第九話:『ヒロインの左耳』
「大きくなれよー、ググゲグデレスタフ」
『世界中の苗に変な名前をつけないでください』
「そうは言いますけどふっと湧いた名前なんですよ」
『そんな数話登場してさっさと退場しそうな悪魔の名前みたいな名前に愛着なんて湧かないでしょう』
※異世界でも無難に生きたい症候群、小説家になろう100話毎日更新までもう少しです。
「でしたら募集しますか」
『ろくな名前が来ないのが分かりきっているので却下です』
「目安箱に投函している人たちはきっと面白くなるだろうと、いやお題が面白いだろうと投函しているんですよ」
『そんなにハードル上げるとお題来なくなりますよ』
「お題なんて適当で良いんですよ、どんどん気軽に書いてください。ほら貴方の机の上にあるものでもいいので」
『自分の人生になるのにこの媚びよう』
「どうせ俺が上手いこと立ち回れば良いだけなんですよ」
『上手く立ち回っているような気もしなくはないのですが、今までのを上手く立ち回っていると評価した場合、上手さと言う定義について自問自答したくなるので止めておきます』
「そうだ、異世界転生している間はググゲグデレスタフへの水やりをお願いしても良いですか」
『世界樹の苗への水やりならば考えても良かったのですがその名前はちょっと嫌ですね』
「仕方ない、自動的に水を与える装置を作ろう」
『数十年単位の異世界転生の間、水を与え続ける装置なんて作れるのですか』
「できました」
『早い』
「伊達に時計の秒針になっていませんでしたからね」
『伊達ですね』
「十二の時を刻む度に水魔法を打ち込む装置です」
『伊達じゃなかった、しかし撤去します』
「そんな力作なのに」
『この場所が水満たしになります、私が水を与えておくので我慢してください』
「では目安箱を引きましょう。そろそろ女の子との絡みが欲しいですね」
『色恋が無ければ満足できない貴方にとっては必要かもしれないと思い始めているのが辛い所です』
「じゃーん、あのねのねさんより『ヒロインの左耳』」
『女の子の体になりましたね、おめでとうございます』
「これはどう責めるか悩みますね」
『悩まないでください、そして責めないように』
「とりあえずオプションをつけますか、全身性感帯にしてっと」
『外します』
「そんな、耳が弱いヒロインなんていくらでもいるのに」
『肋骨の件で貴方を信用していません、色恋は認めますが色欲は認めません』
「無念、あ、でも譲れないことが一つ」
『なんでしょうか』
「勇者が耳フェチではないと言うオプションは追加してください、勇者になめられたくありません」
『仕方ありませんね、入れておきます』
「そんな、中身男なんですよヒロイン。あ、外せない」
『の左耳が抜けています、流石にヒロインは女性にしますよ』
「そう言ってこっそり男にしないでくださいね」
『仕方ありませんね』
「油断も隙もないな」
『貴方にそう言われたら少し自信が持てますね』
「ピアス穴とか空けられたくないですね、あと耳たぶの触感は極上にしておきたい所ですね」
『耳の造形のオプションばかりですね、おかしなオプションつけられても困りますが』
「声を出すのは今回はなしにしましょうか、流石に俺の声でヒロインをノイローゼにするのは気が引けます」
『正しい判断です』
「なので念話にして啓示のようにしようと思います」
『どの道ノイローゼになる未来が見えたので外します』
「そんな、大丈夫ですってば、そんなに話しかけませんから」
『では一ヶ月に一回、一分だけにしますが構いませんね』
「わかりました、それでは行って来ます」
◇
『ググゲグデレスタフ、水の時間ですよ。美味しいですか、そうですか。それにしても貴方は成長が遅いですね、まるで彼のようですね、ふふっ』
「ただいま戻りました」
『ググゲグデレスタフとか毎度毎度名前呼ぶのが面倒なんですよ、硫酸でも浴びせてやりましょうか』
「帰ってくるなり修羅場」
『こほん、やはりダメでしたか』
「途中で冷静になってヒロインと結ばれないことに気付いてしましまして」
『最初から気づくべきでしたね』
「ちなみにリープリスと言う名前のヒロインで勇者のメインヒロインでした」
『今のところ正統派ですね』
「ジョブは聖職者」
『正統派としては少し珍しいでしょうか』
「武器は死体」
『ネクロマンサーって言葉をご存知でしょうか』
「知っていますよ」
『そのヒロインはネクロマンサーなのではないでしょうか』
「いいえ、聖職者ですよ」
『死体で戦っているのにですか』
「はい、魔物の死体を掴んで振り回していました」
『ネクロマンサーもビックリですね。何故そんな物騒なヒロインに』
「良く分かりませんけど、多分個性を出すためでしょうか」
『そんな個性は誰の得にもならないと思いますけどね』
「俺とリープリスとの出会いは彼女が12才の時です」
『それまでは大人しくしていたのですね』
「彼女が言葉を理解していなかったので空音にしか聞こえていなかったのです」
『随分と成長の遅いヒロインですね』
「山育ちでしたから」
『聖職者とは一体』
「リープリスは山に捨てられた赤子だったのですが、運よく魔物に拾われ育てられたのです。そして10才の頃に人間達に発見され保護されます」
『中々壮絶な過去ですね』
「ちなみに育ての親だった魔物は後の魔王の右腕である紅鮭鬼スペシャスと言う者です」
『まさかの再会』
「おや、ご存知で」
『貴方の察しの悪さに恐怖を覚えます』
「スペシャスは人間を容赦なく殺せる男、しかし赤子だった彼女を殺すのには躊躇して育ててしまったのです。あと海産物にやや拘りが見える気がしました」
『間違いなく拘っているでしょうね』
「ですが人間の娘をいつまでも育てるわけにもいかないとあえて人間達にリープリスを発見させ保護させたのです」
『良い話ですね、細かい点は目を瞑りましょう』
「リープリスは聖職者が運営する教会で育てられ12才になる頃には日常会話を行えるまでに成長しました」
『二年間での成長を考えれば十分でしょうか』
「あとついでに蘇生魔法を取得します」
『日常会話の難易度が気になりますね』
「そして最初の啓示なのですが、これを使いましょうか」
【リープリス、リープリスよ、聞こえますか】
『以前消した筈の力を取り戻してますね』
「主人公っぽくありませんかね」
『主人公はシステムウインドウごしに話しかけてきません』
【啓示を与えます、貴方は勇者の求めている女性となれます。自分を磨きなさい】
『啓示とは通常では知りえないことを知りえるのですが、とんだ啓示もあったものですね』
【さあ、ハーレムの中でトップを目指すのですよリープリス】
『ハーレム系の勇者でしたか』
「リープリスはその啓示をまんまと信じ、自分磨きをはじめます」
『まんまと信じましたか』
「俺もリープリスの幸せのために厳しい啓示を繰り返しましたよ」
『生まれた直後から一緒にいれば殆ど親のような気持ちになるでしょうからね』
【リープリスよ、今の貴方は勇者にとって道端に転がっている石以下です。その程度のヒロイン力でメインヒロインの座を狙おうなど片腹痛いわ】
『思ったより厳しい』
「世界が求めている勇者と共に冒険をしたいと言う夢を持っていたリープリスは俺の啓示を素直に受け止めます」
『良い子ですね』
【その程度の個性で勇者の記憶に残るとでも思っているのか、大根握って戦う奴の方が数倍印象に残るわ。お前は魔物の死体でも振り回していろ】
『やはり貴方のせいでしたか』
「15才の時には国内でも有名な美少女となりました」
『死体を武器にしていたら有名でしょうね』
「ええ、どういうわけか」
『言葉に責任を持たない人ですね』
「若くして恐ろしい強さ、美少女、死体を武器にするという斬新さを備えたリープリスの噂をしった勇者が接触してくるのは時間の問題でした」
『最後のは怖いもの見たさでしょうけどね』
「勇者と邂逅したリープリスは一目で胸を打たれました」
『一目惚れですか』
「勇者のモットーは先手必勝でしたから」
『攻撃でしたか』
「丁度装備していたのがアンデットの死体で勘違いされたのでしょう」
『勘違い、いや、うーん』
「しかし俺が鍛えたリープリスは勇者如きの攻撃では簡単には倒れません」
『勇者を如き扱いするヒロインとは』
「激戦を繰り広げリープリスはついに勇者の心を掴むことに成功しました」
『何故に、強い女性が好きだったのでしょうか』
「いえ、精神を掴み握りつぶすと言う魔法です」
『決着と言う意味のついにでしたか』
「こうして勇者を降したリープリスはメインヒロインとしての座を獲得します」
『メインヒロインになる条件に勇者を倒すとは一行も書かれていませんよ』
「そして彼女の冒険が始まったのです。勇者を引きずって」
『勇者の死体じゃないですよねそれ』
「大丈夫です、息はあります」
『大丈夫そうに聞こえませんね』
「次々と現れる強敵でしたがリープリスは次々と勇者と協力して相手を撃破していきます」
『勇者を倒せる聖職者と勇者ですからね、パーティとしては優秀でしょうね』
「メインヒロインの座を明け渡すことなく勇者はハーレムを増強していきました」
『ヒロイン達を倒していたのですか』
「最初は仲間を増やすのが定石ですよ」
『唐突の正論が憎らしい』
「そして序章も終わりいよいよ魔王軍との戦いの舞台へと物語はシフトしていきます」
『勇者としてはお腹一杯になりそうな序章だったでしょうね』
「魔王軍はとても強大、そして狡猾でした。特に厄介だったのが紅鮭鬼スペシャス」
『出てきましたね、ヒロインの育ての親』
「奴の強さ、計略の狡猾さ、とても魔王の右腕に納まるような器ではありませんでした」
『でしょうね』
「きっと奴は異世界転生者だったと思います、それも何度も経験している」
『でしょうね』
「本当に苦戦しましたよ、二度と会いたくないものです」
『無理でしょうね』
「リープリスが奴を覚えていたと言うのも問題でした、自分を育ててくれた恩をしっかりと覚えていたのです」
『義理堅いヒロインですね』
「ですがスペシャスは自分の役割を果たそうと戦います、このままではリープリスが殺されてしまうと俺は啓示で励まします」
【あんな魚類さっさと処理して天日干しにしなさい。ほら握りやすい尻尾をしているでしょう、良い武器になりますよ】
『啓示がクズい』
「啓示の助けを得て勇者とリープリスは紅鮭鬼スペシャスを打ち倒します」
『リープリスの啓示への対応が素直すぎて心配になりますね』
「最強の武器を手に入れ、いよいよ魔王との決戦が始まります」
『構図が酷い、そして彼はまた異世界転生でしょうね』
「しかしここに来て勇者の持病の発作が起きてしまいます」
『今まで語られていなかった持病が急にでしゃばってきましたね』
「耳に欲情せずにはいられない呪いです」
『おっと、私のせいでした』
「次々と勇者に襲われ倒れるヒロイン達」
『襲われの意味が下ネタだったら怒りますが』
「全員耳が弱点だったようで」
『そんな馬鹿な』
「全身性感帯を希望する異世界転生者ばかりだったので」
『そんな馬鹿ばかりでしたか』
「しかりリープリスは耳を責められても動じません」
『私がオプション外しましたからね、たまには役立ちました』
「無事勇者を鎮めることにことに成功しましたが仲間の殆どが満足に戦えない状態に」
『男の仲間はいなかったのでしょうか』
「女を大量に引き連れた勇者のパーティに入りたい男性とかいませんよ」
『それもそうですね、ちなみに女性は何人でしょうか』
「リープリスを入れて58人ですね」
『節操無さ過ぎですね勇者』
「結局勇者とリープリスの二人で魔王の元へ向かうことになります」
『57人の耳を責められてダウンしたヒロイン達、光景が酷い』
「あ、正確には紅鮭鬼スペシャスも一緒ですね」
『武器としてですよね、置いていってあげればいいのに』
「そしていよいよ魔王レフトドアとの戦いが始まります」
『そいつ異世界転生者ですね』
「なんと、分かるのですか」
『他人への興味低すぎませんかね』
「俺の心はいつも女神様で埋まっていますので」
『この流れで喜んだら私は人として失格です』
「女神では」
『女神としても失格です』
「魔王はとても強く、リープリスも苦戦してしまいます」
『相手は異世界転生者の魔王ですからね、当然厄介でしょう』
「慣れない二刀流と言うのもありますね」
『勇者死んでませんか、それ』
「窮地に追い込まれるリープリスでしたが魔王の動きが突如鈍ります、リープリスはそこを逃さずに逆転の一撃を繰り出しました」
『何かあったのでしょうか』
「いえ、それがさっぱり。リープリスの背後に何かを見たようでしたが後ろには扉しかありませんでした」
『右側に立っていたでしょう』
「なんと、よくお分かりで」
『分からいでか、トラウマになってるじゃないですか』
「多少謎の残った勝利でしたが世界は無事平和になりました」
『私の中では完全解明されてますけどね』
「勇者はリープリスの蘇生魔法で生き返ります」
『ついでに覚えた魔法が役立ちましたね、紅鮭鬼スペシャスも生き返らせてあげてください』
「それが、スペシャスの死体は魔王を打ち倒した際に」
『砕けてしまいましたか』
「魔王に突き刺さって抜けなくなりました」
『紅鮭に貫かれたまま死んだ魔王とか異世界転生待った無しですね』
「リープリスは魔王を打ち倒した勇者と末永く幸せに暮らしました」
『倒したの彼女ですよね、紅鮭で』
「娘を嫁にやる気分でしたが、勇者も悪い奴ではなかったので俺としては仕方なくと言った感じでしたね」
『仕方ががないのは貴方ですけどね、とは言え勇者もヒロインが58人と言う時点でまともじゃない気がしますが』
「とりあえず俺への被害は最小限に、啓示を上手く使い右耳メインで手を出させました」
『啓示の無駄遣いですね』
「ただまあ、男に欲情される人生ってなんだろうなと言うことで戻ってきました」
『私としては悪くないと思いますけどね』
「そしてお土産ですが」
『紅鮭だったら返品させます』
「魔王に突き刺さって抜けませんでしたよ」
『そうでしたね、それでは一体何を』
「リープリスの装備していた」
『返してきなさい』
「イヤリングをば」
『紛らわしい』
「長く生きたリープリスはやがて俺の存在に気づいたようで、『貴方には本当にお世話になった、子供の頃から着けていたイヤリングをどうぞお土産に』と」
『良い子でしたね』
「ええ、年老いてもなお勇者の死体を武器に戦い抜いた子でした」
『撤回します』
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