両論ですね』

「次はどんな紅鮭も容易く貫ける名槍を持ったタダメシ」

『紅鮭ならその辺の串で貫けますよね』

「見事な名槍の刺突でしたが、ゴセキモンはタダメシが紅鮭を串焼きにしている隙を突き見事に勝利します」

『勝負中に紅鮭を焼いている方が悪いのか、それとも単純に焼いている最中に不意打ちをしただけなのか、その辺で賛否両論ですね』

「更にはどんな紅鮭も容易に食べられる名箸を持ったハチベス」

『剣豪なのかすら怪しい』

「恐ろしい名箸の技でしたが、ゴセキモンはハチベスが放った暗黒冥界魔導螺旋撃の隙を突き見事に勝利します」

『箸使いが一番大物っぽい。ハチベスはただの一般人な気もしたのですがね』

「でも振り下ろす刀を箸で掴んで来ましたよ」

『大物だった』

「そしてどんな紅鮭も容易にひれ伏せさせる名紅鮭を持ったベニシャ」

『流れからしてそろそろ出てくると思いました』

「驚嘆する紅鮭自慢でしたが、ゴセキモンは話を聞かず殴り倒して見事に勝利します」

『何故か同情したくなりますね』

「こうして次々と剣豪を破ったゴセキモンは名の知れた剣豪となります。しかし有名になると今度は逆に自分が狙われる立場となります」

『名を上げたい剣豪は多いでしょうからね』

「最初はそれも悪くないと思っていたゴセキモンですが、日時を考えずに挑んでくる者達に段々と嫌気がさしてきます」

『挑む側としては一刻も早く名を上げたいですからね』

「旅の途中、食事の途中、就寝中、お風呂中、トイレ中、様々な場面で襲い掛かる剣豪達」

『予想以上に辛そうですね。トイレの最中に襲い掛かって勝利することに名誉もなにもあったものではないと思うのですが』

「死人に口なし、倒して殺してしまえばあとは言いたい放題な時代ですからね」

『潔さを象徴する武士道とか色々語られていますけど、実際はその武士道を作らねば無法地帯だったのが昔の時代ですからね』

「ゴセキモンは様々なことに我慢していましたがついに剣豪を止めることを決断します」

『トイレ中に襲い掛かられても嫌に思うだけだったのに。一体何をしている最中に襲われたのやら』

「ドミノの世界記録を狙っていた際ですね」

『納得できるけども時代錯誤も甚だしい』

「ゴセキモンは考えます、どうすれば剣豪達から狙われずに済むのかと。そして名案を思い付きます、負ければ良いのだと。適当な相手にワザと負けて逃げ出せばきっとその名声は下がり、相手にされなくなるだろうと」

『確かに有名な剣豪だからこそ挑むのであって、敵前逃亡するような相手をわざわざ倒したいとは思いませんからね』

「そして丁度良く現れた剣豪と勝負をし、適当に苦戦したふりをした後に逃げだそうとします」

『苦戦したふりをするあたり芸が細かいですね』

「しかしその次の瞬間にはその剣豪は打倒されてしまいました」

『おや、苦戦するふりや逃亡の行動を行う際にうっかり倒してしまったのですか』

「いえ、俺が軌道変化を行い剣豪の頭部を打ち抜いたのです」

『軌道を変化させられたのですか、いえその辺はさして驚きませんが。どちらかと言えば貴方の反撃した理由が気になりますね』

「隙だらけだったのでつい」

『ついで持ち主の逃亡プランを台無しにしたのですか』

「俺はゴセキモンに言います。『剣豪達と戦うのが嫌だからと道半ばで世界最強の剣豪の道を諦めるなんて言語道断だ、お前の剣の腕を磨いてきた想いはその程度なのか』と」

『喋る刀って大抵曰く付きですよね、性格の良い刀って少ない気がします』

「俺に叱責されゴセキモンは目を覚まします。『そうだ、拙者はこの手で殺めてしまった友と戦う前に約束していたのだ。例えどちらが死のうとも、世界最強の剣豪を目指す夢は必ず継いで叶えて見せようと。拙者目が覚めたでござるのことよん』と」

『語尾がダッサイ』

「そして俺は言います。『今のお前は名を上げるのに丁度良い程度の相手としか認識されていない。だが最強になれば挑もうと言う相手はぐっと減る。ドミノをする時間だってきっと作れるさ』と」

『ドミノに拘る理由があるのですか』

「友人の趣味だったそうですが、試しにやってみたらハマったそうです」

『理由としては弱いですね』

「そう言った感じでゴセキモンは再び世界最強の剣豪を目指す為に新たな旅に出ます。その間にも襲い掛かってくる剣豪達を倒し続け、ついにその時点で最強と呼ばれている剣豪モサシとの決闘を行う事となりました」

『名前にはもう触れません』

「モサシとの勝負前にゴセキモンは俺に言います。『斬こんにゃくゼリー剣よ、この戦いは拙者の集大成。助太刀は無しで頼むでござるのことよんよん』と」

『語尾が本当にダサイ。そして斬こんにゃくゼリー剣って貴方の名前ですか』

「そりゃあこんにゃくゼリーしか斬れない刀ですからね。嘘の名前は付けられませんよ」

『時代的にこんにゃくゼリーって何だろうって思っている剣豪多そうですね』

「ゴセキモンは俺の助けを借りずにモサシと激戦を繰り広げます。何度も追い詰められ、俺も手助けをしたくなりましたがその都度にゴセキモンは自らと俺に喝を入れ、反撃に出ます」

『貴方の力を借りれば容易く世界最強の剣豪にはなれますが、それでは自力で目指した想いや友人との約束を果たしたとは言えないのでしょうね』

「そしてついに決着、モサシが放った最終奥義こんにゃくゼリー斬を見事に破り渾身の一振りを命中させたのです」

『世界最強の剣豪の最終奥義がダサ過ぎる』

「強力な奥義でしたよ、こうプルプルとしていて弾力の在りそうな感じの斬撃で」

『実際に目で見ても凄いと思え無さそうですが』

「こうして世界最強の剣豪の座を獲得したゴセキモン、しかしこんにゃくゼリー斬を破った際に左目と右腕を失ってしまい戦うことはもうできなくなりました」

『凄い技だったんですね』

「ですが一度とは言え世界最強の剣豪になったのは事実。ゴセキモンは満足し剣を手放す決意をしました」

『剣を手放したからと言って貴方に最期が来るとは思えないのですが』

「あの世界に唯一あったこんにゃくゼリー、それはモサシの奥義こんにゃくゼリー斬だけだったのです。使い手のモサシは倒れましたがその奥義を見破ったゴセキモンなら使えました。ですがそのゴセキモンが剣を捨てるのであればあの世界に最早こんにゃくゼリーは存在しない。つまりこんにゃくゼリーしか斬れない刀と言う概念が崩壊してしまうのです」

『こじつけ感凄いですね』

「ゴセキモンは言います。『拙者は友との約束を果たせぬまま放浪していた情けない男だった。最後の最後まで人を刀で斬ること叶わぬ臆病者……しかしお前のような優しい刀と出会えたからこそ夢を成就させることができた。深く感謝するでござるのことよんぴょん』」

『語尾が全てを台無しにするレベルでダサイ』

「俺は世界から消える前に全ての力を振り絞り、ゴセキモンに義眼と義手を与えこの世を去りました。戦うことはできなくなってもドミノは出来るようにと」

『いまいちシメが弱いですが、まあ悪くはないですかね』

「そうそう、お土産ですがベニシャが自慢していた紅鮭を持ってきました」

『ちゃっかりと奪っていましたか。傷んでいませんかね』

「魔法で時間を止めておいたのでばっちり新鮮です」

『時代錯誤も世界錯誤も甚だしい、ですが確かに美味しそうですね。おでんを希望でしたがこちらもいただきましょう』 

「おでんもぱぱっと作りますよ。そうだ、折角見て覚えたので使って見ましょうかこんにゃくゼリー斬」

『ちゃっかり覚えて来ましたか、まあ大した技でも……うおお』

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