第十八話:『失敗作と叩きつけられる皿』
「とんてんかんてんとんてんごっしぃ」
『なんですかその変な擬音は、何やら作っているようですか』
「新しい目安箱ですよ、日曜大工がてらにと」
『指パッチンで色々出せるでしょうに』
「メーカー品しか出てこないので」
『メーカー品は出るんですね』
「枠組はこんなものかな、そろそろ次の異世界転生ですかね」
『ええ、良い頃合かと』
「異世界転生に頃合とかあるんですか」
『説明していませんでしたね、別の世界に長時間いると魂がその世界に順応してしまうのです。初回ならば大して問題は無いのですが、そう何度もポンポンと異世界転生をされると他の世界に余計な因果を持ち込んでしまう可能性があるのです』
「ああ、以前オリーブオイルを被って異世界転生したらオリーブオイルまみれになった感じですか」
『もうちょっと非物理的な話なのですが、まあそんな感じです』
「戻ってくるたびに暫くこの空間で生活させられていたのはそんな理由があったんですね」
『貴方の場合、頻度が頻度なので労働と言う対価は支払わせていますがね』
「ああ、食事当番を押し付けられていたのってそう言う意味でしたか」
『他に任せて良い仕事もありませんからね』
「洗濯掃除とかあるじゃないですか」
『色欲にまみれた方に任せられる仕事ではありません』
「中々評価が低い、後は異世界転生の斡旋なら手伝えそうですが」
『自分の転生先をくじで決めるような酔狂な方に任せて良い仕事ではありません』
「割りと楽しいのに」
『そう思えるのは砂漠にある極々一粒の砂程度な貴方くらいです』
「照れますね」
『たまには悪口だと理解して欲しい所です』
「ではいつもの目安箱」
『新しく作った方は使わないのですか』
「まだ完成していないので、また今度ですね」
『今回も帰ってくる気全開ですね』
「がががごそそっと、valota666さんより『失敗作と叩きつけられる皿』ですね」
『秒速で帰って来れそうなお題ですね』
「そこは上手いこと時間を稼いでみせますが、これって一人二役なんですかね」
『失敗作 と 叩きつけられる皿の二役ではありませんよ。失敗作だと言う理由で叩きつけられる皿ですね』
「と言うことは何かしらの失敗作要素は必要と言うことですね、なるほど」
『よからぬ顔をしていますね、カレー皿のように綺麗に纏まる気配の無い顔です』
「では良い顔をして見ましょう」
『今の会話からありえないほどの良い顔ですね、今の会話のせいで恐怖すら感じます』
「会心の笑みだったのに。さて、オプションも決め終わったのでサクっと行ってきます」
『できればガッツリ行って来て欲しいのですがね』
◇
『うーむ、彼の様な笑顔は中々できませんね。表情筋の差でしょうか、頬をくいくいと』
「ただいま戻りました。鏡と向き合ってどうしたんですか」
『お前は誰だと囁いていました』
「ゲシュタルト崩壊起こしませんかね、それ」
※良い子も悪い子も真似しちゃだめですよ。
『では報告を聞きましょうか』
「ええとまず俺は有名な陶芸家の巨匠、名前はなんだったかな……そうそう、コレワッタルですね」
『いかにも割りそうな名前ですね』
「ええ、彼は少しでも満足のいかない作品があると即座に割る男でした。俺が生まれた時にも周囲の皿全てが割られましたよ」
『中々気難しい人物なようで、それで貴方はどのような理由で失敗作だと』
「皿なのに取っ手がありました」
『熱い料理を注いだ際に持ちやすいように付いている取っ手のことでしょうか』
「いえ、ビールジョッキとかについている奴です」
『持ちにくそうですね』
「付いている場所は皿の底に」
『料理を盛り付けたら持てない位置に』
「ちなみに取っ手が邪魔で常に傾いています」
『失敗作とか言うレベルじゃないですね、焼く前に気づかなかったのでしょうか』
「突然変異と言う奴ですね」
『陶器にそんなオプションつけないでください』
「いやいや、明らかな失敗作じゃないと叩きつけられないかもしれないじゃないですか」
『そこまでの失敗作なら当然叩きつけたでしょうね』
「ええ、最初は何度も見返して驚いていましたが結局は失敗作じゃないかとがしゃーんと地面に叩きつけられます」
『驚くでしょうね確かに、そしてノリも良い。それで貴方は割られたと』
「いえ、地面に叩きつけられた俺はビタっと地面に張り付きました」
『メンコでしょうか、割られた音はどうしたんですか』
「がしゃーん」
『口で言っていたんですか』
「実際はもう少し似せていましたけどね」
『口で発生した音に似てるも何も』
【皿が割れる音】
『そんな馬鹿な』
「声真似は得意なんですよ」
『得意とか言う次元ではない気がしますが』
「コレワッタルは不思議そうな顔をして再び俺を拾い上げます」
『割れた音がしたのに無傷だったら不思議そうな顔をするでしょうね』
「奴は勢いが足りなかったのかとさらに力いっぱい全力を込めて俺を地面に叩きつけます」
『皿だけにですか』
「えっ、あっ、はい、そう、皿だけに」
『その気遣いが逆にイラだちますね、ですが流れからしてやはり割れないんでしょうね』
「はい、俺は地面で跳ね返りコレワッタルへと命中します」
『反発係数が安定していませんね』
※ぶつかる前と後でどれくらい勢いが保持されるかの計算式に使う物です。
「多少弄れるようにしました、0から1の範囲ですが」
『完全にくっつくか完全に跳ね返るかのレベルですね』
※0ならピタっとくっつくし、1なら全く勢いが落ちません。
「皿に顎を打ちぬかれ、コレワッタルは吹き飛びます」
『力いっぱい全力で叩き付けた威力がそっくり跳ね返ってきましたからね』
「そして鳴り響くがしゃーん」
『割れていないくせにムカつく皿ですね』
「その後コレワッタルは様々な方法で俺を割ろうとしてきます」
『それでも割ろうと言うスタンス、名前を大事にしていますね』
「あらゆる手段を用いて破壊を試みましたが当然の如く無傷でしたがね」
『とんだ皿もあったものですね』
「飛んではいないですが」
『ええい、続けなさい』
「コレワッタルは俺を割ることを諦めます、しかし自分を全治半年にまで追い込んだ皿を傍に置きたくはありませんでした」
『全治半年になるまで破壊を試みたのですね』
「なのでコレワッタルは俺を勇者へと譲ります」
『傍迷惑な』
「実は取っ手も付いていたので盾として使用することが出来たのです」
『そう言えば付いていましたね、しかも反発係数を弄れると言うオプション付きで』
「皿としては失敗作でしたが盾としては優秀でしたよ」
『よく勇者は陶器の盾なんて装備しようと思いましたね』
「一応コレワッタルは世界でも有名な巨匠ですからね、価値は高いですよ」
『価値はあったとしても防具としてチョイスすべき素材じゃないと思いますがね』
「しかし俺と言う盾を手にした事で雑魚だった勇者の人生は激変します」
『雑魚だったんですか』
「体力、素早さ、防御があらかた村人並みでしたからね」
『それは弱い』
「ただ成長ポイントを攻撃力に全振りしていて爪楊枝でも岩を貫けましたね」
『弱いとは言えないですね、そしてシステマチックな世界でしたか』
「致命的な防御力の無さを補えるようになった勇者はどんどん活躍していきます」
『鉄壁の防御と特化した火力、愛称は良さそうですね』
「取っ手に指が二本しか入らないという欠点以外は完璧でしたね」
『盾としても失敗作じゃないですかね』
「常に手で狐を作っているみたいな持ち方でしたからね」
『皿を透かして見たらさぞかしシュールな光景だったんでしょうね』
「ちなみにオプションでステルス化した時の写真がこちら」
『剣を構えた勇者が反対の手で狐の形をしていますね』
「別の指も試したようですが、こちらのように」
『ピースサインですね』
「なおこのステルス化は勇者にだけは勘付かれなくなるという高性能なオプションです」
『なんて意味の無い悪戯』
「対峙する敵に一体何事かと考えさせる効果がありましたよ」
『一理ある』
「実際それで動きが止まった瞬間に勇者が倒す、なんて戦いも一度や二度じゃなかったですからね。最強クラスのコンボですよ」
『そんな方法で油断させられる相手なんて雑魚だけでしょうに』
「魔王は引っかかりましたよ」
『私の発言がフラグになったわけじゃないですよね』
「とは言え流石は魔王、攻撃力全振りの勇者の攻撃を受けてもまだまだ元気でした。いやあ互いに凄い猛攻でしたよ」
『そんな猛攻を皿で受け止める勇者と言うのも変な話ですがね』
「手始めに魔王は隕石を降らせる魔法を使いますが、そんな攻撃で俺は割れません」
『普通は割れるんですがね』
「それにその手段は既にコレワッタルが試していました」
『なんで陶芸家が隕石を降らせる魔法を使えるんでしょうか』
「続いて魔王は万物を貫く世界最強の槍を取り出し穿ちます、しかし俺は貫けません」
『矛盾の話を思い出しますね』
「それにその手段も既にコレワッタルが試していました」
『なんで陶芸家が万物を貫く世界最強の槍を持っていたのでしょうか、そもそも二本目ですし』
「勇者の防御を崩せずに焦る魔王、様々な手段を試みますが全て通用しません。全てがコレワッタルが試していたものです」
『魔王のとれる手段を全て再現できる陶芸家の存在が謎ですね』
「ああ、その世界を創った神様が人間に変身した時の姿です」
『世界を創った神を全治半年にしてくれたんですか』
「いよいよ勝負も終局を迎えます、高々と飛び上がる勇者、そして翼の生える俺」
『飛んだ皿がいるように見えるのですが』
「そして勝負は決着、勇者の攻撃が蓄積され魔王はついに倒されました」
『あらゆる攻撃が通じないのでは仕方がありませんね』
「その後勇者はその功績を称えられ世界の各地に銅像が作られる程に有名になりました。これ銅像の写真です」
『両手で狐を作っている謎のポーズをした勇者の像ですね。ステルス化は解かなかったのですね』
「なにせあの構えで魔王を倒したのですからね、後に勇者の構えとして歴史に残されることになります」
『勇者も良く納得しましたね』
「俺も勇者の盾としての役割は終わり、普通の皿生活が始まります」
『取っ手のせいで傾いて料理が盛り付けられない失敗作だというのに』
「手放しでも傾くのでインス○映えはしましたけどね」
『ファンタジー世界にインス○グラムがあったんですか』
「ええ、勇者の趣味がインス○映えする写真撮影でしたからそこそこ重宝されましたね」
『銅像に納得した理由がなんとなく分かりました』
「ちなみに俺の最後は良いアングルで撮影しようとした際に端っこに置いたせいで落ちて割れました」
『隕石や万物を貫く槍すら通じない皿が落下で割れたと』
「そりゃあ反発係数操作や他のオプションを起動している間はあらゆる攻撃を捌けましたけど、油断していたらただの皿ですからね。いやあ油断しましたよ」
『ただの皿は魔王や神の攻撃を防げないんですがね』
「お土産ですが勇者の写真集とコレワッタルの陶芸作品がありますけど」
『どちらもあまり欲しくないですが……ああでも陶芸作品の方は中々悪くありませんね』
「勇者の写真集も結構良い出来ですよ」
『どれどれ、ああ勇者を写した写真集ではなく勇者が撮影した写真ですか。確かに良い構図で素晴らしい写真集ですね』
「あと俺の残骸の取っ手もお土産に」
『それはいりません』
◇
『以前の転生先の神から苦情が来ました、こちらお手紙です』
「なになに、割れないのは良いが取っ手は大きくしろ、水平に置けるように工夫すべきだ。だそうです」
『皿に対するクレームだとは』
「次があれば考慮するとしましょうかね」
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