第十五話:『カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気』

「あけまして」

『言いませんよ』

「おめでとうございます」

『一人で言い切りましたか』

「折角の新年だというのにつれないですね」

『一体何度新年を迎えていると思っているのですか』

「同じ新年はないんですよ、女神様の晴れ着とか見たいです」

『生憎一張羅なので』

「洗わないんですか、入浴とかで離席していた気がするのですが」

『女神パワーで入浴中に綺麗にアイロンがけまで可能ですから』

「何と言うか微笑ましい、さあお正月のイベントと言えばお年玉」

『あげませんよ』

「あげるのは俺ですよ」

『私の方が年上なのですが、私の姿が未成熟だと言いたいのでしょうか』

「外見年齢では俺の方が上じゃないですか、そう直ぐに重力二十倍にしないでくださいよ」

『涼しい顔で耐えていますけど人間と言うことを忘れていませんでしょうか』

「やせ我慢ですよ、ちなみに現金を渡したところで女神様には価値が無いので本当に玉を用意しました。はいお手をどうぞ、ぽとっと」

『文字通りの落とし玉ですか、綺麗な玉ですね。これは一体』

「……鉱石を丸めて磨いた物です」

『謎の沈黙が怪しい』

「いえ、軽いジョークを挟もうと思ったのですがうっかり砕かれると困るので素直に言うことにしました」

『正しい判断です、ちなみにどのような冗談を交えようとしたのでしょうか』

「○結石とか」

『貴方ごと砕いていましたね、それはそうと年明けついでに異世界転生のお時間です』

「それでは目安箱を、いやあ新年初の異世界転生はドキドキしますね」

『おみくじじゃないんですから』

「似たような物ですよ、さあ今年の運勢はっと。犬狼牙 クロツチさんより『カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気』」

『概念体と呼ぶべきでしょうか』

「あ、このお題の人時計塔の秒針の人ですね」

『そう言えばそんな名前でしたね。まさかのリピーター』

「時計塔の秒針の時と言い、カップルに恨みでもあるんですかねこの人」

『時計塔の秒針のお題を投稿した時はまさか秒針がカップルに魔法を打ち込む存在になるとは想像していなかったと思いますよ』

「ではオプション決めましょうか。ふーむ、概念でどう攻略したものか……悩みますね」

『概念で攻略すると言うことを悩むべきなのですがね』

「オプションとしてはこんなものかな、それじゃあおせちを用意してあるので食べておいてください」

『気が利きますね、いただきましょう』



『ふむ、ふと彼の言葉を思い出して晴れ着を用意してみましたがやはり窮屈ですね。いつもの格好の方が落ち着きます』

「ただいま戻りました。あ、晴れ着ですか」

『神々の集いの気紛れで晴れ着を用意することになりましたので』

「とてもお似合いです、馬子にも衣装と言った感じです」

『嫌味でしょうか、貴方を門松にして飾っても良いのですが』

「純粋に褒めているだけですよ、それでは報告しますね」

『カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気でしたか、哀愁漂う存在ですね』

「はい、なので先ずは試しにBGMでサンバを流してみました」

『さっそく気まずい雰囲気が壊れましたね』

「いえ、突如音楽が鳴り出して振り返ったカップルの視線を浴びた独身男性は非常に気まずい思いをしていましたよ」

『追い討ちもいいところですね』

「ちなみに概念体となったのでその街の独身男性が該当する状況になったら現れる感じとなっております」

『概念体のあり方に手馴れている人間と言うのも不思議なものですね』

「ただ気まずいだけでは可哀想なのでどうにか改善できないものかと試行錯誤してみました」

『それでサンバですか』

「デスメタルも試しましたが似たような反応でしたね」

『騒音ですからね』

「ラブソングを流しても一緒でしたよ」

『カップルからすれば割り込み行為ですからね。それで喜ぶカップルはミュージカル世界出身の人です』

「音を出すとやはりカップルが気づいちゃいますからね、背後に寂しく座っている独身男性がいればキスなんてしませんからね」

『その状況でキス出来るのは見せ付けたい意地の悪いカップルなので妨害しても許されそうですね』

「とは言え音で妨害すると独身男性に非難が向けられますからね」

『独身男性もまさか自分のかもし出している雰囲気からBGMが流れるとは思わないでしょうからね』

「そこで今度は雰囲気の演出を派手にしてみました、こちら写真です」

『幸せそうなカップルがキスをしている後ろで後光を放って座っている独身男性の姿が、神が光臨したようにしか見えませんね』

「他にもバリエーションを用意してみました、先ずはホラー風」

『幸せそうなカップルがキスをしている後ろで殺意を纏ったようなオーラを出している独身男性が座っていますね。この後起きる悲劇の黒幕にしか見えませんね』

「あとはコミカル感じにしようとしたらこうなりました」

『幸せそうなカップルがキスをしている後ろで独身男性がショートコントを始めそうな感じですね』

「ちなみにこの後独身男性は見事にショートコントを披露して見せましたよ」

『勇気ある独身男性ですね』

「勇者ですからね」

『ファンタジー世界でしたか、そう言えば異世界転生でしたね』

「ハーレム世界の勇者になった人ぽかったのですがどうも奇妙な因果により自分の周りがハーレムになりやすくなってしまったらしいです」

『言われなくても貴方のせいな気がします』

「勇者に関するオプションは殆ど入れてないのですが、『勇者の装備品となる』とかはありますが」

『それでしょうね』

「ちなみにカップルの背後でいきなりショートコントを行った勇者はカップルにドン引きされることになるのですが」

『想像に容易い、いやショートコントのくだりを簡単に想像してしまう自分の適応力が悲しい』

「周囲に居た独身男性達には大うけします」

『カップルが独身男性に囲まれていましたか、よくその状況でキスをしようと思いましたね』

「この奇跡に驚いた勇者ですが大うけしたことからコメディアンへの道を目指します」

『また一人の人生を狂わせてしまった気がしますね』

「しかし俺はカップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気、条件が満たされなければ姿を現すことができません」

『雰囲気が姿を見せないでください』

「勇者は困りました、あの雰囲気でなければ自分のギャグは活かせない。このままでは一年だけ大喝采を浴びるだけの一発屋芸人で終ってしまうと」

『一年だけでも大喝采を浴びれる自信があるのは凄いですね』

「ですが流石は勇者、その高い知能を活かし俺と言う存在に気づいたのです」

『芸人として生きようとする勇者を賢いと褒めるべきか悩みますね』

「勇者は考えます、カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気を再現できるようにすればいつでもネタを披露できるのではと」

『ちょっと長いので省略してください』

「ジェラシーオーラ、JAとしましょうか」

『イニシャルだけだとややこしいのでジェラシーオーラで良いですよ』

「勇者は一組のラブラブカップルを金で雇います」

『金で雇われたカップルは何か思うことは無かったのでしょうか』

「自分達のラブラブっぷりを独り身の連中に見せ付けられるなら構わないとの事でした」

『破局してしまえ』

「しかしこれで勇者は望んだジェラシーオーラ、つまり俺を自由に呼び出すことに成功したのです」

『貴方もよく応えましたね』

「勇者のネタが面白かったので」

『才能はあったのですね』

「独身勇者ジョークは子供も老人も真似をするほどの流行になりましたからね」

『独身勇者ジョーク、確かに一度くらいは見てみたい気がします』

「ちなみに勇者の名前はジヨークです」

『コメディアンになるために生まれたような名前ですね』

「ジヨークのジョークは人気で、何故かジヨークの前でずっとカップルがキスをしているのが邪魔だと言う欠点はありましたが直ぐに有名になっていきます」

『毎回カップルがキスをする後ろでネタを披露している芸人と言うのも中々新鮮ですね』

「しかもジヨークは座りながらネタを披露しないといけませんからね、終始正座でした」

『それって落語では』

「ちなみに漫才トリオとしてデビューしております」

『なんて関連図が悲しい漫才トリオ』

「しかしこの勇者ジヨークの人気を妬む者が現れます、魔王ギャッグです」

『さてはこの世界お笑い系ですね』

「ちなみにこちらの方です」

『後光が差してた独身男性ですね、なんか角が生えているなとは思いました』

「芸人生活百三十年の魔王ギャッグも後光ネタでブームを狙っていました」

『凄い玄人芸人ですね』

「しかしその後光ネタを使用するにはカップルがキスしている光景を前に置く必要があったのです」

『ネタ被りになってますね』

「それ以前に後光が強すぎてカップルすらシルエットになっていましたから、うけは悪かったです」

『貴方が調整すれば良い話ですよね』

「嫉妬に狂った魔王ギャッグは勇者ジヨークの鉄板ネタを失わせるため、カップル達を破局させようと画策します」

『頭が狂ってませんかね』

「それを阻止しようと勇者ジヨークは果敢に立ち向かいます、椅子に座ったまま」

『立ったら効果が失われますからね』

「そして勇者と魔王のコントバトルが始まります」

『凄い穏便な争い』

「互いに俺の力を最大限活かそうとカップルがキスをする後ろでネタを披露しあいギャラリーを沸かせていきます」

『なんて図だ』

「俺は両者の脳内に描かれている光景、音楽を即座に再現、勝負は両者のセンスのレベルに委ねられます」

『ある意味貴方が一番優秀ですね』

「途中からは俺がお題を出して、大喜利形式のバトルになりました」

『笑○でしょうかね、そしてしれっと喋り出した雰囲気』

「勝負の決着は先に面白いネタを披露し、その際に与えられる座布団を十枚積み重ねた方の勝ち。互いに一進一退の攻防です」

『○点ですね、カップルがキスしてる後ろで大喜利している笑○ですよね』

「互いに世界を制する力を持つ勇者と魔王だけあって座布団はどんどん重なっていきます」

『世界を制する力がお笑いにも通用するとは思いませんでしたがね』

「そして突如奪われる座布団」

『山○君もいましたか』

「まあ俺なんですけど」

『裏方仕事していますね』

「しかしついに決着の時を迎えます。勇者ジヨークの鉄板ジョークであるミュルポッヘチョクチョンが炸裂したのです」

『今始めて聞きましたよミュルポッヘチョクチョン』

「ミュルポッヘチョクチョンの破壊力は絶大で完全にギャラリーの心を掴みました。その勢いで座布団を十枚積み重ねた勇者ジヨークは魔王ギャッグとの勝負に勝利を収めました」

『ミュルポッヘチョクチョンってなんですか』

「敗北した魔王は爽やかに言います。負けたぜ、ここでミュルポッヘチョクチョンを出されちゃ勝てねぇなと」

『ミュルポッヘチョクチョンとは』

「この戦いは伝説となり、ミュルポッヘチョクチョンを決めた時の勇者ジヨークの銅像が立てられるほどでした」

『さては言う気がありませんね』

「俺じゃ上手く伝えられないんですよミュルポッヘチョクチョン」

『魔王を倒した鉄板ジョークですからねミュルポッヘチョクチョン』

「その後の展開ですが結局カップルは破局します」

『ざまあみろ、と言う前に何があったのでしょうか』

「ラブラブを見せ付けたかったのに皆背後の独身男性のネタを見ていたからですね、そこから自分達の愛が劣化しているのではと考え始めたのが発端です」

『お笑いを見に来た人からすれば障害物でしかないですからねカップルのキスは。しかしそうなると勇者はもう満足にネタを披露できないのでは』

「新しいカップルを雇いました」

『魔王もその発想に辿り着ければ争う必要も無かったでしょうに』

「こうして勇者ジヨークは世界的にヒットし、人気芸人となりましたがいよいよ俺の最後の時が来ます」

『カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気にどうすれば最後の時が』

「座っている独身男性の前でキスをすることがジョークの前フリ行為として世界の常識として定着されてしまい、人前でいちゃつくカップルが消滅したのです」

『勇者の影響力も馬鹿にできませんね』

「俺の消滅の危機を感じ取った勇者ジヨークは楽屋でポツリと言いました」

『そんな意味不明な消滅の危機を感じ取れる勇者も中々凄いですね』

「なんでこんな概念に異世界転生してるんだよお前って」

『よもやまともなツッコミが入るとは』

「だが魔王とお笑いで競い合うこんな酔狂な世界にとってはお前さんは良いアクセントだったぜと」

『この勇者も異世界転生者だったのでしょうかね』

「その後勇者は魔王とのコンビを結成して新ネタで上手いこと人気を保っているそうです」

『まとまったといえばまとまりましたね』

「そうそう、お土産ですが勇者ジヨークと魔王ギャッグのライブビデオです」

『晴れ着のままですし、後で見ましょうか』

「ちなみにミュルポッヘチョクチョンも入ってますよ」

『何をしているんです、こたつとテレビを用意しなさい。一緒に見ますよ』

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