第二十六話:『リア充を爆発させる時に使う爆発物』

「ふと思ったのですが、何故異世界転生なのでしょうか」

『数秒前に私に抱きつこうとして、地獄の業火で焼かれリスポーンした人の台詞とは思えませんね』

「大した疑問ではないのですが、俺の場合普通に蘇らせた方が手っ取り早いのでは」

『そうですね。それが出来れば最も手っ取り早いのですがね』

「できないのですか」

『貴方がいた世界の神様はルールに厳しいので難しいでしょうね。お手軽な蘇生転生を認めない神様もいるのです』

「異世界転生者を受け入れるのも神様の度量次第と言うわけですね」

『ええ、その異世界転生先でやらかしている貴方の存在は徐々にブラックリストに追加されつつあります』

「世知辛い、魔王とか倒しているのに」

『勇者も倒していますけどね。それに世界を生み出す神様にとって大事なのはその世界の結末がいかに神様の期待に応えられるかです。大抵は良き物語を紡げれば満足するのですが、貴方はその辺を台無しにしていますからね』

「割と壮絶に戦ったりしているのですがね」

『壮絶に戦う無生物が問題なのです』

「見た目に拘るなんてそんな神様達の器が知れますね」

『ハリウッド映画の主演が雑貨品だったら意外性はあっても感動は薄れますからね。コメディーよりもドラマティックな展開を望みたいのですよ』

「ふむ、つまりはド派手かつ劇的な演出を演じれば満足するかも知れないと」

『レモン汁を飛ばして戦うよりかは可能性がありますね。それではまともにやる気が出ているようですからその勢いのまま異世界転生と行きましょうか』

「ではこちらに取り出したる目安箱、腕を突っ込むと……おや」

『どうかしましたか』

「この感触、二百枚超えていますね」

※執筆中の時点で皆さんからのお題の総数が二百超えております。

『一体誰がどうやって送り届けているのやら、考えたら負けだとは思いますが』

「がさがさー、ぴょんと。犬狼牙 クロツチさんより『リア充を爆発させる時に使う爆発物』」

『劇的と言えば劇的でしょうか。確かその人以前もお題を投稿していた方ではありませんでしたっけ』

「『時計塔の秒針』、『カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気』の方ですね」

※五話、十五話参照。

『二百以上あるお題の中から三度目の採用とはハガキ職人の才能がありそうですね』

「しかし三度続けてリア充を敵視する展開になるとは予想外ですね」

『時計塔の秒針に関しては意図していなかったと思いたいのですがね』

「リア充を爆破させる際に使う爆発物かぁ、あまり殺傷力あると殺伐としちゃいますからね」

『そうですね、幸せそうなカップルは見ていれば反吐が出ますが罪はありません』

「割と女神様がカップルに対して手厳しい。取り敢えずリア充を爆破しそうな人物のいる異世界転生先を探してっと……ふむふむ、この子とか良いかもしれないな」

『女性の犯人ですか。内容が内容だけに下心には走らないでしょうから今回はスルーしますが』

「走れないわけでもないですがね。爆破ついでに服を吹き飛ばすとか出来るでしょうし」

『出来れば劇的に進めて欲しいところですね』



『しかしこの目安箱、どう見てもただの目安箱だと言うのに……時空干渉、いや次元干渉を――』

「ただいま戻りました」

『おや、おかえりなさい。言うまでもなくダメでしたか』 

「劇的にして見たのですが残念ながら」

『リア充を爆発させる時に使う爆発物でしたか。どの様な爆発物になったのでしょうか』

「バナナの皮です」

『もう一度』

「バナナの皮です」

『バナナの皮は爆発物でしたか、そんなわけないでしょうに』

「分かりやすく説明しましょう。まずはこちらの写真を」

『仲の良さそうなカップルが歩いている写真ですね。歩く先にバナナの皮が見えますが』

「こちら数秒後の二枚目」

『男性の方がバナナの皮を踏んで綺麗にひっくり返っている瞬間ですね』

「最後にこれが直後の三枚目です」

『爆発しましたね。どう言った仕組みなのでしょうか』

「滑って転んだら爆発します。どっとウケる感じで」

『劇的に笑わせてどうするんですか』

「ちなみにその後の四枚目の写真です」

『カップルが仲良く見事なアフロに。外傷はなさそうですが物凄く惨めな顔をしていますね』

「はい、俺を踏んで滑って転んだリア充は爆発してアフロになります」

『なるほどわからない』

「踏んだり蹴ったりならぬ踏んだりもっさりです」

『さらにわからない』

「取り敢えずはそういうバナナの皮に転生したということだけ理解してもらえれば」

『理解することを拒否したいのですが話が進みそうにないので受け入れましょう』

「では今回のパートナーの紹介ですが、このカップルのアフロ化を目撃した非リア充の女性がいました。それがイーチェラです」

『写真を見る限り、悪くない容姿ですね。十分リア充になれるのでは』

「実はこのイーチェラ、好みの男性の理想像が高難易度過ぎて中々良い相手と巡り合えない子だったのです」

『わりといますよね。自分に見合っていない高嶺の花を求めて這いまわる系の人間。目の前にも一人』

「いつかは上り詰めて見せますとも。ちなみにイーチェラの理想像は3Kです」

『最近聞かない単語が出てきましたね。高身長、高学歴、高収入でしたか』

「風使い・雷使い・カスタネット使いですね」

『そう言えばファンタジーでした。そして最後のカスタネットとは』

「あれ、女神様はカスタネットをご存じでないので」

『知っていますよ。打楽器であるカスタネット使いの何に惹かれるのですかと言う意味です』

「凄いんですよ、カスタネットのプロは」

『プロっているんですか』

「いますよ。カスタネット、プロで検索を掛ければほら」

『ふむ、確かにこれは凄いですね』

※如何なるジャンルにも超絶技巧は存在します。興味があれば検索してみると面白いですよ。

「風使い、雷使いは割と数がいたのですがカスタネット使いが少なくイーチェラは独り身だったのです」

『カスタネットを専門とする人が風やら雷を扱うことはないでしょうからね』

「では話を戻して、イーチェラは地面に残った俺を訝し気に眺めてきます」

『まずは当然の反応といったところでしょうか』

「そしてそのまま一気に俺を踏みつけ、華麗に空中で一回転」

『探求心強いですね』

「いやぁイーチェラの思い切りの良い姿勢には俺も驚きましたね。しかし俺はリア充が滑ったら爆発してアフロにするバナナの皮です。なのでイーチェラが滑ったところで爆発するわけではありませんでした」

『その辺の差別化はしっかりとしているのですね』

「非リア充が俺で滑ると近くのおっさんの顔が劇画タッチになります」

『アフロ以上に大惨事』

「突如さえないおっさんが凛々しい劇画タッチなる変化を目の当たりにしたイーチェラは俺が凄いバナナの皮だと確信します」

『突如劇画タッチの顔になった人のリアクションが気になりますね』

「覇気が出たと喜んでいましたよ」

『劇画タッチの人が増えないことを祈りたいところですがね』

「イーチェラは憎きリア充を爆破する計画しか頭になかったので」

『それはそれで問題がありますが』

「イーチェラは見事なアンダースローでカップルの足元へ投げ込んでいきます」

『女性ですからね、オーバースローはしないでしょうね』

「そして俺を踏んで滑り、爆発しアフロになるカップル達」

『中々悪さをしていますね。悪戯の範疇なのであまり咎める気にもなりませんが』

「手始めにイーチェラは舞台となった国のカップル八割のアフロ化に成功します」

『手始めで一大ブームでも起こしたかのようなアフロブーム』

「俺の爆発でアフロになった者はリア充である限りアフロですからね」

『呪いのアフロでしょうか。しかし毎回爆発を起こしているのに貴方は良く平気ですね』

「爆発物に異世界転生するのなら爆発耐性はつけて然るべきですからね」

『爆発耐性のある爆発物なんて殆どないのですがね』

「残る二割のカップルもアフロにして滑稽な世界を作り上げるのだと魔王イーチェラは高らかに笑います」

『まさかの魔王でしたか』

「それにつられて俺も笑います」

『笑っちゃいましたか』

「ビックリしていましたよ」

『散々投げていたバナナの皮が笑い出しましたからね』

「ですが元々奇跡を起こしていたバナナの皮でしたからね。すんなり受け入れてもらって互いにリア充をアフロにしてやろうと手を組みましたよ」

『手はないですけどね』

「ありましたよ、ニョキっと」

『ありましたか、生やすの好きですよね』

「しかし国のカップルの八割がアフロにされて国が何も対策を行わないわけがありません。この事件の犯人を捕まえるべく勇者を呼び寄せたのです」

『そこは警察ではないでしょうか』

「ファンタジーですからね」

『魔王に敵対する者を勇者にしていれば良いと言う風潮は如何なものでしょう』

「流石は勇者、狙われているのがカップルだと分かるや否や即座に非リア充に犯人がいると推理して見せます」

『大抵の人は最初に思いつきそうな内容ですよね』

「そしてそれが自らの理想像が高すぎて独身であり続ける哀れな非リア充タイプ、かつカスタネット使いが好きな女性だとも推理します」

『勇者凄い。その人探偵では』

「いえ、勇者でしたよ。一人カラオケ、一人河原バーベキュー、一人バンド結成等様々な勇気を見せていましたからね」

『勇気がある者でしたか。最後のはただのソロデビューではないでしょうか』

「そして勇者はイーチェラをあっと言う間に見つけ出し、宿命の逃走劇が始まります」

『宿命なのでしょうか、あまり因果を感じませんが』

「逃走しながらもイーチェラは俺を投げて勇者を転ばせにいきます」

『それ回避されたら回収困難では』

「大丈夫です、俺のオプションに『投擲後、必ず手元に戻ってくる』がありますので」

『ご都合的なオプションですね』

「爆発物として使うのであれば投擲は考慮の内でしたからね」

『それはまあ、言えてますかね』

「針の穴を通すコントロール、時速150キロを超える俺がピンポイントで勇者の踏み込んだ足の下へと滑り込み、勇者を転倒させます」

『その魔王、野球界に入るべきではないでしょうか』

「ファンタジー世界なので野球はないんですよね」

『野球のあるファンタジー世界は少ないですよね』

※あるにはあります。

「でもカバディはありましたよ」

『またニッチな、どうしてそんなスポーツが』

「流行らせました」

『余計なことをするバナナの皮ですね』

「ちなみに勇者は独り身でしたので近くにいた八百屋のおっちゃんが劇画タッチの顔になります」

『また悲劇が起きてしまいましたか』

「喜んでいましたよ、いぶし銀だって」

『ポジティブですよね、この世界の人々』

「しかし滑って転んだ程度で怯む勇者ではありません。風魔法により疾風の如く追いかけてきては雷魔法を連打してきます」

『アフロ化の犯人相手に殺傷力高そうな攻撃とは容赦ないですね』

「しかし俺の存在を忘れてもらっては困ります。ありとあらゆるものを滑らせる力を持っていた俺は勇者の魔法すら滑らせるのです」

『バナナの皮って踏んだら確かに滑りやすいですけど、そんなに万能でもないですからね』

※作者はバナナの皮を実際に踏んでどれくらい滑るのか検証したことがありますがお風呂場の石鹸の方が滑ります。

「ちなみに魔法が滑ると近くにいるおっさんがマッチョになります」

『そして要らない追加設定が新たな被害を』

「長い追いかけっこもついに終盤。街のおっさんの9割が劇画タッチかマッチョになった頃、ついにイーチェラは追い詰められました」

『カップルのアフロ化よりも被害が大きい気がしますが』

「まあおっさんたちはマッチョになることに抵抗はありませんでしたから、セーフですよセーフ」

『確かに筋肉をつけることを嫌がる男性は少ないですよね。モデルの方とかは上手く調整していますが』

「まあマッチョになりすぎて服が破れ、公然猥褻罪で数名逮捕されましたけどね」

『限りなくセーフから遠いアウトですね』

「イーチェラは喜んで見ていましたよ、涎を垂らして」

『女体化した貴方のような性格ですよね、その人』

「俺は涎は飲み込むタイプですよ」

『些細』

「イーチェラを追い詰めた勇者ですが、彼もまた独り身だったので彼女の辛さや憎しみは理解していました」

『一人バンドを結成するくらいには独り身を極めていましたからね』

「なので正々堂々勝負をし、勇者が勝ったらもうカップルのアフロ化は諦め舌打ちをするだけに留めろと提案してきます」

『割と勇者もリア充嫌いなのでは』

「そしてその条件を飲んだイーチェラは勇者と最後の戦いを繰り広げます」

『ガチな戦闘でしょうか』

「いえ、路上ライブ対決です」

『勇者と魔王が路上ライブ対決』

「奇しくも両者は楽器に精通していたミュージシャン志望でしたからね」

『まあ以前はコントとかやっていましたしね』

※十五話参照

「イーチェラは得意のカスタネットを披露し、路上の観客達のテンションを上げていきます」

『やはり当人もカスタネット使いでしたか』

「対する勇者、なんと奇しくもカスタネット、しかも二刀流からのヴォーカル」

『奇しく過ぎませんかね』

「ダブルカスタネットからのバラードに観客達はメロメロでした」

『カスタネットとバラードの組み合わせはどうなのでしょうか』

「そして勝負は残念ながら勇者の勝利となりました」

『流石に二刀流からのヴォーカル付きですからね』

「合間に俺が足元に割り込んで何度か滑らせたのに、残念です」

『正々堂々何処に行った』

「しかし両者は実力を出し切り、劇画タッチの人々からの拍手を受け気持ちの良い決着となりました」

『どれだけ被害者を出したのでしょうか』

「ここからは後語りですがイーチェラは勇者と付き合います」

『そう言えば風使い、雷使い、カスタネット使いと全部揃っていましたからね。魔王にとっては勇者と言う奇跡の出会いがあったわけですね』

「二人はその後バンドを結成。カスタネットとカスタネットの組み合わせで一世を風靡させるペアバンドとなります」

『またしても世界史にシュールな結果を残してくれましたね』

「そしてお別れの時がやってきます」

『来ましたか』

「はい、今回生ものにしたことをすっかり失念していて防腐対策を施していなかったのです」

『腐ってしまったと。詰めの甘さが目立ちますよね、貴方の最期』

「イーチェラは腐りかけ、臭う俺に対し嫌な顔することなく握手を求めてくれました。『貴方がいたから私は素敵な勇者と出会えた。貴方も早く理想の人に会えると良いわね』と」

『傍目から見たら腐りかけのバナナの皮を握る女性ですよね』

「ま、俺の理想は女神様ですから」

『高嶺を超えて宇宙の先にありますけどね、私は』

「気長に登り詰めますよ。それでお土産ですがイーチェラと勇者の結成したバンド『アフロマッチョ』のCDです」

『もう少しまともなバンド名は思いつかなかったのでしょうか。まあ折角ですから聞いてみましょうか』



「おや、女神様。カスタネットの練習ですか」

『たまには楽器でも学んでみようかなと思いまして』

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