第二十話:『召喚獣バハムートのブレス』

「おはようございます、今日も綺麗ですね女神様」

『ありがとうございます、では感謝の抱擁を』

「おっと、発作の日だ」

※女神様は時折(十話に一度)物凄く人恋しくなるぞ

『なぜ回避するのです』

「内心すごく魅力的に感じる展開なのですが、ここで俺が折れるといけないなと」

『普段は隙あらば抱きつこうとするくせに、何故こういう時はヘタレなのですか』

「バランスは大事なんですよ、そう言い聞かせているのにじりじり近寄られている」

『私と貴方二人の世界になんのバランスが必要だというのですか。いっそ力づくで、はっ、いない』

「変わり身の術です」

『女神の拘束を忍術で回避するとは、それにしても忍術が好きですね』

「魔法だと女神様に通用しない気がしまして」

『大正解です、その気になればこの世界全てに魔法封じの結界を張れます』

「恐ろしい」

『では正解のご褒美を』

「残念ながら異世界転生の時間です、そしてこれは事前に隠しておいたピックアップお題」

『先ほど発作が発覚したというのにいつの間に』

「あらゆることに備えておくのも主人公の常です」

『いつも主人公以外に異世界転生しているくせに良く言いますね』

「お題はノラシャムさんより『召喚獣バハムートのブレス』」

『強そうといえば強そうですね』

「召喚獣バハムートって著作権的に大丈夫でしょうかね」

『バハムートは某有名ゲームの召喚獣であるイメージが強いですが魚だったりしますね』

「魚といえば紅鮭師匠やスペイシャス、最近だとベニシャッケを思い出しますね」

『明らかに同一なんですがね』

「なんと、そうだったんですか」

『相も変わらず察しが悪い』

「言ってくれればもっと親切にしたのに」

『一度として同じ姿をしていませんからね貴方、気づけという方が無理な話です』

「もしかすれば転生先のバハムートが彼かもしれませんね」

『召喚獣バハムートクラスになると順番待ちの発生率が尋常ではないですからね』

「ちなみにバハムートのブレスの人気はどうですか」

『残念ながらなしです』

「割と格好良いのに、バハムートのブレス」

『技になりたいという人は少ないですからね』

「オプションは適当にっと、それじゃあ行ってきます」

『まだ少し猶予はありますね、さあこちらに』

「行ってきます」



「ただいま戻りました」

『おかえりなさい、やはりダメでしたか』

「……」

『どうかしましたか』

「また発作起きてますね」

『そんなことはありませんよ、もう治っています』

「良かったではただいまのハグを」

『ええ、勿論、はっ、いない』

「残像です」

『女神が眼で追えない速度で動きましたか、やりますね』

「ずっと発作中だったというわけではありませんよね」

『そうですね、別のタイミングの際にちょうど貴方が戻ってきました』

「とりあえず報告を行いたいのでこちらの抱き枕でも抱きしめておいてください」

『その程度で私の衝動が収まるとでも、悪くないですね』

「中のスポンジを人型に加工してありますからね」

『私のスタイルと似通っているのは気のせいでしょうか』

「では報告します、言わずもがな召喚獣バハムートのブレスになって来ました」

『流された、まあ良いでしょう。しかし貴方の意志はどのように介在したのでしょうか』

「バハムートがブレスを放った時に外に現れて、消えたらバハムートの中に戻る感じですね」

『単発で終わらなかったのですね』

「滞在時間が一度につき十数秒程度だったのでそれでも辛いですけどね」

『ちなみにバハムートはドラゴンでしたか、それとも魚でしたか』

「猫でした」

『ワンモア』

「猫でした」

『リピート』

「ねこでした」

『召喚獣バハムート(猫)ですか』

「はい、召喚獣バハムート(猫)です」

『出オチ感半端ないですね』

「一応勇者の仲間である召喚士が召喚する最強の召喚獣でしたよ、バハムート」

『猫の召喚獣が最強という時点でたかが知れますね』

「ちなみにこちらが召喚時の写真です」

『山より大きい猫が』

「全長1キロ」

『なるほど、それは最強ですね。しかしこれだけ巨大な猫のブレスなら貴方も相当大きいですよね』

「はい、こちらがバハムートはブレスを吐いた瞬間です」

『巨大な猫の口から人型の炎が「よっ、やってるか」と言いだしそうなポーズをとっていますね』

「発声器官が無かったので、体で言葉を表現してみました」

『発声器官の無い無生物で散々喋っていた人の言葉とは思えませんね』

「ちなみにこれが初めて召喚された時の写真」

『人型の炎が前かがみに、名刺渡しでしょうか』

「折角勇者のパーティに入れたのですから挨拶はしておこうと思いまして」

『炎でできた名刺なんて読めないでしょうに』

「そう思ってその数秒後迷いの森を焼き払って文字を作りました、こちら写真です」

『「バハムートのブレスです、よろしくお願いします。」と木々を残して迷いの森が焼かれていますね。ナスカの地上絵を彷彿します』

「なお誰も読んでくれませんでした」

『でしょうね』

「文字の部分だけ焼けば良かったですかね」

『大文字ですね、やるなら山を焼くべきでしたね』

「なお勇者達は突如攻撃先を変えて森を焼き尽くしたバハムートを畏怖するようになりました」

『でしょうね、酷い巻き添えです』

「なおバハムートはにゃーと鳴いて悲しんでいました」

『言葉は理解しているのですね』

「しかし勇者達の強さと比べ敵の強さは中々辛いものがあり、召喚を多用せざるを得ない状況でした」

『頼らざるを得ない状況でしたか』

「俺は思いました、この可愛いバハムートを畏怖の対象にしてはいけない。俺がバハムートを導くんだと」

『貴方の自己紹介が原因で畏怖したわけですが、それは』

「どうせバハムートは召喚されますのでその都度俺は勇者達にバハムートの可愛さアピールを行いました。まず一枚目がこちら」

『炎がハートマーク、キュートですね』

「これで僧侶のヒロインが落ちました」

『ちょろくないですかそのヒロイン』

「ちなみにこの後ハート型のブレスが魔族の軍勢を阿鼻叫喚の地獄に突き落とします」

『ハート型でもブレスはブレスですね』

「次はこちら」

『炎でなにやら端麗な顔立ちの男性の顔が描かれていますね』

「魔法使いの顔です」

『突如ブレスが自分の顔を映し出された魔法使いはどう思ったのでしょう』

「落ちましたね」

『ナルシストですかね、その魔法使い』

「ちなみにこの後魔法使いの顔ブレスは魔王の側近を骨も残さずに消滅させます」

『そんなブレスに迫られた挙句骨も残さずに消滅させられたら異世界転生間違いなしですね』

「これで残るは勇者、そして召喚士です」

『ふと思ったのですが今度のパーティ物理系は勇者だけじゃないですかね』

「いえ、勇者のメイン武器は弓ですよ」

『近接がいませんね』

「ヒロインがメイスで殴っていましたよ」

『貴方の関わる世界の女性って鈍器好きですよね』

「しかしちょろいヒロインやナルシーな魔法使いと違って召喚士と勇者は手強く、一度や二度では心は奪えませんでした」

『その間にどれだけの被害が出たかは想像したくないですね』

「ですがようやく召喚士の好みを把握することが出来ました、なんと奴は氷フェチだったのです」

『凄いフェチですね、そして貴方には難しそうなお題ですが』

「いえ、属性なら自由に変えられるのでアイスブレスに切り替えれば余裕でしたよ」

『万能ですねバハムートは』

「作り出された万年雪、作り出される無数のつららを見た召喚士は落ちました」

『でもそれってバハムート関係ないのでは』

「いつでも膨大な氷を生み出せると言う意味では貴重な存在ですよ」

『可愛さアピールはいずこへ、いや魔法使いの時点でおかしかったですね』

「ちなみにアイスブレスは火山に住む魔王の秘密兵器であったドラゴンを火山ごと凍らせて見せました」

『炎より火力がありそうですね、他の属性は使ってみたのでしょうか』

「雷属性や闇属性、レモン汁属性は使いましたね」

『それただのレモン汁では』

「レモン汁の滝でしたね」

『猫の口からレモン汁って猫に悪そうですね』

※猫や犬にレモンはあまり良くないらしい

「バハムートもにゃーとすっぱそうな顔をしていました」

『すっぱそうな顔も可愛いでしょうね』

「勇者を除く3名がバハムートの可愛さに敗北し、彼等はバハムートを召喚する度にバハムートを崇めるようになります」

『崇めるほどですか』

「それに気をよくしたバハムートはにゃーと誇らしげです」

『ところでにゃーとしか言っていないのですが、本当に意思疎通できているのでしょうか』

「大丈夫ですにゃー」

『貴方がにゃーといってもあまり可愛くないですにゃー』

「可愛い、残るのは勇者ですが勇者の好みが中々分かりません。家族構成やライフスタイル等は調べ上げたのですが」

『バハムートのブレスがどうやって個人情報を調べたのでしょうか』

「普段はバハムートの中に入っているんですが、バハムートは召喚士の装備している伝説の杖に宿っているのです」

『召喚士と行動を共にして聞き耳で調査したということでしょうか』

「いえ、面倒だったので精神を支配する魔法で召喚士を操りました」

『息をするように魔法を使いだしましたね』

「ブレスですからね」

『そういう意味ではないのですが、しかしそれでも調べ上げられないとすると意図的に隠している可能性がありますね』

「はい、ヒロインですら良く分からないようなので調査は行き詰まりました」

『別に勇者一人くらいなら構わないのでは』

「いえ、バハムートの可愛さは世界に伝えなければ俺の存在価値が危ぶまれます」

『貴方の存在価値は攻撃なのですから十分に活躍していると思いますがね』

「特に世界を救った後の勇者が語る言葉は歴史に残るレベル、勇者を落とさねば最大の戦果は得られません」

『確かに勇者の影響力は絶大ですからね』

「いっそブレスの巻き添えで勇者を亡き者にして召喚士辺りに勇者を継がせようとも思いましたが思いとどまり、活動を再開します」

『いつもの貴方なら躊躇なくやっていそうでしたが、良く思いとどまりましたね』

「自分の為なら躊躇はなかったのですが、全てはバハムートのためですからね」

『その思いが果たしてバハムートに伝わっているのやら』

「バハムートはにゃーと嬉しそうに答えてくれましたにゃー」

『それは良かったですにゃー』

「可愛い、しかし努力の甲斐もなくついに最後の戦い、魔王城の最奥、魔王との戦いが始まってしまったのです」

『最終局面で勇者の好みは分からず仕舞いですか』

「はい、そして魔王は流石に強くバハムートが召喚されます」

『城中で全長1キロの召喚したら城崩れませんかね』

「大丈夫です、魔王の城ですし」

『崩れたんですね』

「そしていよいよ最後のブレスを放つ時、一発逆転に賭けた俺は破壊力に特化した近未来顔負けのレーザービームブレスとして魔王に向かって発射されます」

『凄い絵面ですね』

「魔王は『うっそでしょ、いやいやそんな、うっそでしょ』と辞世の句を残し消滅しました」

『気持ちは分かります、そしてしっかり五七五』

「しかし気持ちの良い破壊力のあるブレスでも勇者の心は落とせませんでした」

『破壊力だけなら既に散々証明していましたからね』

「万策尽きた俺は残った高エネルギー体の状態で項垂れます」

『魔王を消滅させる高エネルギー体が残っていたら危ないどころの話じゃないのですがね』

「バハムートはそっと俺の肩に手を乗せる手前で寸止めして言います」

『触ったら危険ですからね』

「『もうええ、兄ちゃんはよお頑張ったで』と」

『うっそでしょ』

「これには流石の俺も驚きました、後で分かった話ですかこのバハムートは異世界転生者だったのです」

『どうりで猫でバハムートなわけですか』

「そしてなんとこれで勇者が落ちました」

『そんな馬鹿にゃ』

「可愛い、勇者は喋る動物萌えだったのです」

『喋ったと言っても滅茶苦茶渋そうな声なんですが良いのでしょうか』

「こうして勇者一行はバハムートへの畏怖を払拭しきり、バハムートは最高の召喚獣だと後世に残してくれることになったのです。これ銅像の写真です」

『ただの猫の像ですね』

「足元に米粒サイズですが勇者達もいますよ」

『虫眼鏡でようやく見えますね』

「ただバハムートはこれ以降召喚されることはあってもブレスを打つ必要がなくなり、俺の存在は消えてしまったのです」

『交流の為に破壊力満載のブレスを吐くわけにも行きませんからね』

「ただその気配を感じ取ってか、最後のバハムートはこう言ってくれました。『兄ちゃんはきっとこの程度じゃ満足せんのじゃろうな、それでええ、男ならとことん満足して突き進むんじゃ』と」

『本当に渋い猫でしたね』

「ちなみにお土産ですが1/100スケールのバハムートぬいぐるみです、世界の特産品になりましたので。よいしょっと」

『全長1キロ(1000メートル)の100分の1、つまり10メートルですね』

「寝転がるにはちょうどいいですかね」

『そうですね、では一緒に、はっ、いない』

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